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LGBTQの働き方をケアする本

宮川直己
トランスジェンダー当事者
組織の生産性向上と人間関係改善をサポートするメンタルコーチ
株式会社マクアケデザイン代表取締役
九州大学文学部卒(人間科学科地域福祉社会学専攻)


1.LGBTQの働き方をケアするために必要なこととは?

「LGBTQの働き方をケアする本」。このタイトルに心を惹かれた方も多いでしょう。でも、そもそも「LGBTQ」とは何を意味するのでしょうか? まず、その基本から見ていきましょう。

LGBTQとは、Lがレズビアン(Lesbian:女性の同性愛者)、Gがゲイ(Gay:男性の同性愛者)、Bがバイセクシュアル(Bisexual:両性愛者)、Tがトランスジェンダー(Transgender:身体の性別と自己の認識する性が一致しない人)、そしてQがクエスチョニング(性的指向や性自認がはっきりしていない、あるいは決めたくない人)の頭文字から成り立つ言葉です。これらは総じて「性的少数者」や「セクシャルマイノリティ」と呼ばれ、彼らの存在は私たちの社会において重要な位置を占めています。

企業に求められるLGBTQの理解と意識

現代の企業は、ただ製品やサービスを提供するだけでなく、多様な価値観や背景を持つ人々と共に歩むことが求められています。調査によれば、多くの企業にはLGBTQの従業員、取引先、消費者、株主など、様々な関係者が存在しています。そのため、LGBTQを理解し、意識した経営が必要とされるのです。

特に注目すべきは「LGBTQの従業員への対応」です。優秀な人材の確保や法的リスクの回避など、企業にとって重要な経営課題となっています。本書の著者は、LGBTQを理解するための3つの原則を挙げています。

LGBTQを理解するための3原則

  1. 性的指向や性自認は本人の認識によってのみ決まる
    性的指向や性自認は、性別や医師の診断によって決まるものではありません。あくまで本人がどう認識しているかが重要であり、この理解が基本となります。

  2. 性的指向や性自認は変えることはできない
    性的指向や性自認は、個人の努力や治療によって変えられるものではありません。LGBTQは病気でも障害でもないことが国際的な基準となっています。

  3. 性的指向や性自認の尊重は人権である
    性的指向や性自認が尊重されることは、基本的人権の一部です。これらが尊重されないことによる差別や偏見、不利益な取り扱いは人権問題であり、国連や各国政府、自治体、当事者団体などが問題解決に向けて取り組んでいます。

本書「LGBTQの働き方をケアする本」は、企業がどのようにしてLGBTQの理解を深め、働きやすい環境を作り上げるかについて具体的なアドバイスを提供しています。LGBTQの存在を尊重し、多様性を受け入れることで、企業は新たな価値を生み出し、より良い社会を築くことができるのです。

2.職場で部下がLGBTQとカミングアウトした時の対応: 4つのステップ

近年、職場のダイバーシティとインクルージョンが求められる中、LGBTQの部下がカミングアウトしてくる場面に遭遇することも増えてきました。しかし、その時企業は一体どのように対応すべきなのでしょうか?著者が提唱する「カミングアウトを受けた時の対応」には、次の4つのステップがあります。

ステップ1 黙って聴く

まずは、「本人の話をしっかりと聴く」ことが最も重要です。ただし、ここでのポイントは「黙って聴く」こと。部下は「受け入れてもらえるだろうか」「否定されないだろうか」といった不安を抱えながら勇気を出して打ち明けています。だからこそ、あなたはその話を遮らず、質問やコメントを控え、ただ静かに耳を傾けることが求められます。「あなたの話を聞きたい」という姿勢を示すことが、部下の心を開く第一歩となります。

ステップ2 「話してくれてありがとう」と伝える

次に、部下が話し終えたら、まずは感謝の意を伝えましょう。「とても大切なことを話してくださってありがとうございます。」と、カミングアウトに対するねぎらいと承認の言葉を贈るのです。リスクを伴うカミングアウトであなたを選んで話してくれたという事実を大切に受け止め、心情を想像しながら「大切なことを話していただけて嬉しかったです」と伝えることで、信頼関係をより深めることができます。

ステップ3 「秘密は守ります」と約束する

感謝の気持ちを伝えた後は、「今日お話してくださったことは、○○さんの承諾なく、他の誰かに口外することは一切ありませんので安心してください」と約束します。この約束は、部下を安心させるだけでなく、あなた自身に対してもアウティング防止の意識を高める効果があります。合理的な理由で情報共有が必要になった場合でも、必ず本人に確認をとることを徹底しましょう。

ステップ4 詳細ヒアリングの提案

カミングアウトをするということは、職場に対して何かしらの配慮を求めている証です。適切な対応を行うためには、本人の要望や状況を正確に把握する必要があります。そのため、日を改めて「詳細ヒアリング」を提案しましょう。2回目の面談で詳細ヒアリングを行い、3回目以降の面談では企業としての対応方針の伝達、進捗共有、意見調整を行うことが大切です。


この4つのステップを実践することで、LGBTQの部下が安心して働ける環境を作り出すことができます。

3.

LGBTQ部下を持つ上司が求められるのは、差別やハラスメントを未然に防ぎ、健全な職場環境を維持することです。しかし、ただ「かわいそうな存在」として特別扱いするのではなく、部下としての可能性を引き出すことが重要です。ここでは、LGBTQ部下のモチベーションを高める「期待のかけ方」についてご紹介します。

まずは「期待を言葉で伝える」ことが鍵となります。「あなたならできる」「期待しているよ」「任せるよ」といった励ましの言葉は、心理学で「ピグマリオン効果」として知られており、部下の自己効力感を高めます。しかし、伝えた瞬間に愛想笑いや不安げな態度が見られた場合は、期待が正しく伝わっていないサインです。部下の具体的な成果や成長を根拠にして、「だから私はあなたのことを信頼しているよ」と改めて伝えましょう。これにより、期待がしっかりと伝わるはずです。

次に、「ネガティブなことも伝える」ことの重要性について考えましょう。ポジティブな期待だけを伝えていては、部下は自分の課題に気づけないかもしれませんし、「上司が迎合している」と感じて信頼を失う可能性もあります。人間は、聞こえのいいことばかりではなく、時には厳しいフィードバックを求めています。ネガティブなフィードバックを適切に伝えることで、ポジティブな評価の信頼性が増し、部下のやる気や能力を引き出すことができるのです。

LGBTQ部下とのコミュニケーションは、特別な配慮と同時に、公正な期待を伝えるバランスが重要です。期待を言葉にして伝え、時にはネガティブなフィードバックも行うことで、部下の成長を支え、生産性を高める環境を作りましょう。

まとめ

現代社会はストレスや不安が増加し、心の健康が重要視されるようになっています。職場や学校でのプレッシャー、人間関係の悩み、デジタル社会の影響など、さまざまな要因がメンタルヘルスに影響を与えています。そのため、心のケアがますます重要となり、カウンセリングやセラピー、マインドフルネス、リラクゼーション法など、様々な対策が広がっています。個々のメンタルヘルスの向上は、全体の幸福度や生産性にも寄与するため、社会全体で心のケアを推進する時代になっているのです。

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