迷い猫

ミケがいない。
近所を探し回ったけど見つからない。電柱に張り紙したけど出てこない。
家出かな、死んじゃったのかな。
動物救急病院に電話した。「うちには来てません。」
保健所に電話した。「そんな猫は保護してません。」
市役所の道路課に電話した。「猫の死骸は回収してません。」
下水処理場に電話した。「処理場には流入してません。」

途方にくれた。
遠い遠い親戚のおじさんに電話した。

すると、電力会社の人がミケの張り紙をコピーして、街中の電柱に張りだした。動物救急病院は、動物救急車で街中を探し始めた。

臨時ニュースが流れた。「猫にまつわる一連の不祥事の責任を取り、知事と市長が辞職」。新しい知事と市長は、直ちにミケちゃん捜索本部を設置した。パトカーがサイレンを鳴らし街中を走る。消防署は屋根の上や煙突の中をくまなく探す。街中のマンホールが開けられ、汚物まぎれで捜索が続く。

7時のニュースが、「ミケちゃん行方不明」と報じた。海外メディアも取り上げた。

政府もミケちゃん対策本部を設置、首相自ら本部長として陣頭指揮をとることとなった。首相官邸や各報道機関、都道府県庁、全国の市役所には、多数のミケちゃん情報が寄せられた。

でも、ミケは見つからない。

そのうち、海上保安庁から、小動物が乗ったゴムボートが北海道沖を漂流中との情報が寄せられた。海上保安庁は、巡視艇を急行させた。海上自衛隊と航空自衛隊も、これに負けじと護衛艦と戦闘機を向かわせた。
米国の軍事衛星からの情報によると、すでに隣国の艦船がゴムボートを捕らえようと猛スピードで日本に向かっているらしい。「首相、人質にするつもりです。」官房長官が耳打ちした。

ついに、公海上で海上自衛隊の護衛艦と隣国の艦船が、ゴムボートを挟んで向き合った。

「このままでは隣国にミケちゃんを取られてしまいます。」

首相は、決断を迫られた。

(続く)

この作品は、逆噴射小説大賞2019に応募するものです。

サポート代は、くまのハルコが大好きなあんぱんを買うために使わせていただきます。