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外来種の駆除は虐殺? 共存のために保護政策を

※10年前にSPA!に書いた原稿。今読んでも、何も状況が変わっていないことがわかる。さらに今は人間が外来種扱いだもんな。我々は業が深い。

「今までも日本で悪さしているヤツがメチャメチャいるんです」
 と日本生態学会の村上興正教授は怒りを込めて言う。村上教授は外来種を駆除すべきという立場だ。
「現在までに2500種以上入って来ているんですよ。その1割が侵略的外来種ってやつで悪さをしている。そのうちの今年2月の時点で指定されているのは148種類です。まだまだ特定外来生物として指定しなければいけないものがいっぱいある」
 特定外来生物とは2004年6月2日に公布された『特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律』に基づいて指定された外来種のことだ。日本の在来種に深刻な影響を与える恐れがあるため、飼育や輸入はもちろん、運搬や保管も禁止されている。悪名高いブラックバスやブルーギルも特定外来生物に指定済みだ。罰則は個人の場合懲役3年以下もしくは300万円以下の罰金とかなり重く、今年8月にはブラックバスを自宅に持ち帰ろうとした釣り人が特定外来生物法違反容疑で逮捕されている。
「今、釣りをすると8~9割が外来種ですね。もう恐ろしい状態です。あちこちの淡水の池を調べてもほとんどが外来種ですね」
 観賞魚を河川に捨てる例も後を絶たない。東京都の川で1.4mのアリゲーターガーが捕獲されたことも。捕獲した川崎河川漁協によると、他に4~5頭の個体が確認されているという。肉食性の同魚が繁殖した場合、数千~数万の稚魚が他種の稚魚や小型魚を食い尽す恐れがある。
「最後はブラックバスとブルーギルの世界になるんです。そうなった池はたくさんあります」

 岐阜大学の向井孝彦教授も外来種は駆除すべきだとの立場だ。
「一つ所にとどまっていれば文句はないのです。他の場所を侵略してその場所の生命を害する外来種を放置すれば、在来の生物の生命はどうなりますか?」
 イネも外来種だが、日本中の湿地帯で繁殖して多様性が崩れるようなことは起きていないと向井教授。人間のコントロール下にあれば問題はないのだ。
「産業利用ならば折り合いをつけて付き合うべきですが、趣味にしか利用されないブラックバスなどは日本から駆逐するべきです」
 ブラックバス被害に悩む琵琶湖では外来種の完全駆除を目指し、漁業では禁止されているビームトロールを使って、在来種ごと一気に引き揚げてはより分け、埋め立て処分や魚粉に加工している。
  国立環境研究所 五箇公一氏は外来種を野放しにすることで、生態系から生物の多様性が失われることを危惧する。
「どこにいっても同じ動物、同じ風景になる。特に日本発のコスモポリタンとしてクズ(雑草)が世界中にはびこる可能性がある」
 日本の在来種も外来種として世界へ広がっているのだ。有名なところではコイがある。コイは欧米では駆除対象だ。何でも食べるため、生態系を壊し、水質汚染を引き起こすとされる。
「外来種問題は、かなりスパンが長い。極端に言えば100年後に途方もない損失を被る可能性がある。
100年後の損失を考えることが出来るか否かが、現代人に問われているのです」
 外来種を駆除することに反対する人々も多い。『太郎の友』の今井真氏は生物を完全に保護する立場をとる。
「外来生物問題とは、人間が他の生物に不当な影響を及ぼした問題であり、外来生物が生態系や人類に被害をもたらしている問題ではありません。反対に、人間が外来生物や在来生態系を破壊している問題なのです」
 三浦半島を中心に広がっているアライグマは元々、ペットとして飼われていたものが放棄され、野生化したといわれる。北関東から東京、神奈川まで生息域を広げるハクビシンも元は毛皮を採取するために養殖されていた個体が逃げ出したとの説が有力だ。農作物に被害を与えたり、繁殖時に家屋で営巣することから糞害を引き起こすため、駆除されている。  外来種によって在来種の個体数が激減することはままある。奄美大島ではジャワマングースが大繁殖、絶滅危惧種のアマミノクロウサギやアマミトゲネズを捕食、個体数を激減させている。だがそもそもジャワマングースはハブを駆除するために連れて来られたのだ。オオヒキガエルは70年代に害虫駆除のために輸入された。しかし毒性が強く悪食なために、在来種に悪影響を及ぼすと現在では大規模な駆除が行われている。外来種問題とは突き詰めれば、人間が原因ではないのか?
「動物は魂と生命と肉体を持ち、苦しみを感じ、生態に応じて生きる欲求を備えています。動物には、人間から苦しめられ、拘束され、生息地から引き離され、生息地を奪われない権利が付与されています。生命と生命を救う人々をゴミクズ同然と考える軽佻浮薄な姿勢が、今日の外来種根絶政策を招いているのです」
 同団体では行政による殺処分の廃止と動物の輸入の全面的禁止、全飼育動物種の保護制度の導入などの保護体制を提議している。

 しかし現実に外来種をすべて駆除することは物理的に不可能だ。わずかな個体数が残っても、いずれは元に戻る。外来種との共存を主張するのは早稲田大学の池田清彦教授。
「どのくらいの費用をかければ効果が上がるのか、たとえばアライグマの農作物被害は500万円程度ですが、数千頭駆除するのに1億円かかります。農家に保証した方が税金が無駄にならない」
 ようはコストパフォーマンスから駆除範囲を決めるべきであり、経済からの視点が必要だという。
「諏訪湖のワカサギも元々は輸入魚ですが、誰も外来種だから駆除しろとは言わないですね。それで儲かっている人がいるからです」 
 さらに外来種の駆除には思想的な危険性もあると指摘する。
「遺伝子汚染という言い方をする人たちがいます。しかし生物には多様性を維持する本能がある。多様性のある方が生き残る率が高いからです。タイワンザルとニホンザルの交配は彼らが好き合ったからで、それを止めることはできないでしょう」
 それに、と池田教授。
「人間も動物です。それなら古来の日本人を守るために外国人との結婚を法律で禁止するんですか?」
  駆除派も共存派も外来種の侵入を水際で止めることでは同じ立場だ。しかし特定外来種ひとつとっても、毎年数十種類が新たに追加されている。検疫する側が果たしてそれだけの種類の生物を判別し、すべて排除することができるのかは疑問だ。そこで池田教授は現在のブラックリスト制からホワイトリスト制へ切り替えを提案する。
「入れてはいけない生物を排除するのがブラックリスト制ですが、これはどんどん長くなっていく。だから入れていい生物のリスト=ホワイトリストを作り、他をすべて入れないようにする」
 動物との共存を理念に掲げるAVANETは言う。
「アライグマがあんなに殺されるのも、人間に被害を与えるから。
自分の生活を守るために殺すんです。被害があったので殺す、というのは心情的には納得できるが動物にも人間にも不幸です」
 第二第三のアライグマを出さないためにはどうすればいいのか? 観賞魚が多摩川に放棄されるのを防ぐため、川崎河川漁協の山崎充哲氏は不要な魚を引き取る『おさかなポスト』を用意した。またアリゲーターガーの見つかった川では流域住民に川の観察を呼びかけ、不法投棄をしにくい環境を作っている。
「人間が飼った生き物は最後まで人間が面倒をみる、そのための仕組みを作る必要があります」
 外来種問題はあくまで人間側の問題なのである。


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