プロ意識について考える

仕事場で時折「プロ意識」「プロとしての自覚」という言い回しが出てくることがある。たいていは「あいつはプロ意識がない、プロとしての自覚に欠けている」というネガティブな用例で使われることが多い言葉だ。今回はこの言葉について取り上げたい。

「プロ意識」「プロとしての自覚」というものが何を指すかは発言者によって異なるが、私の経験上は下記のいずれかを指すと思う。

1. 仕事に責任を持てるかどうか。具体的には顧客やステークホルダーと約束(コミット)した納期・コスト・品質でアウトプット(商品やサービス)を出すことができるかを示す。納期に遅れたりカネをじゃぶじゃぶ使っていたり、どこで知ったのかはっきりせず根拠もないノウハウに頼ったりを繰り返すと前述のネガティブな用例で陰口を叩かれる対象となる。

2. 仕事に誇りを持てるかどうか。具体的にはアウトプット(商品やサービス)に作成者の名前が未来永劫刻まれるとしても、胸を張って「私の作品だ」と世の中に主張できるだけの覚悟があるかを示す。もし「私の名前は伏せてほしい」と後ろめたい気持ちになるならば前述のネガティブな用例で陰口を叩かれる対象となる。

3. 自ら動けるかどうか。具体的には仕事で達成すべきこと、顕在化した課題、顕在化していないが今後起こりうるマイナス要因を把握し、誰に言われるでもなく各事項への対策を立てて実行できるかを示す。上司からの命令に黙々と従うだけで人に言われないと何もできない受け身の姿勢で、その命令が下った理由(なぜ)や目的(何のために)を自分自身の言葉で説明できないのであれば前述のネガティブな用例で陰口を叩かれる対象となる。

4. 仕事の対象者を第一に考えられるかどうか。具体的にはアウトプット(商品やサービス)の購入者・利用者の立場で、使えるアウトプットになっていると考えられるかを示す。顧客に商品やサービスを売る事業者の場合は「顧客ファースト」という表現を用いることもあるかと思う。商品やサービスを開発する人自身が、その商品やサービスを欲しいと思えるか?という視点の話である。売れるかどうかわからないけど、今の自分の技術でつくることができるプロダクトをリリースしよう、というプロダクトファーストで考えていると前述のネガティブな用例で陰口を叩かれる対象となる。

5. 仕事が好きかどうか。具体的には仕事を楽しんでいることが周囲からもわかり、良い仕事ができるよう日々研鑽を重ねているかを示す。仕事の内容に興味がなく、食っていくためのカネ、遊ぶためのカネを得るために職場に嫌々来ていると前述のネガティブな用例で陰口を叩かれる対象となる。

上記の1~5は時に複雑に絡み合い衝突することもある。たとえば4を重視するあまり「顧客のために、顧客の課題解決を最後までやり抜く」と傾倒することで、人件費をじゃぶじゃぶ使い倒して1のコスト意識が薄れてしまうこともある。そのような場合は顧客の責任範囲と自分の責任範囲を線引きして「ここまでは私がやります、あとはそちらでよろしく」と顧客と交渉できてはじめてプロだと認められることもある。プロとアマチュアを比較すると、技術が優れているかどうかではアマチュアの方が優れている場合もある。プロのプロたるゆえんは「自分たちが使えるリソース(ヒト・モノ・カネ・トキ)を把握した上で、その範囲内に収まるようコントロールして、仕事の対象者のメリットが最大値になるようにアウトプットを出せるか」である。

さてここまで述べてこの記事で言いたいことは「社会人たるものプロ意識を持て」というような、大企業の経営者が言いそうなことではない。むしろ逆で、プロ意識というよくわからないけど高尚なものを皆が持っていないと食っていけない社会って生きづらいよね、という話である。就職して働く理由なんて人それぞれで、業務内容にはちっとも興味ないけど生活費を稼ぐために仕方なく働いている人は大勢いるのである。特に就職氷河期を経験した世代は何百社も入社試験を受けてようやく採用してもらえた1社に滑り込んではみたけれど、手あたり次第エントリーシート出したうちの1社だったので何をやってる企業かもよくわからんけど採用してもらえたからここで給料をもらって食いつなごう、という意識で働いてる人だっているのである。そういう人に対して上司が「おまえはプロ意識がない、これ以上伸びる見込みはない、ここでやっていく資格はない」と説教するのはハッピーな社会なのか?という話である。むしろ給料もらうことしか考えず日々だらだら過ごしてる従業員でも活躍できるような仕組みを考えるのが組織や企業や社会の務めと思うのである。

そもそもプロ意識だとか言うけど、自称「プロ意識が高い人」が世界で最もシェアが高い商品やサービスをリリースできているのかい、っていう話なわけで。このプロ意識というやつは従業員を精神的に追い詰める道具に過ぎないのでは、と思うのである。意欲ある者が高みを目指すのは結構、だがその周りには高みなんて見てない興味ない者もいるんだよ、そういう集団でもうまいことやっていくことを考えましょうよと。

もしこの記事の読者が「プロ意識」という言葉を耳にしたら、前述のようなことを言われているんだなと参考にしていただければ幸いである。

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