計算とは何か

数というものを考えるの続編で、今度は計算について取り上げてみる。

まずは記事を読んでいる皆さんに質問。下記の計算結果はいくつになるだろうか。ひっかけ問題やとんちではないので素直な気持ちで計算してもらいたい。
2+5=
8-3=
6+7=
14-9=

では解答を。記事を読んでいる皆さんが日常生活を問題なく送ることができているならば、答えは下記になると思う。
2+5=7
8-3=5
6+7=13
14-9=5

さてここからが本題。上記の解答通りであったならば、ではどのようにしてその解答を導き出したのか思考プロセスを振り返ってみてもらいたい。言い換えれば、どのような計算を経て答えにたどり着いたのかを振り返ってみてもらいたい。

たとえば2+5。記事を読んでいる方が小学1年生だったら、左手の親指と人差し指を曲げて、右手の親指と人差し指と中指と薬指と小指を曲げて、曲げた指がいくつあるか数えたら7本だったから7、という中間処理をしたかもしれない。でもおそらく大多数は、2+5からいきなり7にたどりついたのでは。なぜならば義務教育での反復練習を経て2+5は7になると記憶しているから。

残りの8-3、6+7、14-9も同様だろう。長年の計算経験を経て、等号の左辺が右辺になることを記憶しているから途中経過を省いていきなり答えにたどりつける。繰り上がりと繰り下がりがある計算については、人によっては
6+7=6+(4+3)=6+4+3=10+3=13
14-9=14-(4+5)=14-4-5=10-5=5
という途中経過を経ることもあるだろうか。

なぜこのような話題を出しているかというと、計算って暗記と本質的に同じなのでは?という疑問を抱いたからである。頭の中のデータベースに「2+5=7」というようなレコードを大量に蓄積しておいて、設問ごとに適用可能なレコードを選択する、というのが計算であるならば、日本史や世界史の授業で年表を暗記する(頭の中のデータベースに「1603年 江戸幕府成立」というようなレコードを大量に蓄積しておいて、設問ごとに適用可能なレコードを選択する)のと頭の中の処理に違いはなくて、日本の教育界における文系と理系とでは、頭の中でやってることに違いはないのだから一方が得意で一方が苦手ということはありえないのでは?という疑問を抱いたからである。だって国語も算数も理科も社会も、授業でやることはデータベースへのレコードの追加で、試験でやることはレコードの選択でしょう?

そして受験勉強というのは頭の中のデータベースへのレコードの蓄積と、レコードの選択を高速に行うようデータベースのチューニングをする作業でしょう?

そして出来のいい受験生は、過去問のような「世の中に解法が流布している設問」は高速かつ確実に処理できるけれど、データベース内のどのレコードも適用できない未知の問題や未解決問題や、答えがひとつに定まらずに想像力を働かせていくつもアイデアを出すことが要求されるような設問にはまるで歯が立たない。データベース内のどのレコードも適用できないと判明したら後は「わかりません」「思いつきません」と答えることしかできない。そうでしょう?

そして受験生は学校を卒業して即戦力として期待されて企業に就職してみたら、世の中にあふれる問題は前述の「歯が立たない問題」ばかりでデータベースが役に立たず、企業側が求める「世の中を根本から変える全く新しいソリューション」を生み出すことができない。なぜならば受験勉強の中には「想像する」というスキルを養う機会がなかったから。そうでしょう?

最近書店で見かける本に「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」というものがある。

本の内容は、AIの能力には人間のレベルまで追いつけない限界があると説きつつ、子どもを対象にした能力テストの結果、人間の方が能力が落ちてきてAIに敵わなくなる未来がやってくる、このままじゃまずいぞ、という感じの話である。絵にすると下図のような話である。

さて、前述の「受験勉強というのは頭の中のデータベースへのレコードの蓄積と、レコードの選択を高速に行うようデータベースのチューニングをする作業」というのが正しいのであれば、同じようなことはAIにもできそうに思えるがいかがだろうか。"データベース"というコンピュータ用語を使ったのはAIっぽさを醸し出す狙いだったのだけれども。

そしてデータベースに蓄積できるレコードの量と、選択処理の速度について人とAIが競争したら、AIが勝つだろう。人間は蓄積したレコードを忘却(欠落)することがあるし、老化によって速度が落ちるし。

何が言いたい記事かぼやけつつあるのだけれど、受験戦争と称して「世の中に解法が流布している設問」を解く能力を競っている限りは、人間は想像力を養うことができず、やがてはAIに仕事を奪われることになるのではと悲観しながら、計算とは何かと思いを馳せているのである。

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