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センター試験に臨む君へ

この前、ある高校3年生の最後の指導を終えた。
最後だねーなんて言いながら、いつも通り教えた。


私だって分からないことがあるから、生徒と一緒に考えて、分からなかったら、もう捨てようと言って次に行く。
どうしようもない先生である。
先生は完璧であったほうがいいし、聞かれたことに必ず答えられなければならないと私は思う。
だって、先生なんだもん。
だけど、私は全然違う。
「分からないねぇ。分かる?分かったら教えて。」なんて言う。

そんなどうしようもない、先生とも言い難い私なのに、彼女は2年近くついてきてくれた。

彼女が2年生の夏頃から受験を意識させるよう促してきた。
でも、彼女はなかなか乗り気ではなく、「これから後悔するよ?」と伝えても「まだ大丈夫です」と言っていた。
受験勉強が本格的になり始めた頃、学校指定の本で、一冊の本を終わらせて基礎と達成感を与えようとした。
しかし、分量が彼女には合っておらず、泣きながら「これをやっても、もう間に合わないから辞めたい」と懇願された。
合わなかったのだと思った。そして、もっと早くからやらせておけばよかったと思った。
教育は常に何パターンも存在して、その子に合ったものを的確に探せていない自分と、それを諦めると決断した彼女に腹が立った。

まだ彼女は何も見えていない。
自分のいる地点も、自分の弱い部分も。
気付いて欲しかったから、そんなこと伝えても意味はないと思った。


彼女は私の前で泣く他にも、居眠りをしたり、笑ったり、喜んだり、怒ったり、色々な表情と感情をくれた。
私は彼女を先生と生徒というよりも、友達のように感じていた。
ちょっと数学が苦手な子に教室で教えている感覚。
だから、毎月お金が振り込まれているのが、いつも不思議でならなかった。
あんなにただ喋ってるだけなのに、楽しんで問題を解いてるだけなのに、お金が入っているんだって。


そして、彼女は成長した。
一番は、自力解決能力が上がった。
最初は問題を解かせても、「わからないです。」が頻繁であった。
そんなに簡単に音をあげないでほしいと思った。
だから、私はヒントを与えたり、何が分かっていないのかを問うたり、私がざっくり解説をした後、それをすぐ隠して自力で解かせたりした。
あと、分かっていても「なんだろうねぇ。これとか使うのかなぁ。」と先生らしからぬことをしていた。
それを続けたからか、あまり「分からないです。」をすぐ言わなくなった。
問題と向き合う時間が長くなった。
何度もその子にも伝えているが、これは素晴らしい成長であると感じている。

一時期は本当にどうなることかと思う部分もあり、他の人に相談することもあったがなんとか最後まで走ってくれた。


最後の指導が終わったときに
「17日塾いますか?」
と聞かれた。
「別に指導がないから、いないよ。」
と伝えた。
すると、
「会えるかなぁって思ってました。」
と言われた。

彼女からは私に対する熱はほとんどないと思っていたから、そう言われて、思ってくれてたんだなと嬉しかった。
彼女からしたら、最後も応援して欲しかったんだろうけど、たぶんここで終わったほうがいいと私は思った。
あまり深入りしすぎるのも、塾という立場からしたら、距離感的によくないんじゃないかと思った。

だから、
「そうだね。」
と伝えた。

そして、餞別として「ラムネ」を渡した。
ブドウ糖がちょうどいいかなと思った。
これは結構悩んだ。
何をあげるにも重すぎても軽すぎても、意味がなさすぎてもいけないと思った。
だから、昔高校のとき化学の先生がみんなのためにブドウ糖を2粒ずつ袋詰めしてくれたのを思い出して、ブドウ糖の「ラムネ」にした。
喜んでくれてよかった。

その後、いくつか前日にしておくことを聞かれたので「もう頭になんか入らないから、早く寝ろ」と伝えた。


最後離れるときに、握手を求められた。
私はそこまで彼女に何かしてあげられた訳ではない。
最終的にやるのは彼女だし、今までだって私は単なる補助で頑張ってきたのは彼女だ。
でも、彼女は私に恩義を感じてくれているらしく、グッときてしまった。
私は彼女に何かを残してあげられただろうか。

だから、私も彼女が帰ろうとしている後ろ姿の肩に手をポンとおいて、「がんばれ!」と言った。
だって、最後に頑張るのは彼女だから。
前に頑張れは無責任だと言ったけど、関係性がある以上はその関係性の上で成り立つんだよ。


これは17日の夜に思ったこと。
その日は胸がいっぱいで、泣きながら自転車を漕いで帰った。
その日のうちにあげたかったけど、叶わず今日センター2日目。
なんとかやってるかなぁ。


彼女はあと何年か後には私のことなんか忘れると思う。私も塾の先生とのエピソードや顔は覚えてても、名前までは忘れてしまった。
でも、それでいいんだと思う。
何か一部でも彼女の中に変化や成長をもたらせたなら、それでいい。


彼女が第一志望の大学に受かったら、もちろん嬉しいけど、たとえ思うような結果にならなくても「頑張ったから、これでいい!」と思える人生を歩いてほしいなと思う。
彼女の良いところは、次の日には忘れるところだから。


彼女は一体どんな大人になるのだろうか。
あのとき、私に伝えてくれた夢は叶えられるのだろうか。
どんなに辛くても苦しくても、生きるという選択をずっとし続けられるだろうか。

私は君にちゃんと残せただろうか。


#エッセイ #コラム #センター #センター試験 #塾

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