【コラム】男でよかった

　大きなアルミラックをが届いた。重い重いとふんばりながら、2m級の巨体をひとりで組み立てた。
　こういうときいつも思う。
「ああ、男でよかったな」と。

　当たり前ですが「男の方がいい」という話をしたいわけではありません。中には極端な人がいて、「男でよかった」⇒「女をバカにしている」とか、「日本人でよかった」⇒「愛国者だ」「レイシストだ」などと勝手に解釈されるときがあり、あきれる。

　少し日本語の話をすれば、「～で」が肝心なんだと思う。

　「男”で”よかった」→自己満足感。

　「男”が”よい・よかった」→肯定と共に「他を否定する可能性」も秘めている。

　温泉に入って刺身を食ってる時に「日本人でよかった」と呟くのは「この国もイロイロあるけど比較的満足している」ということ。けどそこで「日本人がよい」となると、たまにではあるがその後に「刺身を食べられない外国人はかわいそうだ・味がわかっていない」と続き、ガッカリする。

■男でよかった

　僕はこれまで一度だけ痔になったことがある。病院に通って治ったが、こんなことが続けばこの世の終わりだと思った。

　座る・立つという動作だけでもうまくいかない。歩いている時もずっと違和感。行動の全てがどんくさくなる。そんな自分にイライラする。
　日によって「多い日」があって下着を汚した時もあった。辛かった。

　そしてふと思った。
　「ああ、生理ってもしかしてこんななのか？」と。

（女性のみなさん、間違っていたら本当にごめんなさい。これはあくまで「想像」として続けます。）

　肉体が男に産まれた以上、「生理」が来ることは一生ない。これまでもこれからも確実に体験できない。

　とはいえ面白いことに（というと語弊があるかもしれないが）、ゲイという僕の立ち位置のせいなのか、女友達から「今日生理がひどくて飲みに行けない」などとメールをもらうことが多々ある。中には今の状況を詳細に伝え出す友人もいる。

　僕はと言えば「そかそか、お大事に」と返すだけで、「風邪ひいた。いまあんなでこんなで…」→「そかそか、お大事に」と同じノリでしかない。大変だなと思うし、もし助けが必要ならポカリくらいは買いに走れるけど、僕にその辛さは一生体験できない、小宇宙。

　多くの女性にとって「生理」の話題は、女性同士ならまだしも、男性に言うことは「とても恥ずかしいこと」のようで、つまり多くの男性は「生理」の話題に触れることなくのうのうと（本当にのうのうと、そして避けるように）生きている。大の男が「生理」と聞いたときのアタフタ感よ。

　僕はこうして「ＳＥＩＲＩ」という単語のヒアリングに慣れてしまったが、話をされたところで的確なアドバイスもできず「大変だね」としか返せなくていつも申し訳ない。

　でもこうして全く違う事ではあるけど痔の経験から僕の想像力が働いた。

　生活上のイライラ感。病院に行く億劫さ。何より、デリケートな部分の話なのでなかなか人に言えないもどかしさは、かなり独特のストレス。

　僕自身も結局数人にしか言えなくて、日々を坦々と過ごすしかなくてつらかった。「飲め」と言われたら飲んだし、「食べろ」と言われたら食べた。「働け」と言われたら働いたし、結果生産性が悪くて迷惑をかけた。
　思い切って明け透けに生理生理言う女友達にこんなんになっちゃったーと言ったら、「あんたナプキン買うの恥ずかしかったら今どきAmazonでも買えるわよ」とアドバイスされた。初めて生理のきた女の子と、慣れた母との会話のようで、急に"女の子側の僕"は恥ずかしくなった。

　そうして「（生理のない）身体的には男子でよかった」という思いに至ったわけだけど、と同時に「女子って毎月こんなに辛いのか」と少しだけ”リアリティ”を持ってその未体験ゾーンに近付けたような気がした。そりゃ仕事も休みたくなるわ。「半日だけでも生理休暇くれ」となるわ。別に悪い事したわけでもなきゃ伝染病でもないんだから、せめて『誰かに言える環境』を常日頃から醸成せなあかんな、と。

■想像力

　刺身を食べて「日本人でよかった」と思うけど、どこかの国では日本人の知らない食材を食べて「〇〇人でよかった」と思っている。それぞれの味覚・食文化がある。ジャパンアズナンバーワンなんて思っていない。むしろまだ知らないその味に一度は触れてみたい。

　重い荷物を持ち上げられた時「男でよかった」と思うけど、女性にはきっとしんどいだろうから、（あくまで”基本的には”）やはり男の第一のミッションは重たい荷物を持ち上げることなのだと辿り着く。（とほ～）

　立場は変わり、女は女で…

「男ってなんであんな口下手なの！言いたいこと全然伝わってない！」とか「男ってなんで『俺の方がデキる。アイツはたまたま表彰された』とか、自信満々な話ばっかすんの！テメーの出来が悪いって認めろよ！」と一方的な話を展開する。そんなとき女は「女でよかった」と思っているのかもしれない。権力闘争に飲み込まれない（興味すらない）、弁の立つ自由闊達な生き物でよかったと。

　そんなとき僕は「まあまあ、男ってそういう生き物だから」と宥める。あんたはスマートな女なんだから、男のことを想像して、なんとか理解してやって、そして「転がせ」と。

　そして心の中で思う。「男も女も大変ね」

　どっちつかずでよかった、と。