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箱には

一つ目 森の奥から星を辿って
かたちの悪い箱をひとつ持ってきました
一滴のこさず かき集め 蓋をして

一人目 かなしいほど白い首に棲みついた
ビニル製のロザリオが揺れたから
箱には、

二つ目 天幕から月を歌って
かたちの悪い箱をふたつ持ってきました
降るような星の下 左手で蓋をして

二人目 さみしいほど黒い夜が融け落ちた
片っぽの目の奥が見たかったから
箱には、

三つ目 霧の底から海を渡って
かたちの悪い箱をひとつ失くしてきました
充せない穴のように 蓋をした宝物

三人目はすこし変ったひとでした
箱をひとつ譲ってくれと言うのです
自分はもう箱の中身を忘れていました
なんのために作ったのか、さえも
そのひとは蹄で海を指して
遠い遠いところ、寒い寒いところに
きみを待っている人がいると言いました
自分はもう箱の中身すら思い出せないのに
箱には、

四人目 横たわる抜け殻のガス室で
愛しい四文字が聞こえたから
箱には、

五人目 六人目 七人目 八人目
また箱を作らなきゃ
ここは寒いところだね