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ポメラ日記 2020年3月10日(火) 落ちた花がいつもきれいなわけじゃなくても


雨の日だ。
玄関でぱんださんに、長靴を履いていくといいよ、とおすすめする。
行きはささださんが自転車でぴゅーと送るのであまり意味はないが、帰りはわたしと歩いて帰る。
水たまりを踏むのが大好きな子は、長靴を履いていくといいよ。


雨ではあるが、今日は任務がある。ささださんが図書館で予約していた本の受け取りが今日までなので、受け取り代行だ。あと、朝のパンも買わねばならない。
よんださんを抱え、レインコートを羽織りビニール傘をさして外へ出る。ビニール傘に雨が当たる音に、よんださんが空を見上げる。ビニール傘ごしに、水滴と曇天が見えるだろう。
雨の音だよ。これが、あめ。
君の日々を綾なすものの一つだよ。
気温は寒くはなくて、すっかり春の雨だ。


あまり開店しているところをみない古本屋さんが、こんな日は開いていて、傘をつぼめて入り口に立てかけ、店内を見て回る。
窓のない暗い店内に、湿気が高くて、古い本の少しかび臭い匂いがする。一部だけトタン屋根のサンルームめいた場所があり、曇天の柔らかい光が水槽の中のように満ちている。ばたばたと雨が屋根に当たる音がする。古い「こどものとも」のバックナンバーがあって、よんださんを抱えたまま膝をついて一冊ずつ見ていると、店主が小さな白い椅子を出してくれた。たぶん子供用だ。
こどものともの、民話の採録らしい一冊を買った。

雨で梅の花が落ち、道に散っている。落花を無惨と思うような感性は持ち合わせていない。きれいだな、とだけ思った。

図書館は、感染拡大防止の対策で閲覧スペースを閉鎖しており、カウンターだけが開いている。立ち並ぶ本棚の間は無人で、立ち入らないようにテープが渡してある。カウンターの内側に、スタッフさんだけが五人、詰めていた。
スタッフさんたちはいつものように、とても感じよく対応してくれた。
図書館の入っている公民館のラウンジスペースでは、二歳くらいの子どもたちとその親が三組くらい、集まって立ち話をしていた。

いつものおいしくてリーズナブルな、町のパン屋さんにいく。今の家に引っ越す前は、このパン屋さんのとても近くに住んでおり、豊かなパン生活を送らせてもらっていた。今は少し足を伸ばす必要があって、そこがつらい。
近所のパン屋さんのクオリティは、かなり生活の良さを左右する。
食パンを手に取り、わたしの愛する照り焼きチキンパンをトングに挟むかどうかを悩んで、次に来たお客さんのためにスペースを譲ると、そのお客さんが照り焼きチキンパンの最後の一つを挟んでいった。あっ、と思ったが、悩む余地がなくなったのですっきりもした。このパン屋さんで二番目に愛している、ラップに包まれたクロワッサンをトレイにとる。
パン屋さんでは、いつものレジのおばさまが、にこにことよんださんに話しかけてくれた。よんださんも声を上げて応答する。
よんださんは、話しかけてくる女性たちみなに笑顔を振りまくので、大変評判が良い。
是非そんな感じのまま成長してほしい。

雨なのでよんださんをささださんに託し、ぱんださんを迎えに行く。
ぱんださんは長靴とレインコートで、大きめのみずたまりを見つけるたびに両足で飛び入って水を跳ね上げた。
「もうひとつのおおきなみずたまり、あるかなぁ」
と言いながら、先へと進んでいく。小さな黄色い傘がふらふらしている。
ぱんださんが雨を存分に楽しむ様子に付き合うことが出来て、わたしも満足した。

読み聞かせの本は
『まちには いろんな かおが いて』
『まよなかのくつやさん』
『あかいかさ』
でした。

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