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防災リュックと『岸辺のアルバム』

昨年、防災リュックを買った。
リュックを買った安心感で満足してしまい、今ではすっかりタンスの奥にある。

これじゃあいけないと思って中身を確認した。
その時にびっくりしたのが、文庫本を入れていたことだ。

確かに、もしも何か災害があった時に家に帰れない日々が続いたら娯楽が全く無くなる。
その時の為に入れたのだと思う。

本でも何でも良いから娯楽に逃げられる環境を作るのは何とも自分らしい感じがした。
ちなみに入っていた本は山田太一氏の『岸辺のアルバム』だった。

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家族の崩壊と大災害が折り重なる骨太なドラマの原作になった小説だ。
(山田太一氏が小説を東京新聞に書き、それを自身の脚本でドラマ化したのだ)

確かに大好きなドラマだけれどもさすがにこれは洒落にならない。
なので、リュックから出した。
次は何を入れようか考えているところだ。

『岸辺のアルバム』といえば、昨日NHKの『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』という番組で、
このドラマの元になった水害についてやっていた。

「多摩川水害と“岸辺のアルバム”」

多摩川の第1、第2堤防決壊から民家を奪い去った大水害がいかにして起こったかを丁寧に描いていた。
家が奪われていくまさにその瞬間の映像はショッキングで言葉を失った。
自衛隊による二ヶ領宿河原堰爆破はどこか『シン・ゴジラ』感もあったし、当時の映像があれだけ残っていることにも驚いた。
中でも特に、今もあの河川敷に住んでいる方(当時中学生)のインタビューが凄まじかった。

父が生活を切り詰めて、苦労して買ったマイホーム。
完成したその年に水害が起きた。
しかも家が流された、と避難所に報告がきた日、その父は誕生日だったというのだ。

何よりびっくりしたのが、このインタビューを受けている方の家族構成が『岸辺のアルバム』と同じなのだ。
(当時の家族写真を見ると、お父さんもどこか杉浦直樹に似ているのだ!)
最終回の河川敷の屋根、父が拾った写真など、ドラマを好きな身からするとエピソードひとつひとつに心が震えた。

『岸辺のアルバム』は、家族という地獄を描いたドラマだ。
受験を控える田島家の長男・繁の目線を通して、一見幸せそうに見える家族のひとりひとりの裏側が暴かれていく。

番組内で山田太一氏も言及していたが、父、母、長女、長男がそれぞれ「戦後の日本」の象徴のような存在だ。
企業戦士と呼ばれ家庭を顧みないサラリーマン、家族を中心にわずかな繋がりしか持てない専業主婦、英語文化にのめり込み奔放な恋愛をしあまりにも手酷い仕打ちを受ける大学生、良い大学に入らなければならないと親や教師から追い込まれる受験生……。

そんな家族以外にほとんど繋がりのない母・則子の不倫から、この物語は始まる。
凪の河のように、静かにドラマは進む。しかし家に一台のラジコンが突っ込んできたところから少しずつ堤防を削っていくかのように凄まじい展開が起こっていく。
特に不倫相手の北川は序盤声だけしか出てこない。その声が抜群に不穏で魅力的なのだ。

繁は、自分の理解を超えた家族の実態を目にして、その都度大きく取り乱す。高校生なのに酔い潰れて『函館の女』を絶唱するなど、エモさ全開で家族とぶつかっていく。
繁は理屈で物を言うのが下手で衝動的に動いてしまう。だからこそその繁から放たれるセリフは、生身の叫びであり心に刺さるものばかりなのだ。
(特に「ロボットだ!あの家にいるのは人間じゃなくてロボットだ!」、「この家にお別れを言おうじゃないか!さようなら!さようなら!」 が好きだ。)

田島家の以外のキャラクターも大好きな人たちばかりだ。
北川はもちろん、堀先生や篠崎”哀愁”雅江も良い。
全員がどこか不器用で、それがチャーミングにも映るのだ。

『アナザーストーリーズ』ではドラマ制作者や出演者(堀川氏と国広氏!!)にもインタビューし、水害当時から水害後の状況も描いていた。
水害訴訟が行われ、あの場所に住む人たちが13年にも及ぶ長い戦いをしてきたことも知らなかった。

もし再放送があったらぜひとも見ていただきたい。

「Will You Dance?」、歌詞がめちゃくちゃすごいのでこちらもぜひ。


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