記事一覧
絶滅(インターネットウミウシ)
キラキラと輝く水面をイルカが跳ねた。なのに、全然高揚しない。
モーターボートを操縦する五頭が「おっ、ラッセンみてえ」と嬉しそうに呟き、タバコを海に投げ捨てた。
豆粒みたいだった四諸島が近くまで迫っている。
「阿垣ちゃん、迎えに来るのは三日後だかんね!」と五頭は言い、ニカッと笑う。
少年マンガの主人公のかかような満面の笑みなのに目が全く笑っていないのが怖い。
この男は初めて会った時から
見張り塔(インターネットウミウシ)
この螺旋階段を登るのも今日が最後だ。
20年勤務してきた見張り塔の階段は、私と同じように20年分の歳をとった。
内装のペンキは剥がれ、グレーのコンクリートが見えている。壁のヒビもいつの間にか増えた。
警備部に所属された当初は、この仕事が終わる日が来るなんて考えたこともなかった。
いつも一人で淡々と登り、交代の時間まで塔の上から基地の景色を見つめ続ける。
この見張り塔にも砲台が付いている
文芸ヌー『書き出し自選・私の5作品(インターネットウミウシ)』
文芸ヌーにて、私がインターネットウミウシ名義で投稿しておりますデイリーポータルZ『書き出し小説』の自選記事を書きました!
なんでインターネットウミウシなの?とよく聞かれるのでその由来も書きました。由来、というかなんとなく名乗っているだけであることを自供しました。
『書き出し小説』にはこの2年間くらい応募を続けています。
脚本一辺倒だった私には新鮮な世界で、その楽しさのあまりラッセンのイ
書き出し自選・私の5作品(インターネットウミウシ)
どうも、インターネットウミウシ(いんたあねっとうみうし)と申します。
文芸ヌーさま、そして義ん母さまからお声がけいただき、今回初めて書き出し自選をやることになりました。
2年ほど前から投稿を始めたばかりの若輩者ではございますが、よろしくお願いいたします。
なんとなくでインターネットウミウシを名乗りはじめ、果たしてこの名前のままでいいのか、と思いながら2年の歳月が経ちました。
ちなみに
文芸ヌー『四諸茶々村拾遺』
天久聖一さんと書き出し小説大賞のご常連の方々がやられている読みものサイト、文芸ヌー(note版はこちら)に、『四諸茶々村拾遺』(インターネットウミウシ名義)という短編を書きました!
無い民話『四諸茶々村拾遺(しもろちゃっちゃむらしゅうい)』の一部をお気軽に読むことができます。
民話がお好きな方、ぜひともご覧くださいませ。
文芸ヌーでは無い祭り、無い温浴施設、無い交響曲と無い楽器を作り、今回は無
文芸ヌー 「交響曲第17番『うろおぼえ』」
※画像は本文と全然関係ございません。ただ昔の画像フォルダの中に味わい深いものがあったので掲載しております。なんともいえない気持ちになっていただけますと幸いです。
天久聖一さんと書き出し小説大賞のご常連の方々がやられている読みものサイト、文芸ヌー(note版はこちら)に、「交響曲第17番『うろおぼえ』」という短編を書きました!
今回は音楽モノです。
ありもしない交響曲とありもしない楽器が出てきま
交響曲第17番『うろおぼえ』(インターネットウミウシ)
拍手が止んだ。
指揮者がこちらを向き、穏やかな顔つきから真剣な目つきに変わる。
ひと呼吸おくと、指揮者がタクトを振る。
それに合わせて、楽団員が一斉に音を鳴らす。私以外は。
私はいつもこの冒頭部分を聞くと、足先だけ小さく踊ってしまう。
イスに座ったまま、みんなの演奏を聞く。何度聞いても「上手いなぁ」と思う。
実は私が、このホールの中で一番贅沢な観客なのかもしれない。
交響曲第17番『うろおぼえ
お繰越(インターネットウミウシ)
○銀行・繰越機前
繰越機に通帳を入れる。
案内音声が流れる。
画面には制服の女性が笑顔で頭を下げる簡素なイラストのアニメーション。
案内音声「新しい通帳にお繰越しております。しばらくお待ちください。新しい通帳にお繰越しております。しばらくお待ちください」
通帳に記入する音。
案内音声「新しい通帳にお繰越しております。しばらくお待ちください。新しい通帳にお繰越しております。し
例大祭(インターネットウミウシ)
午前4時、交通整理の警官が振る誘導棒の灯りが揺れる。
海岸沿いの歩道には人が溢れ、一眼レフやスマートフォンのシャッター音があちこちから聞こえる。
浜辺には30人の男衆がいる。裸の男衆が身に付けて良いのは褌だけだ。
いくら暦の上では春だと言っても、4月の早朝はまだ冬の寒さだ。
小刻みに震える男衆の肌からは、うっすらと蒸気が立ち昇っている。
「イーガ!」「ホーライ!」の掛け声がかかり、一晩海水に浸し
セウネ(インターネットウミウシ)
午後8時。駅前の喧騒を抜けるとしなびた雑居ビルが立ち並ぶ。
くすんだ看板に書かれた『温泉 セウネ メレセンスパ』の文字を見ると、それだけでホッとする。
エレベーターに乗り、『10F』のボタンを押す。
乗り合わせた3人もみな、同じ階を目指しているのか『10F』のランプが点いているのを見ると伸ばしかけていた手を引っ込める。
沈黙の中、みな無言でドアの上のフロア表示を見つめている。
10階に