東北一周自転車旅(20)青森県青森市〜鯵ヶ沢町
東北一周自転車旅
第20ステージ
青森県青森市〜青森県鯵ヶ沢町(60km)
いよいよこの旅も後半戦。往路は太平洋側から北上して青森へやってきたので、復路は日本海側を南下していく。
朝8時に起きて、朝ごはん。先日ローカルニュースでも見かけた、青森の新ブランド米「はれわたり」を大ちゃんのお母さんが炊いてくれた。おいしいお米だ。津軽の郷土料理、「貝焼き味噌」も食べられた。お母さん曰く、「貝焼き味噌もどき」だそう。なぜ「もどき」かと言うと、本来は大きな貝殻を器にしてつくるものだから。そうすると出汁が出てよりおいしくなるらしい。貝殻じゃなくでも十分おいしいけど。
食後には、スコーンもいただいた。先日の日記で、ぼくが久慈で食べたスコーンに感動している投稿を見て、市内の「ひつじ」というお店で買ってきてくれたのだそうだ。いちじくのスコーンをいただいた。こんなにおいしいスコーンに東北で何度も出会えるとは思っていなかった。おやつに食べられるように、ひとつ持たせてくれた。
9時40分頃出発。なのだけど、ぼくが平和島でお世話になっている「asian relaxation villa」というマッサージ屋さんの青森店を見つけたので、試しに行ってみることにした。
まだまだ全身が凝っているから、ほぐしてもらえて良かった。担当してくれた工藤さんとの雑談も楽しかった。青森にも東京で見かけるチェーン店はたくさんあるけど、「日高屋」はまだないらしい。また、「油そば」を食べられるお店も少ないみたい。そういうニッチな情報をいろいろとゲットした。また、工藤さんは、ぼくが普段行っているお店のスタッフさんと長期の研修で一緒だったらしく、世間の狭さを実感した。
マッサージが終わると、外は雨が降っていた。だけど早く出発しないと到着が遅くなってしまうので、濡れてもいいから行くことにした。まだ走れるレベルの雨だったし、幸い20分くらい走ったら雨は止んだ。
途中の生協でリンゴジュースを買った。今日は「青森のおもてなし」。
そこから長い登り坂。国道7号線の大釈迦までの登りは2kmくらい続いただろうか。ゆるやかだけど、ひたすら登る。けれどお尻周りや腿の筋肉が発達したため、ハイペースで登れた。この旅が始まった頃には考えられなかったような走りだった。
坂を下り、ファミマで休憩。ゆっくりお昼を食べる時間がないので、おにぎりとスコーン、リンゴのドライフルーツを食べた。
それからまた小さな山を登り、五所川原方面へ。曇っていたが、「津軽富士」こと岩木山は存在感があった。昨年訪れたときは、青空の中で見られて感動した。
五所川原市内のイトーヨーカドーで、またリンゴジュースを買った。五所川原にいるから、「立佞武多」が描かれたものを。五所川原にも昨年訪れたけど、街の人たちの「立佞武多」にかける想いは想像を遥かに超えていた。「立佞武多の館」は素晴らしい施設だから、ぜひ多くの方に訪ねてほしい。高さ23メートルの本物の立佞武多には圧倒された。今度は青森や五所川原のねぶたを観に来たい。
イトーヨーカドーから出発しようとすると、ものすごい大雨になった。雨雲レーダーを見ると、また線状降水帯が発生していた。しかも、これから向かうつもりの鯵ヶ沢方面から、5発くらい順次こちらに向かって飛んでくる。しばらく逃げ道のないような状況だった。まだ22kmあるのに、参ったな。
ひとまず、ちょうど同じ施設にスタバがあったので、そこでコーヒーを飲みながら昨日分のnoteの更新などをすることにした。
鯵ヶ沢の宿の女将さんにも電話を入れる。
「すみません、17時頃の予定だったんですが、18時頃になるかもしれません」
「大丈夫〜? 雨大変でしょ〜。着いたらすぐ洗濯できるようにしておくからね〜」
1時間ほどして、さすがにもう出発しないとまずい時間になってきた。雨はまだ続いていたが、レインコートを着て、行くことにした。
だけど、1kmほど走ったところで身動き取れないほどの土砂降りになり、たまらず屋根のある場所に避難。どうしようもない雨だった。小さな屋根の下で20分ほど待機し、少しだけ弱まった頃合いを見て出発した。そしたら周辺の道路が冠水していて、横を車が通るとぼくはブシャアと全身に水を浴びせられる。なんという試練だ。
おまけに、17時過ぎからあっという間に暗くなり、ラスト15kmは暗闇の中を走ることになった。
再び宿のおばちゃんに電話する。
「ごめんなさい、雨で長く足止めされてしまって、19時近くになりそうです」
「何時でも大丈夫だから〜。気をつけてゆっくり来て〜」
女将さんの温かい声とやさしさに救われる。
かつてボローニャからフィレンツェを目指して走っていたときも、灯りのない山道で夜になってしまい、絶望的な思いをした。また、大雨の中で走った登り坂は、台湾一周自転車旅の最終日を思い出した。自転車旅は、楽しいことも多いが、辛いことも多い。だけどこのような辛さを経験するたび、心は広がっていくような気がしている。大変なのだけど、同時にどこかでその辛さを求めている自分もいる。
とにかくこの状況では、早く着くことよりも安全が最優先。暗闇の中を小さなライトで照らしながら、事故らないように慎重に走った。不思議と自分の成長に合わせてどんどん旅の難易度が上がっていく。峠、雨、風、暗闇と、辛さの種類はをたくさんある。人としてたくましくなりそうだ。
暗くてわからなかったけど、いつの間にか右手には海が広がっているようだった。そして18時40分頃、鯵ヶ沢に到着した。
駅前の尾野旅館の扉を開けると、「あ〜中村さん、よくこの雨の中頑張ったねえ。心配してたんだよ、一杯呑みながら」と女将さんが出てきてくれた。
「一杯呑んでたんかい」と思いながらも、無事着いて女将さんに会えてホッとした。これでもう大丈夫だ。
「私が洗濯やっておくから、濡れたもの全部ちょうだい」
いつもはコインランドリーだから、こういう親切心がなおさら沁みる。そして夕食もすぐ食べられるよう準備していてくれた。
ひと通り料理の説明をしてくれたあと、突然、「中村さんね、あなた電話くれたとき、感じ良かったわよ」と言った。
「え? ありがとうございます」
「休みにするつもりだったから、私感じ良い人じゃなきゃ泊めないもん」
もともと今日は宿泊予定者がいなかったため、女将さんは宿を休みにするつもりだったそうだ。そんななかで、ぼくが昨日電話をした。最初は「明日は休みにしようと思っていたんだけど」と言われるも、旅の経緯を話すうち、最終的には「じゃあうちに泊めてあげる」と言ってくれた。その際の電話での話し方が、「感じが良かった」のだそうだ。
声や話し方、丁寧さ、使う言葉の印象などによって、相手の対応が変化することがある。肩書きやお金では動かせないものが、ときに「感じ」によって動かせることがあるのかもしれない。できれば良い方に転ぶように、心がけたいものだ。
身体は冷えたけど、女将さんと手づくりご飯は温かかった。おいしい。豪雨で大変だった日の温かい思い出ができた。これぞ「青森のおもてなし」だ。
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