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対韓輸出規制、韓国の一手に日本はどう対応する?

輸出管理問題に関連し、韓国政府が貿易安保の専門組織を新設したようである。本件の背景について考察してみる。

【概要】
輸出規制解除の条件の一つである体制の脆弱性について、韓国政府は品目軸型の組織から機能軸型の組織に変更し、日本政府の要求する条件に合致する事を主張し輸出規制解除を要求している。

【経緯】
日本政府は韓国に対しホワイト除外の措置を取ったが、その理由は
 ①通常兵器規制の法的根拠
 ②輸出管理に関する体制の脆弱性
 ③ハイレベル対話を通じた信頼構築
を挙げている。[1]
 今回の韓国政府の措置は②に対応するものであるが、日本政府は韓国の輸出管理に関する人員は11人との指摘をしていた。[2]

【韓国政府の措置の内容】
 体制の脆弱性の指摘に対して、韓国政府は貿易安保政策官と言うポストを新設するという事である。中央日報によると[3]

「貿易安保政策官は貿易投資室内30人規模の正規組織で構成され、下部組織に貿易安保政策課、貿易安保審査課、技術安保課が新たに設置される」

と言う事である。

【今回の措置の意図】
 ホワイト国除外時に韓国政府は体制の脆弱性について、輸出管理に関する人員は複数省庁に跨っている品目軸型組織(別記)であり、11人とのカウントは不正確で日本と同等の100人規模の体制を有していると主張していた。
 そして、今回の措置の韓国通商産業資源部のリリースには以下の記述がある。[4]

「戦略物資、技術開発、外国人投資など複数の部門に分散していた貿易安全保障関連の機能を一元化し、人材を再配置して」

 即ち、品目軸型の組織から一部を機能軸型の組織に変更したと言う事である。これにより、日本政府の指摘に対し組織形態や機能の明確化を行い、日本政府から見ても十分な組織だと主張していると思われる。

【今後】
 この措置によって輸出規制解除の3条件は満たされたというのが韓国政府の主張である。これを発表する事により、日本政府に規制解除に動くように圧力を掛けているものと思われ、日本政府の動向が注目される。


【補足1:品目軸型組織】
組織問題でよくある話だが、簡単に家電の例で説明する。
 品目軸型組織・・組織が品目毎にグループ分けされ、その中にそれぞれの機能チームがいる
 機能軸型組織・・組織が機能毎にグループ分けされ、その中にそれぞれの品目チームがいる
具体的には、

 [品目型組織]
  テレビ部ー設計課  冷蔵庫部ー設計課
      ー検査課      ー検査課
      ー営業課      ー営業課 など

 [機能軸型]
  設計部ーテレビ課  営業部ーテレビ課
     ー冷蔵庫課     ー冷蔵庫課
     ーエアコン課    ーエアコン課

 経産省は韓国の輸出管理組織の人員をホームページの情報から10人と推定した様だが、経産省は機能軸型の組織であり、お互いにそれぞれの機能品目毎に確認しないと比較出来ない。しかし、経産省は対話を拒否して一方的に体制が脆弱と指摘しホワイト国から除外した訳で、とても理解できない行動である。

【補足2】
他の2つの条件についても、韓国政府は日本側の要求を満たしているとの認識である。
①通常兵器規制の法的根拠
 日本政府の主張は、韓国のキャッチオール制度は通常兵器についての法的根拠が不明確と言うものであり、これに対して韓国側は通常兵器に関しては戦略物資輸出入告示第5条に記載が有ると反論していた。[5]
 その後、韓国政府は3月の局長級対話で「対外貿易法に関し戦略物資の輸出許可に関する条文に、大量破壊兵器とともに「通常兵器」も厳しく審査することを明記し、この改正案を可決した。早ければ6月にも施行される」との事である。[6] この"明記"により、日本政府の要求を満たした事になる。
 蛇足ながら、ホワイト国であるカナダは韓国と酷似した法体系との指摘がある。[7]
 また、輸出管理に関する国際評価であるISISのレポートには、キャッチオール制度の評価も含まれるLegislationの項目での各国の評点は以下である。[8]
 米国 199点  韓国 198点  日本 158点

③ハイレベル対話を通じた信頼構築
 大臣間、課長級間では継続されて来た対話だが、なぜか経産省が拘っていた局長級対話は3年半開催されておらず、その為両国当局間の信頼が毀損されたとしてホワイト国除外を行われた。また、問題発生時の昨年7月に韓国側が局長級対話を要求したにも関わらず、経産省が拒否していた。しかし、その後のWTO、GSOMIA等の経緯を経て12/16と3/10に開催された。これにより、信頼構築の条件も満たされる。

 経産省は未だに「不適切な事案」の具体内容や、フッ化水素が流出したといういかなる証拠も提出していないので韓国の輸出管理に不備が有ったとは考えにくい上に(しかも、その旨の発言を経産省課長がしている)、結局2回の会議と条文への明記、組織変更だけでホワイト国除外の条件は満たされた事になり、あれ程までに2国間の外交関係を悪化させる必要が有ったのだろうかと感じる。

 特に、今回のコロナ対応を見ていれば韓国はかなり有効な対策を打てており[9]、日本も今更ながらトリアージやドライブスルー等、韓国の真似をして動いている状況だが、早い時期に韓国から協力を受け日本が対応していたら救えた命が有ったのではと思わざるを得ない。


出典:
[1] : 韓国に対する輸出規制の日韓の主張 〜日本人の知らない事実〜
[2] : 経済産業省、本日の韓国産業通商資源部による記者説明について
[3] : 中央日報、韓国、日本の輸出規制を機に「貿易安保政策官」新設…「日本は輸出規制の撤回を」
[4] : 韓国政府、貿易安全保障機能の強化のために「貿易の安全保障政策官」新設
[5] : 韓国のホワイト国除外が不適当な理由 〜法規〜
[6] : 日本経済新聞、輸出管理協議、韓国「改善へ法整備」 日本は実態重視
[7] : ハンギョレ、日本、カナダ法にも通常兵器に対するキャッチオール規制ないのに韓国だけを差別
[8] : Institute for Science and International Security、2019/2020の行商危険度指数
[9] : 新型コロナを抑え込んでいる韓国政府の対応について(追記)

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