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シオリの冒険(第7話)女神たちの再会

 今のわたしはツバサかな、それともシオリかな。どっちも自分だけど今日は間違いなくシオリの日。オフィスの経営も立ち直りつつあるから、今日は久しぶりにクレイエール・ビルに。受付に行ったら、
 
「麻吹先生、ようこそいらっしゃいました」
「香坂さんも変わらないね」
 
 こうやって香坂さんを改めてみると、やっぱ化物だね。他人のことを言えないけど、七十三歳だよ。女神の力ってホントに怖いぐらいだよ。三十階も四年ぶりかな。
 
『コ~ン』
 
 鹿威しも変わらないか。リビングに入ると、
 
「シオリ、久しぶり、元気でやってる」
「ボチボチよ」
 
 集まってるのは四人で、コトリちゃんは不在。わたしの翌年に宿主代わりしたみたいで。
 
「コトリは港都大の考古学部に入ったんだけど、大学院でエレギオン学やりたいって続けてるのよね」
「そんなものやらなくても、誰よりも知ってるじゃない」
「それは、そうなんだけど、狙いは第三次発掘調査。やっぱり行きたいんだろうね」
「ユッキーは?」
「行きたいけど、さすがに社長だから、そこまで長期となると無理かなぁ。次の宿主代わりの時に考えるわ」
 
 ここのビールも久しぶり。
 
「でもさすがはシオリね。あっという間に売れっ子じゃない。まあ、中身が加納志織だから当然だけど」
「売れなきゃオフィスが倒産してたからね」
「そこでだけど、今後もここに来るのに悪いけど・・・」
 
 非常勤の顧問就任の要請。エレギオンHDとの関係を今の時点で深めちゃうのは、商売としては善し悪しだけど、
 
「シオリが考えていることはわかるわ。だから非常勤顧問就任はウチウチにしとく。いくらわたしが社長でも、ここに出入りする社内的な名目がいるの」
 
 ユッキーも良く知ってるわ。ウチウチならイイか。受けとく事にした。
 
「ところでシオリ、随分グラマーになったじゃない」
 
 麻吹つばさはスリムと言うよりガリだったのよね。それもユッキーのように華奢じゃなくて、まさしく鶏ガラのガリ。初めて鏡で見た時に、いくら借りものでもチョットだったのよ。だから加納志織のスタイルをイメージして念じていたら、ビックリした、ビックリした。そうなっちゃうのよね。
 
「ユッキー、あんなに変われるものなの」
「やろうと思えば、前宿主と寸分変わらないものにするのも出来るよ。もっとも、シオリじゃそこまで繊細なコントロールは無理だと思うけど」
 
 ここでユッキーが悪戯っぽく笑って、
 
「でもシオリが大学中退してまでオフィス加納に行くとは思わなかった」
「なんだかんだ言っても愛着深いし」
「それだけ?」
 
 ん?
 
「星野君が気になったんじゃない」
「サトルが? そりゃ、最後の弟子だから気にはなったけど」
「それだけ?」
「それだけよ」
「ホントに?」
 
 ユッキーは何を聞きたいんだろ。
 
「じゃあ、わたしがチャレンジしてもイイ?」
「えっ、あの、そ、それは・・・」
「ハハハハ、女神同士でも恋は真剣勝負だからね。欲しけりゃ奪うし、隙があればさらっていく」
 
 サトルか。アイツの気持ちはわかってるんだよなぁ。ちょっと頼りないというか、バイタリティに欠けるところはあるけどイイ奴だよ。真面目だし、素直だし。カメラの腕だって悪くない。もう一皮剥いてやれば、かなりのレベルになるはずなんだ。

 もう一皮剥いた後だけど、どうしよう。そこまでの腕になれば独立させた方がイイんだけど、アイツは経営センスないからなぁ。オフィス加納を任せてよくわかったよ。となればウチの雇われカメラマンで過ごすことになるけど、それだったら・・・
 
「シオリ、同じにしろとは言わないけど、永遠の時を生きる女神の最後の生きがいは恋なのよ。そこだけは妥協もしないし、自分の思いのままに楽しむの。そりゃ、前の宿主の時の男の思い出はどうしても引きずっちゃうけど、どこかで割り切るのも必要よ」
「言いたいことはわかるけど・・・」
 
 ここでユッキーは微笑んで、
 
「シオリの思うようにしたら良いよ。星野君を選ぶもヨシ、選ばないもヨシ。とにかく考える時間だけは売るほどあるからね。ただね、人は老いて行くのよ。いつまでも、待っててくれないから、そこだけは気を付けてね」
 
 そうなんだよね。カズ君を見てると辛いというか、申し訳ない気分になった時があったもんね。人が老いるのは当たり前だけど、あのカズ君だってあそこまで老いてしまうのを見ちゃったものね。
 
「ユッキー、聞いてもイイ」
「な~に」
「男が老いても愛し続けられるものなの」
「シオリは出来たじゃない」
 
 まあ、そうなんだけど、ユッキーはニッコリ微笑みながら、
 
「とにかく五千年も恋をやってると、外見は二の次なのよ。どんなに格好の良い男だって、歳取れば腹も出て来るし、禿げる奴は禿げる。肌だって皺くちゃになるよ。そうなった時にどこを愛するかだけど、ハートよ。魂と言っても良いかもしれない。そういう意味でカズ坊は綺麗なハートを持ってたよ」
 
 それはわかる。カズ君がいくら老けても愛していたと自信を持って言えるもの。
 
「星野君のハートも綺麗だよ。その証拠にわたしも、コトリも飛びついた。コトリと男の趣味は被りまくるけど、あれは趣味が似てる部分もあるけど、それより見てる部分が同じだと思ってる」
「でもガキっぽく見えない」
「それも同じ。ハートさえ綺麗だったら、年齢なんて関係ないよ。まだシオリには無理だろうけど、そうねぇ、三十回ぐらいやったらわかってくると思うわ」
 
 三十回か。ユッキーはもう何百回ってやってるんだろうな。
 
「それにしても、シオリ、ありがとう。ここはシオリの家でもあるから、好きな時に遊びに来てね。一緒に暮らしたいならいつでも歓迎よ。それに困ったことがあったら、気軽に相談してね。わたしも、コトリも、ミサキちゃんも、シノブちゃんも全力で助けにいくから」
「エレギオンHDの正社員でもないのに、甘えちゃってイイのかな」
 
 ユッキーはニッコリ笑って、
 
「時はね、ひたすら流れていくよ。そしてね、流れ去った時は二度と戻らないのよ。どんなに親しくなっても、どんなに愛しても必ずいなくなるの。そりゃ、寂しいのよ。だからこそ仲間は大切。真の意味で掛け替えがない仲間ってこと」
 
 今日のユッキーの話は重い。
 
「掛け替えのない仲間のためなら、命ぐらいはいつでも捨てるさ。失ったら生きている意味さえなくなるからね。シオリもエレギオンの女神として復活したんだから、わたしもみんなもすべてを犠牲にしても助けるよ。時の放浪者の同行者なんだから、それぐらいは当たり前過ぎること」
 
 ユッキーが女神たちのリーダーとされてるのが良くわかる。そう言えば高校の時も氷姫としてあれだけ怖れられていたのに、なぜか慕われていたものね。
 
「ところでだけど、麻吹つばさってバージンなの」
「それはシノブちゃんの方が詳しいわ」
 
 やはりエレギオンHDで調べ上げてたんだ。
 
「まず高校時代の明文館タイムスには交際記録は残されていませんでした」
「へぇ、まだ明文館タイムズってあるんだ」
「ええ、もっとも今はIT化されています」
 
 時代の進歩ね、
 
「大学に入ってからも男っ気はありません」
 
 ないだろうな。部屋中探して回っても、それらしいもののカケラもなかったもの。
 
「その後、退学されるまでも・・・」
「そこは知ってるからイイよ。となるとまだね。ユッキー、やっぱり痛いかな」
 
 ここでユッキーが、
 
「これも教えとくけど、宿主が代わっても技能は受け継がれるのはわかったよね。それでね、アレの時の感度も受け継がれるんだよ。だから女神が燃えた時は大変なことになるのよ。カズ坊の時もそうなっちゃったでしょ」
 
 あれはカズ君が凄かっただけじゃなく、わたしの体にも長い年月の記憶が刻み込まれていたからなのか。
 
「主女神ってそんなに」
「うん、百二十人の愛人とノン・ストップでやりまくっても、疲れることがなかったとなってる」
 
 げっ、色情狂みたいなものじゃない。たしか主女神って一万年だっけ。
 
「でもさぁ、加納志織のロスト・バージンの時も、その後もカズ君までそんなに良かったことがなかったんだけど」
 
 ユッキーがニヤッと笑って、
 
「まず加納志織が極度の不感症であった可能性がある。コトリの小島知江時代もそうだったみたいだから」
 
 ユッキーのいう宿主依存性の部分かな。それにしてもユッキーのニヤニヤは今日は気になるわ。
 
「それとね、記憶を受け継がない時には眠っていた技術が甦るのにキッカケが必要なのよ。たとえばミサキちゃんはラテン語だって、エラン語だってペラペラだけど、シノブちゃんは出来ないもの。シノブちゃんにはキッカケがまだないからね」
「そんなもんなんだ」
 
 ユッキーはニヤニヤしながら、
 
「シオリの最初は坂元だろ。そんなに下手だったの。普通にやれば目覚めるんだけどねぇ。たとえ童貞相手でも目覚めるはずだけど」
「そっか、わかったわ。坂元は極端な早漏だったし、その後の連中も打算尽くで抱かれてたから目覚めなかったんだ」
 
 たぶんだけど心の底から愛してる男と燃えたら目覚めるんじゃないかな。
 
「シオリは理解が早いね。たぶん、その通り。でも坂元は愛してたんじゃないの」
 
 なんか話に流れがヤバイけど、ま、いっか。女同士のモロの猥談も久しぶりで楽しいもの。坂元は高校から付き合ってたし、愛してたけど最初が酷かった。いくら恋人同士でもレイプ同然だったものね。
 
「シオリ、それでも無理やりなら感じなかった」
「どうしてそれを知ってるの」
 
 ユッキーの奴、そこまで調べ上げてるとか、
 
「やっぱり。何されたの、教えて、教えて」
 
 これは口にしたくなかったけど、ユッキーの執拗な追及に釣られてつい、
 
「電マとオモチャの攻撃」
「うんうん」
「前と後ろとクリと乳首に同時やられてエンドレス」
「クリに電マは強烈よね」
 
 そりゃ、感じたけど、死ぬかと思った。たぶんだけど、あの時にエクスタシーって苦しみだと思っちゃった気がする。だってさ、泡吹いて失神しても、次に目覚めるのはイク時の強烈なやつだもの。それを延々と何時間もだよ。
 
「坂元ってそんな趣味だったんだ。わたしは興味なかったけど、コトリも下手すりゃやられてたかもね。でも、ひょっとして残念がったかもしれない。コトリは案外好きなのよ」
 
 坂元も思えば数奇な運命をたどったよね。高校の時にはユッキー様になったユッキーに手を出しかけたし、わたしはモロいたぶられたし、一時はコトリちゃんとも付き合ってたものね。
 
「コトリちゃんは坂元とやらなかったの」
「そうみたい。わたしもコトリの事を言えないんだけど、やるのも大好きだけど、やるまでのステップも大好きなのよ。コトリはそのステップをやってるうちに、カズ坊に乗り替えちゃったってところかな」
 
 それでも坂元は最後にみいちゃんに救われたのかな。ユッキーはどこまで知ってるのだろうか。
 
「坂元がどうなったかを知ってる」
「もう亡くなったよ、みいちゃんもね」
 
 そんな歳だもんね。時が流れるって死んで欲しくない人も死んじゃうけど、そうでない人も同じように死ぬんだわ。それにしても今日のユッキーのニヤニヤはしつこい、
 
「これから経験するだろうけど、あのクールそうなミサキちゃんだって、どれだけ乱れる事か。ミサキちゃんの体にも四千年分の体験が刻み込まれてるのよ」
「社長、ちょっと待ってください。どうしてミサキが引き合いに出されるのですか」
「たとえよ、たとえ。でも、マルコもイイ歳になっちゃったから、寂しいんじゃない」
「寂しくなんかありません」
「えっ、今でも毎晩頑張ってるの?」
「やってませんよ。いくつだと思ってるのですか!」
 
 これがわたしの仲間なんだ。そう、永遠の時を旅する仲間だ。ちょっと下品だけど。

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