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デザインの独り相撲を回避する「普通から少し視点をずらす力」

デザインは良くも悪くも普通が大事だと思っています。
普通を押さえた上で、そこから少しずつ視点をずらしながら必要なエッセンスを足し引きしていく。これが僕のデザインプロセスの一部です。

なーんて、偉そうに書きましたが、デザイナーにとってはわりと一般的なプロセスだと思います。

一方、「良いデザイン案を出してやろう」という野心的な想いで、全く別のプロセスでデザインする人もいます。
少しでも良いものを仕上げたい。他よりもカッコ良く、余所よりも可愛く…。強い情熱と勢いでデザインを組み立てていくやり方。
20代半ばの僕自身がまさにコレ。
ところが、経験を積んだ今だからわかるのだけれど、このアプローチばかりを強めてしまうと思わぬ落とし穴にハマります。その作業が主な目的となり、本来解決すべき目標を見失ってしまう。これでは、せっかく頑張ったデザイン案も採用されることはありません。
僕が20代半ばで苦しんでいた大部分の要因がコレです。

普通のデザインを知る 視点をずらす

では、落とし穴にハマらないために何をするべきか。それが冒頭で紹介したデザインプロセスを活用することです。

普通を押さえた上で、そこから少しずつ視点をずらしながら必要なエッセンスを足し引きしていく。

僕のチーム内にも知り合いにも、似たような悩みを抱えているデザイナーがたくさんいるように感じます。
そこで今回は普通のデザインを知る、視点をずらすという切り口でデザインプロセスを活用する方法を紹介したいと思います。

普通のデザインを知る

普通のデザインって聞くと、何だかあまり良いイメージが湧かないですよね。ところが、普通のデザインとは長いデザイン史の中で蓄積、実証され使われ続けてきたナレッジの集合体なので、基本的には優等生だと言えます。つまり、普段見たり利用したりする何気ないデザイン成果物の一つ一つがお手本なのです。だからこそ普通のデザインを知ることが重要になります。

デザインする際、すぐに制作作業に取りかかっていませんか?一呼吸置いて、デザインの対象をたくさん調べてみることをオススメします。
例えばWEBサイトの制作であれば、同業種のWEBサイトがどんな感じになっているか調べてみる。だいたい10サイト程度確認すると全体の傾向が掴めてきます。傾向の集合知=普通なので、これを繰り返すことでたくさんの普通のデザインを知ることができます。

極端にカッコ良い・可愛いといった普通ではないデザインもまた魅力的ですが、Twitterの#デザイナーあるあるでも多く語られてきたように「これまでとは違うデザインが見たい」「今回は尖った感じで」というオーダーは十中八九採用されません。
これまでの流れを断ち切る一手は、クライアント側もなかなか手を出しにくいのです。担当者の一存で白が黒に変わったら、後で上司にこっぴどく叱られる訳です。何だかんだ普通な感じに落ち着くのが当然の流れと言えますね。

とはいえ、それだけでは似通ったデザインが巷に溢れるだけで面白味がなくなってしまいます。そこで重要になるのが次に紹介する普通のデザインから少し視点をずらす作業です。

視点をずらす

普通のデザインとは、言ってみればデザイン表現の原点です。右も左も同じようなデザインの集まりとなっています。デザインの差別化とは原点から少しずつ視点をずらし、普通の良さとオリジナリティの良さとがちょうど良いバランスで見られるポイントを見つける作業と言えます。

デザインを差別化する要素は数多くあります。僕が日常の業務で意識するものは優先順でこんな感じです。

・デザインコンセプト
・CI(コーポレートアイデンティティ)やトンマナ
・デザイナーとしての自分らしさ

僕の会社は、課題解決をベースに考えるのでその解決策を含んだデザインコンセプトが最優先されます。そこからクライアントのCIやトンマナと照らし合わせてちょうど良い着地地点をコミットしていきます。
そう、本来デザインの方向性はクライアントとのコミュニケーションの延長線上で生まれることが望ましい訳ですね。
ぺーぺーデザイナーの一存で決めてしまおうなんて考えがおこがましいのです。15年前の自分を半日かけて説教したい。
とはいえ、優先順位は決して高くないものの自分らしさも大切です。世の有名デザイナーさんはクライアントの要求を満たしつつ自分らしさもしっかり表現されていますよね。面白いのは、だからと言って「これ、○○さんのデザインだ!」とは中々特定できず、言われてはじめて「あ〜○○さんっぽい!」と納得することが多い点。
優秀なデザイナーによる優秀なデザインの形の一つだと思います。

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以上のような流れでデザインすることで、必要な基本は押さえつつ、オリジナリティもしっかり表現することが可能になります。

コンセプトに寄せすぎることで基本を見失いリテイク地獄にハマる。僕はこれをデザインの独り相撲と呼んでいます。
相手をしっかり土俵に上げてから寄り切る必要があります。エア寄り切りは厳禁。


有名なアートディレクター、デザイナーも実践している

今回紹介したプロセスについて、アートディレクター水野学さんの著書「センスは知識からはじまる」でとてもわかりやすく紹介されています。
水野さんは著書の中で下記のように書いていますね。

・センスとは、数値化できない事象のよし悪しを判断し、最適化する能力
・最適化するには、よし悪しを判断できる知識が必要
・知識を得るには普通を知る。良い>普通>悪いの尺度を持つことが正しい判断に繋がる。

デザイナーのセンスは知識に裏付けされるものであり、その知識は多くの普通を知ることで生まれるということです。
とても論理的でわかりやすいなーと思います。

また、僕が尊敬してやまないグラフィックデザイナーの原研哉さんも、著書「デザインのデザイン(special edition)」でデザインの視点について次のように語っています。

「むしろ知っていたはずのものを未知なるものとして、そのリアリティにおののいてみることが、何かをもう少し深く認識することにつながる。」

視点をずらすことは、それまで見てきたモノを違った形で再認識させる。この認識は深い………。


まとめ

良いデザインを効率良く生むためには、普通のデザインを知ること普通から視点をずらしていくことが大事です。
デザインの独り相撲には十分お気を付けください。

どすこい。

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