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新規プロダクト立ち上げを支えたプレイリストたち


「勝敗なんて、揺蕩っていて当たり前。それが念での戦闘。だが、それでも、100%勝つ気でやる。それが念使いの気概ってもんさ。」

出典: 冨樫義博『HUNTER×HUNTER』

こんにちは。CADDiの白井です。 (@yskeee000)

私は今、CADDi Drawer事業のCPOを名乗らせていただいていますが、この事業・プロダクトは約3年前から、CADDiの祖業とは別に立ち上げた新規事業として作ってきたものです。当時は新規事業開発室という名前で自分一人しかメンバーがいなかったところからスタートしました。

徐々にこの事業も育ってきたもので、顧客数も増え、熱烈なファンとも言えるお客様もおり、国を代表するようなナショナルクライアントの顧客にも恵まれるようになってきました。(事業の詳細については長くなるので割愛します。こちらこちらをご覧ください。)

今でも一つ一つの意思決定や判断には迷うことが多々ありますが、0→1のフェーズでは確かな拠り所が今以上になく、どこかに正しい課題とその解決策、その延長線上に成り立つ事業が存在しているはずだけど、まさに揺蕩っている煙の中でそれを探しているような感じでした。

そうであるので、今現在ある程度メタ認知できるからこそ振り返れる学びをまとめてみたいと思ったのですが、これがなかなか難しいことに気づきました。というのは、スタートアップや新規事業のあれこれについてはすでにかなりの先人によって語られているので、いざ言葉にしてみると「いいことは大体誰かがすでに言っとる!」ということになるからです。

一方で、新規事業や新規プロダクトの開発においてはそんなに格言通りに色々割り切れないものでありまして、「〇〇のように思えるけどそれは自分の錯覚かもしれない(静物画効果)」だったり、「昨日の商談のお客さんには刺さってたけど、今日のお客さんは冷え冷え」で自信をなくしたり、そういう色々と迷う日々を過ごすことになります。

なので、0→1のフェーズを経てみて、自分なりに解釈が変わった格言めいたものたち、という観点で振り返ってみたいと思います。


振り返ると解釈がアップデートした格言たち


スタートアップの特に初期フェーズや、新規事業の立ち上げはこの20年来色々と科学されてきており、先人の格言めいたものがたくさん溢れています。

自分のN=1の経験で色々結論づけることは当然難しいですが、自分の経験を経た結果、それらの言葉を平面的に捉えると、「そうとは限らないな」ということもいくつかありました。これは、単にそれらのレッスンが間違っていたというわけではなく、自身の経験を通じてより深く理解できた、ということでもあると捉えています。
振り返って思い出される代表的ないくつかを書いてみます。

「誰のどんな課題を解くのか、がSharpである方が良い」

これはスタートアップやプロダクトマネジメントの世界でよく言われるものです。より具体的にユーザーのペルソナや課題を想定・言語化し、それを解決するソリューションを考えるのが良い、という趣旨のものです。

今振り返った時の私の解釈は、「誰のどんな課題を解くのか、を可能な限り解像度が高く理解した方が良い。しかし、ソリューションをその解像度に揃える必要は必ずしもない」です。

具体的に書きます。
CADDi Drawerでは、雑にいうと図面を早く/いろんな方法で検索できる、という価値をユーザーに提供するところからスタートしました。
図面というのは、設計から販売/営業まで色々な部門を渡り歩いて扱われるものなので、色々なユーザーが、色々な文脈で検索という動作をします。

この時、ユーザーをsharpに絞り込んでいくと「何のために検索するのか」や「検索の前後でどういう操作をするのか」が細分化して行きます。ここでユーザーや課題を絞り込んでいくと、当然操作性や画面設計をそれに最適化していくことになります。例えば、「設計部門のユーザーは、検索するときに設計仕様書が一緒に見たいから、それを検索結果画面に一緒に表示しておいた方がいい」など。

この時、我々はそこでStep backして、特定の「何のために検索するのか」という文脈を明示的にプロダクトに取り込まず、「何はともあれ図面を探している人が探せるようにする」という抽象度に留めることにしました。

この前段では、実際に少なくとも20~30程度の「どういう場面でどの場面のユーザーが図面を探したくなるか」という具体的なユースケースは特定しているわけですが、それとソリューションの設計は切り分けて、あえて具体的なコンテキストをプロダクトに取り込まないという意思決定をしました。

ソフトウェアでスプレッドシートを扱う最初期のプロダクトであったVisiCalcの初期は、会計士/経理部門が主たるターゲットだったそうです。もし、会計の課題を解決するプロダクトにフォーカスをしてそれに最適化していけば、それらは最終的に「会計ソフト」になっていたと思います。しかし、「会計士以外にも表計算を必要とするユーザーは多岐にわたる」というインサイトのもとに、特定のユーザーペルソナにソリューションを尖らせなかったから今日のエクセルやスプレッドシートに至れているのではないでしょうか。(もちろん、会計ソフトは会計ソフトで大きな市場として今存在しているのでどちらが正しいというものではないです。)

つまり、当然ユーザーの課題や行動については解像度が可能な限り高くなるように努めるべきだが、(市場や競合環境の成熟度合いなどの変数との兼ね合いになりますが)ソリューションのレベルにおいては、より抽象的なレイヤーが成立するならそのポジショニングに位置付けても良いというのが我々のbetです。
(今後数年の事業成果によって、より答え合わせされていくはずです。)

「どんな仮説検証をするのかが明確であった方が良い」

これはほぼ額面通り正しいのですが、「ある程度創発的な検証が含まれていてもいい」というのが自分の中では付記されています。

上記のように、我々が図面の検索体験を提供して検証する中では、「この文脈でこういう検索をしたいユースケースがおそらくあって、それが実際のユーザー行動として実現するはず」というピンポイントで想定しているユースケースがいくつかありました。

そういったピンポイントの想定があってそれが実際のユーザー行動として実現されるかという観察の一方で、「圧倒的な検索体験があれば、もっと色々な場面でユーザーは検索をするのではないか」という半ばユーザーの創発性に委ねた検証をするという目的もありました。

結果としては、かなり多様なユースケースが「検索」というHowを皮切りに顧客の中で生まれてきています。

もちろん、これも「検索性能が高ければ、ユーザーがどのようなユースケースで検索をするのかを検証する」という仮説検証の設定だと思えばこの教えの通りではあります。

しかし、どの魚を釣るかを見つけてそれをピンポイントでモリで刺すような検証だけでなく、魚群がありそうな場所に糸を垂らしてみて何が起きるかをみてみるような検証も、僕らの場合はworkしたという振り返りです。

「できるだけ小さなMVPを市場に投下するのが良い」

これも絶対的に正しいのですが、実情として「MVP(Minimum Viable Product) が期待しているほどは小さくならない」ということがあります。

我々がMVPで試したいと思っても、図面を始めたとした重要データを我々のプロダクトで扱うという意思決定をしてもらうためには、しっかりとしたセキュリティや統制の担保が機能上必要です。
また、しっかりと業務に本腰を入れて装着してもらい、実践的なフィードバックを我々が得るためには、ある程度の身銭を顧客にも切ってもらうことが必要です。そのためには、複数人のステークホルダーに顧客内で納得してもらう必要があり、そのためには我々も「MVPなので〜」という立て付けではなく、本腰を入れた仕立てが最低限必要です。

もちろん、これは我々のプロダクト特性(重要データx高単価)ということはあると思いますが、ソフトウェア産業の成熟もあり、様々な領域で、MVPのサイズの拡大は起きていることなのではないかと思います。

「CPF/PSF/…/PMFを順番に検証していく」

リーンスタートアップ以来のスタートアップのプレイブックでは、ニーズやソリューションに対する妄信を起こさず、一つ一つ必要な検証を行なっていくプロセスが言語化されています。

しかし、実際には特にtoBのプロダクトの場合はそれぞれのフェーズをそれほどしっかりと区切って認知して、ステップごとに進む、というほど綺麗なことができません。少なくとも我々の場合はそうでした。

ある程度定性的な情報が集まった段階で、実際のプロダクトとして小さくないサイズのMVPを作り、本腰を入れてきちんと「営業」をする。お客さんの購買の検討プロセスを経るために数ヶ月から半年程度がかかり、そうして初めて契約をして、その後業務装着を3~6ヶ月ほどかけてユースケースが生まれてきて、サクセスに至る。

もちろん、その前の段階でもモックでのテストや定性でのインタビューなど、それほど重量級のことをやらなくてもやれることはやっているわけですが、「顧客が実際の利用場面の環境を整え、ユースケースを実現し、払うお金に見合った価値がプロダクトから創出できる」という意味でのPSFはこの時点で現実の形として初めて証明できたわけです。

MVPの大きさや、このようなフェーズの割り切れなさが相まって、どこかで「これで勝負する」という見切りと腹決めが必要になるというのは、経験がある人なら当たり前だと思いますが、実感値としての振り返りです。

勝敗が揺蕩っている時を支えたプレイリスト

このように実際には振り返ればラーニングがそれなりにうまく進んでいた時にさえ、「これであってるのかな?」とほとんどの時間が考えていたと思います。まさにプロダクトの勝敗が揺蕩っている時に、自分を支えていた(大袈裟)、その頃のプレイリストを振り返って、よく聞いていた曲たちを抜粋して終わりたいと思います。

全体的にHIPHOPが多いのですが、まずは「陽の目を見てない間もやるべきことを積み上げて、最後はぶちかます系」の4選です。


同じくHIPHOPですが、どちらかというと色々夜中考えながら、明け方近くに逆にテンションが上がってきてゾーンに入ってきた頃に聞くと色々捗る一曲がこちら。


日々お客さんと話していると、なかなか嬉しいフィードバックも時々あるわけで、そんな時に聞きたいUP系の一曲がこちら。

そして最後に、これが一番聞いた曲です。
これはNHKの「加藤一二三という男、ありけり」という棋士の通称ひふみんのドキュメンタリーの最後に流れる曲です。
ひふみんの現役最後の一年の、その時に最後まで将棋に挑むスタンスに感銘を覚える名作なのですが、それを思い出させる一曲になっております。

最後に

絶賛引き続き採用中です!特にエンジニア・デザイナーが全然足りません!
よろしくお願いします!


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