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ユーミンの歌詞の世界のように生きたかった

ユーミンこと松任谷由実にはっきり意識を持って出会ったのは高校2年生くらいだったか。母親の持っていた「sweet,bitter sweet〜YUMING BALLAD BEST」というバラードベストを借りたのがきっかけ。

ウォークマンに曲を入れたものの、当時は浜崎あゆみばかり聴いていたので全然聴いてなかった。しばらく経ったある朝、学校に向かうバスの中で「そういえば松任谷由実、入れたよな」と思い出した。アーティストの「松任谷由実」を選択し、再生ボタンを押して聴いた瞬間に「これはやばい」と思った。情景が…浮かぶ…?!これは一体…?!という現象にいつもの通学バスの中で陥ったのだ。

その時は高校生だし、振られた働く女性の心情なんて経験してるはずもないのだが、わかった。正確にいうとわかっているような気にさせてくれた。
今だったらもう少し「この歌詞はだいたいあの場所っぽいな」くらい思いつくのだが、学校と家くらいしか行き来していないような高校生の自分にとってそんな気持ちになるなんてかなり衝撃的だった。いつものバスに揺られてバブル時代のOLの気持ちに想いを馳せられるなんて…。自分にとってかなり衝撃的な出会いと体験だった。

それまで浜崎あゆみ、倖田來未、安室奈美恵というギャルの鉄板!みたいな曲ばかり聴いていたし(彼女らの歌詞がどうとかではなく)それかアイドルソングという感じだったので、ユーミンとの出会いはより衝撃的だったのだ。

ユーミンはどの世代にもファンがいるし、どの世代にも男女関係なしにユーミンにまつわる思い出があるのだ。それってすごくないですか??
別々の場所で同じ生き方などしていないのに、同じユーミンの曲でそれぞれ青春を過ごしてきたなんて凄すぎる。ユーミンは多分時代に寄り添いつつ、少し高い場所から「今ってこんな感じでしょ?」と見ているんだろうなぁ。

それでこの文のタイトルなのだが「あー、ユーミンの歌詞の世界みたいに生きてみたいなー」とよく考える。ドラマチックな展開ではなく、抽象的で絵画みたいなユーミンの曲も良いのだが、まずなによりもドラマチックな曲を自分は好きになった。高校生の時にハマった曲は「グッド・ラック・アンド・グッドバイ」

なつかしいあのひとに 人ごみの中で会った
微笑む顔が少しはにかむの
昔のままだわ  
傷ついた恋なのに もう跡形もないのよ
偶然会えたら 泣きだしちゃうと
思っていたのに

まずこの部分、震える。初っ端からノックアウト。こんなドラマチックな再会がどの世界にあるんだよ?!と思ったものだし、傷ついた恋なのにもうそれは遠い昔のことで…泣き出すと思っていたのに…みたいな世界観、おいおい…最高…

そしてお互いに新しい恋人がいて、別々の待ち合わせの場所へと向かう。そして主人公はバスに乗り込むのだが、元彼に見送ってほしいのだ。バスが遠く見えなくなるまで。その理由は高校生の自分にはわからなかったし、今もわかるかと言われればわからないのだが、でも多分こうしてまた出会えたのも運命であり、お互いがまたそれぞれ幸せになれるように…せめて最後に見送っていてよね…と。だから歌詞は以下のように続く。

ふりかえる大通り あのひとに見えるように
混んだバスの くもった窓に書く  
大きく Good luck and Good by

なに?

致死量のドラマチック。くもった窓に書く文字がオシャレの域を超えてもう真似できない世界だし、トレンディドラマかよ!と突っ込んでしまいそうな感じだが、その大袈裟なドラマチックさで、この曲の世界観にグッとのめり込める。

ユーミンを初めて聴いてから8年くらい経ちましたが、まだこんな出来事を経験したことも、経験する可能性すらないかもしれないです。

でもそれはわからない。誰でもこんなドラマチックな体験をしてしまうことがあるかもしれない。モデルじゃなくても俳優さんじゃなくても。もし体験できた頃、ユーミンの言っている言葉がもっとわかるだろうし、こんな風に生きれたらきっと、すごく、楽しい。そして、別に経験などしなくても良いのだ。だってユーミンの曲で体験できているから。

この曲を聴くと冬の表参道が思い浮かぶ。
赤いバスに乗り込んで、くもった窓ガラスからまだこちらを見ている元恋人が愛しくなる。街の明かりは雨が降り出したせいでより一層輝き、今の恋人のところへ向かう気持ちと、昔の恋人に会えた気持ちでソワソワしている。まだバスを見送っているあの人へ、お互い幸せでいよう。そして「さようなら」の意味を込めて窓ガラスに『Good luck and Good by』と大きく書くのだ。

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