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[50] 隠し部屋のランプ

ランプはまだ
かすかに灯りを残している
そばで眠る少年の右腕は
カビの生えた人参さながら
黒ずんで うごかない
それでもインクは手の内
かたく握られている
やぶられた紙片には
いくつもの泣き言が記されているが
左手はペンを手放していない

彼の空想からうまれた
小鳥たちの
こえやうたはなく
羽ばたかせたはずの
クイの鳥が
彼の純粋な肉をついばみ
するどい嘴でちいさな背中を突き刺していた
ランプはむごい悪戯をするように
明滅をはじめる

床に散らばる紙片には
「ありがとう」
「ごめんなさい」
「さようなら」
三枚の細字
叶うなら
彼のわずかな空想をほじくり出し
あたたかく燃やせられる
言葉をくべてやりたい
忘れ去られることのない炎に
手を翳してやりたい

彼のくちびるは 息をする
弱々しくもれる 息をする
不憫な
だらしない口元
永遠の少年の
絞りだすような寝言を聞いた

戻ってきておくれ……
熱中も
慰めも
もういらないから
なかよしこよしだった よるのこと
懐かしむために
それだけのために


※ロマンスグレー着陸計画
(消えかける浪漫 前編)

お読みいただきありがとうございました。なにか感じていただければ幸いです。