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映画「レミングたち」の覚書 | #0 生きることを、つづけるために

2019年7月22日、心臓が一時的に停止しました。

まったく思いもかけず命の危機に瀕する病気が発覚し、心臓の大動脈弁の置換手術を行いました(経緯)。運良く今ではもうほとんど普通の生活を送ることができるようになっています。大変な出来事でしたが、それもあっという間に遠い記憶になりつつあります。

人生の転機

この出来事を人に話すと、よく「大変だったね」と言われます。健康を損ねたので、一般的には確かに不幸な出来事でした。周りの人にもたくさん迷惑をかけました。だからあまり大きな声では言えないけれど、実は病気が発覚したとき僕は少し心躍ったのです。

入院より以前、ずっと言い知れぬ不安と虚無感を抱いていました。自身への不信感でもあり、将来への不安感でもありました。人と話すことが苦手で、頭の回転も遅く、明らかに仕事でも悪循環を及ぼしていました。クリエイティブに対する才覚のなさへの焦燥感もありました。自己肯定感が著しく低かったように思います。ずっと続いていた倦怠感は、体調のせいだけではなかった気がします。

そんな鬱屈した状態の中で、心臓の手術なんていう人生の大きな転機が突如現れ、もしかしたらこれまでのネガティブな要素は全て心臓の不具合によるもので、だから麻酔から目覚めたら生まれ変わって、人となりもガラッと変わってるのではないだろうか、という無根拠な淡い期待を抱いたのです。

生きることを考える

けれど、この経験を経ても実のところ僕は特に何も変わりませんでした。相も変わらず鬱屈とした気分は抜けないし、人と話すことは苦手だし、芸術的な才能が開花したわけでもないし、部屋は乱雑に散らかったままだし、予定がなければずっと横になっているし、自己肯定感は低いままです。

ただ、夜になると機械弁のカチカチという音が響いて、あの出来事が夢ではなかったのだと実感します。

2ヶ月の入院生活はほとんどずっとベッドの上で過ごし、それは図らずも初めて腰を据えて「生きること」について思いを巡らせる日々となりました。感染性心内膜炎というこの心臓の病気が見つかったのは偶然に偶然が重なったもので、何かひとつ食い違いがあって気づかぬままだったら、ここ半年かそこらで或る日突然倒れてそのまま死んでいたか、重い障害が残るかの状態だったそうです。本当に運良く、変わらず生活している今の自分がいます。大して役にも立たない人間が、なぜ生かされたのだろうとずっと考えていました。何とかこれを糧としなければならないという焦りもあって、「レミングたち」を作ることにしました。入院中に脚本を書き始め、身体が動くようになった12月に撮影し、まもなく完成する予定です。

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この映画の最後に主人公はある行為をします。
それと、僕がこの映画を作るという行為は同義でした。
「その行為をやり遂げたことで、ほんの少しだけ何かが変わるかもしれない」という希望を抱いて、慣れない脚本を書き、慣れない監督をして、誰のためでもない自分のために、これから先の未来でささやかな拠り所となるように、この映画を作りました。だからこの作品は徹底的に自主映画なのです。退院後は仕事を控え、制作費としてなけなしの貯金もほぼ使い切り、ほとんどこの作品に注力しました。何としても今このタイミングで作ってしまわないと、"生きること"を続けれない気がしたのです。何かが変わったのかどうかは、まだ分かりません。

つまり、この映画は作りあげることこそが肝心で、完成した時点である程度の目的は達成されてしまいます。

けれど、やっぱり作ったからには観て欲しい。図らずも命について考えざるをえないこの時勢において、この作品がどなたかの心にに響くことがあれば、こんなに嬉しいことはありません。

そして何より今回の映画は、僕が尊敬してやまない魅力と熱意溢れる人たちに身を削って協力してもらって、やっと完成に漕ぎ着けました。だから、彼らの魅力を少しでも伝えるべく尽力していきたいと思っています。

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この映画のタイトルにも引用している「レミング」とは、北極圏に生息するネズミの一種で「海に飛び込んで自殺する」という風説があります。けれどそれは人間が勝手に決めつけただけで、本当はただ懸命に生きようとしているだけなのだと知りました。

こんなにすごい人たちがいるんだぞ、こんなに懸命に生きている人たちがいるんだぞ、と。この作品が少しでも結果を残して、彼らが多くの人の目に触れて欲しいと願っています。この作品に懸命に携わってくれた彼らへ対して、皆さんが少しでも興味と愛着を抱いていただけるよう、勝手ながら少しずつ紹介していけたらと思います。

感謝を込めて。

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最初は、主演の岡崎森馬くんについてです。

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