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映画「レミングたち」の覚書 | #7 渡邉聡

「レミングたち」で助監督・編集補佐・音響を担当してくれたのは渡邉聡、大学1年来の友人で、気づけばもう9年目の付き合いです。僕が撮影の道に進むきっかけとなった人物です。

映画を作る

大学1年生の終わりの頃、同じサークルの渡邉に声をかけられました。「今、自分で映画を作ってるんだけど手伝ってくれない?」と。まだ特にやりたいこともわからなかった自分は、深く考えずに引き受け、自主映画「HEAVEN FOR STRANGERS」に参加することになりました。

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出演者としてでした。太平洋戦争にて戦没した零戦パイロット・坂田十太郎(87)役です。エキストラかと思ったらけっこういい役でした。ちなみに、監督の渡邉も出演しています。

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戦国時代の武将・松永久秀(502)役です。この映画は監督の意向により今は封印されてしまっています。

大学に入りたての学生たちの、お世辞にもクオリティの高いとは言えない、けれど「作りたいから作る」という強い初期衝動に突き動かされた作品に初めて触れることができました。

幸か不幸かそれに取り憑かれてしまい、なんやかんやがあって、彼と映像製作団体Moveを立ち上げ、今に至っても色んな作品を作り続けています。

戦い続ける

渡邉とは、性格も全然違って、趣味も合わず、おそらくただの"同学年の友人"としての出会い方をしていたら、卒業とともに完全に疎遠になっていただろうと思います。そもそも仲良くなっていたかどうかも怪しい。

ただ、彼は映画・映像表現というものに対して尋常ではないくらいストイックに、真摯に、ひたむきに向き合っていました。大学入学時点で何もなかった僕と違い、彼は生まれた時から映画監督になると言って、その芯はブレることなく突き進んでいます。ある分野への突出した才能を持ち、才能という言葉で片付けては失礼なほどの努力を続けていて、しかもそれは努力ではなく当たり前のことだと認識しているような人たち。大学に入ってから、何人かのそういう人たちに遭遇してしまいました。最初の段階で僕は一度完全に戦意喪失しました。

少なくとも監督という同じ土俵ではとても戦えないと思い、僕は撮影監督を目指し始めました。監督同士だったらば基本的には敵だけど、撮影監督なら一緒に戦えます。大学時代、運良く周りに撮影監督を目指そうという人もいなかったからこそ、僕はニッチな需要のもと色んな作品に携わって経験を積むことができました。そうして撮影というものの楽しさにズブズブと沈んでいきました。

渡邉が生まれて初めて話した言葉は「ゴジラ」だそうです。それほどまでに怪獣を愛している彼は、大学3年生の時に自分で怪獣映画「大怪獣グラガイン」を作っています。素人目には違いがわかりづらいですがグラガインはゴジラとは全く別物な怪獣らしく、曰く「背ビレがぜんぜん違う」とのことです。ただこの映画の肝は怪獣が登場することではなくて、たった20分の間、ほぼ4人の青年のみのお話でありながら彼の演出によって保たれる緊迫感こそが一番の面白さだと思います。

そうやって、彼の才能に驚き学びながら、ときどき人格を疑いながら、在学中も卒業後も色んな作品を作って来ました。

そういう意味では、この「レミングたち」では僕が監督と撮影を兼ねるという今までと比べるととてもイレギュラーな現場でした。渡邉は商業作品の助監督経験もあるため、そつなくサポートしてくれました。俳優部への気配り、美術・衣装の管理、演出面やカット割りについてまでものすごく助けられました。そもそも監督と撮影の兼任は無謀すぎました。もうしません。

わたなべ助監

やっぱり我々の本領が十二分に発揮できるのは、これまでのように彼が監督、僕が撮影という体制こそだろうと感じます。そして、今渡邉は水面下で新たにとんでもない、同世代の化け物たちを引き入れつつあります。まだまだ大言壮語と言われるかもしれませんが、それでも世界を狙った映画を作ろうと、この1年で勝負をかけます。彼と作ろうとしているのは、より多くの人が楽しめるエンタメ作品です。「レミングたち」というごくごく個人的な作品とは全く趣向の違った、開かれた作品になるはずです。ぜひ、今から興味を持ってもらえてら幸いです。

これからも彼と同じ土俵で戦い続けられるよう、頑張ります。


次は、板垣真幸さんです。


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