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今までのレコーディングを振り返る vol17『魂/Kon』安富祖貴子(M&I)2006

今までのレコーディングを振り返る vol17『魂/Kon』安富祖貴子(M&I)2006

ニューヨーク在住時代から僕のアルバムをリリースしていただいていたM&Iカンパニーというレーベル。2ndアルバムからレーベルがポニーキャニオンに集約されるまでずっとアルバムを出していただいていました。
そのレーベルのプロデューサーの横田さんのこだわりで、ボーカリストのアルバムは出していませんでした。それどころか、最初は日本人アーティストは僕しかいないというこだわりよう。
2005年に帰国を記念して制作したアルバム「Back To The Groove」をリリースした頃。
プロデューサーの横田さんから「ボーカリストのアルバムをプロデュースしてほしいのだけど」と相談を受けました。
「え!ボーカリストのアルバムは出さないのでは?」と僕。

実はM&Iカンパニーは色々なジャンルを手がけているマネージメント会社でもあって、その中のアーティストにディアマンテスというアルベルト城間さん率いるディアマンテストと言う有名な沖縄のバンドがありました。
そのバンドのメンバーでキーボードとコーラスを担当している貴子ちゃんをソロデビューさせたい、と社長が横田さんに頼んできたらしいです。

しかもジャズボーカリストとして。

アフソタカコちゃんというボーカリストは普段は沖縄在住なので面識も知識もなかったのですが、社長は絶賛しておりました。

そこで、当時レーベル所属だったアーティストの大隅寿男(ds)安井さち子(p)川嶋哲郎(ts)などのメンバーで伴奏を担当してアルバムを制作することに。

まず、選曲やアレンジするためにミーティングを東京で持つことに。

まず、歌える曲を歌ってもらいました。ソウル系の曲だったと思いますが、日本人離れしたパンチ力のある歌声に驚きました。

しかしジャズはほとんど歌った経験もなく、あまり知識もないという事がわかってきました。

さて、どうするか。

なんとなく、ジャズっぽいものをでっち上げてもよかったのですが、せっかくの歌唱力をそんな風に制作したアルバムを出しても多くの人に届かないのでは、と僕は思い提案を。
レコーディングまで時間を作ってもらい、徹底的にサラ・ボーンやニーナ・シモンの歌い方や歌い回しを身につけて欲しいと。

もともとキーボードを弾いていたこともあり、音感の良さも相まって、すぐにサラ・ボーンのレパートリーは同じように歌えるようになりました。

何度かの東京での打ち合わせや、アレンジのためのリハーサルを繰り返しているうちに、これは良いものが出来そう、と言う予感がしてきました。

しかし、ジャズの世界では全く知られていないので、アルバムを制作しても、それがどんなに内容がよくても、セールスとして成功するかどうかはまた別の話です。

当時の日本でのジャズのボーカルの主流はいわゆる「癒し系」と呼ばれる綺麗な声をソフトな発声で歌う女性ボーカルがもてはやされていました。そういったアルバムはセールスも好調だったようです。

アフソタカコさんの持っている声はこれとは対照的。パンチ力があって深くて太い声。これを生かさない手は無い、そう直感的に判断。

そして、何と言っても自分の名前でアルバムを出すからにはレーベルやレコード会社、いわゆる大人の事情で制作されたことが滲み出てしまうようなアルバムではなく、アーティストとして、自分の人生の一コマを後世に残しても胸を張って聞いてほしい、と言えるようなものが制作したかったのです。

なんども選曲、アレンジなどの会議が持たれました。なにせ、無名の新人のデビュー作で、あまり期待もされていなかったので予算も少ない中での制作となりました。

こう言った過程を経てのアルバム制作でしたが、逆境をみんなで乗り越えての作業は後で思い出すと良い思い出となります。

幸い、リリースされた後は注目を集め、セールスも好調、雑誌の賞を取ったりもしました。

その後、貴子さんのアルバム制作には3枚携わることができ、ニューヨークまで録音に行ったりとアーティストとしては良い人生を歩んでいただいたのではと思います。

売れても沖縄に住み続け、今も安定した活動を続けているようです。人に感謝を忘れないその人間性こそ、人の心に届く歌を歌える秘訣かもしれません。

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