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子どもたちの現状を把握する - オランダと日本は教育でつながっていた - 金森俊朗氏から学ぶこと②【Aflevering.32】

 世界一子どもが幸せな国とされたオランダでも、教育で抱えている課題はあります。そして、これまでも教育への圧力がかけられており、学力向上を要求されたことによって、教育内容が形骸化するという危機感があったそうです。

  上に記載した記事でも述べたのですが、2012年に金森俊朗氏がオランダで講演をされ、合計4000名以上の参加者にご自身の想いを届けられたそうです。

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写真は、北陸学院HP「金森俊朗氏教授『オランダ講演・授業の旅』より」のPDFファイルから掲載したものです(最終閲覧は2021年5月17日)。

 金森氏の書籍を読んで、子どもの教育において大切だと思ったことについてまとめておきたいと思います。なお、以下に使用しているデータは書籍からではなく、なるべく新しい情報を集めてきました。今回のテーマは「子どもを取り巻く現状」です。

過度な競争と「子どもの疲れ」

 国連子ども権利委員会によると、

「過度の競争に関する苦情が増加し続けていることに懸念をもって留意する。委員会はまた、高度に競争的な学校環境が、就学年齢にある児童の間で、いじめ、精神障害、不登校、中途退学、自殺を助長している可能性がある」
「ストレスの多い学校環境(過度に競争的なシステムを含む)から子どもを解放するための措置を強化すること」

という過度の競争による子どもへのストレスについて指摘しています。
 これに対して、日本政府からの定期報告の中には、その客観的な根拠について明らかにしてほしいという回答がありました。
 因果関係として捉えるのはとても難しいのですが、日本の学校の子どものたちがストレスを日々抱えているのは、私としては間違っていないように思います。

 これについて、金森氏は「子どもの疲れ」について言及しています。

 子どもの疲れの原因は、子どもたちが「3つの学校」に環境にいることだとしています。
 学校が終わったら、次は習い事や学習塾に行きます。そして、家に帰ると、宿題のドリルや家庭学習が待っているということです。
 ここでの習い事については、大人は気晴らしとして利用しているものが、子どもにとっては評価される場所になっていると述べられています。

 金森氏によれば、この状況では子どもたちは遊び呆ける時間が取れず、遊びの中で人間や自然との関係を学ぶ機会が抜け落ちてしまうことを指摘しています。また、地域社会との関わりの希薄からも、子どもと関わる大人の数も減ることになります。
 ちなみに、ユニセフ報告書「レポートカード16」によると、外遊びをする子どもの幸福度は高くなる可能性が高いとしています。

子どもの「情緒(精神)的幸福度」で考える

 何かの比較(特に国際比較)をする時は、単に数字を見比べるだけでなく、その内容を慎重に吟味しなければなりません。

 2020年に発表されたユニセフレポートによると、日本の精神的幸福度は38ヵ国中37位でした。これは生活満足度や自殺率から出された順位です。
 特に自殺に関しては、厚生労働省の「自殺対策白書」によると、若年層の死因が「自殺」であることは、先進国では日本のみとされており、それが異常であることを示しています。その他、精神的幸福度に関係しそうな項目について考えてみたいと思います。

①「自己肯定感」が圧倒的に低い日本

 内閣府「子ども・若者白書」(2019年)によると、「自分自身に満足している」という質問に対して、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた割合は45.1%しかおらず、諸外国(平均80%ぐらい)に比べると圧倒的に低いことが分かります。

②「孤独を感じる」子どもが圧倒的に多かった日本

 新しいデータを見つけることができなかったのですが、2007年のユニセフ調査(レポートカード7のP68,69)によると、日本の30%が孤独を感じており、これは2位の国の3倍という、諸外国の中で圧倒的な数値が出ました。時間の流れとともに、数値に変化はあると思いますが、精神的幸福度とも関係があるように思います。

 その他、不登校についても2020年で7年連続増加ともなっており、子どもを取り巻く状況はかなり深刻であると考えることができます。

子どもを見る周りの目線

 2015年に株式会社ボーネルンドにより発表された「子育て中の母親と子育て未経験・経験済み男女の子どもがいる環境に対する意識調査」では、「日本は子育てに寛容ではない」と感じている子育て中の母親が多いという結果を示しています。「日本社会には子育てを温かく見守る環境が整っているとは言い難い状況だ」としています。

 また、困っている親子を見かけても半数以上の人が「助けたことが無い」と回答しており、さらに「6割以上が外出中に他人の子どもの声が気になったことがあり、公共の場でより高い傾向がある」という結果が出ています。

 これに対して金森氏は、公共の場での冷たい視線の背景には、競争化社会と学力向上主義教育があるとしており、子どもの精神的幸福度が下がる要因にもなっていると指摘されています。

 こちらの調査結果については、<参考ホームページ>一覧にリンクを付けているので、ぜひご覧いただきたいと思います。

子どもの幸福度を高めるためには

 これらの現状を踏まえて、金森氏は、

・休み時間をどこかで長く取ること
・体育を見直すこと
・行事を見直すこと
・授業で学び合うことを強めること

などの必要性を述べていました。

 また、子どもの精神的幸福度を高めるために必要なのは世界教育遺産でもある「生活綴方教育と生活教育」だと述べており、自分を表現することや心の叫びを大事にすることが大切だとしています。また、周りの視線を意識しすぎて自分の気持ちを押し殺してしまうのは危険なことだとも指摘しています。

 学力や学校のあり方、子どもたちの人間関係や教員の関わり方についてはまた別の記事でまとめたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました!

<参考文献>
・金森俊朗『子どもの力は学び合って育つ』(角川oneテーマ21、2007)
・金森俊朗、辻直人『学び合う教室 金森学級と日本の世界教育遺産 』(角川新書、2017)


<参考ホームページ>

・子どもの権利委員会による総括所見(最終閲覧日2021年5月17日)

内閣府2019年度「子ども・若者白書」(特集1)(最終閲覧日2021年5月17日)

・ユニセフ レポートカード 7 および16(最終閲覧日2021年5月17日)

・厚生労働省「自殺対策白書」(最終閲覧日2021年5月17日)

・文部科学省「平成 30 年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」(最終閲覧日2021年5月17日)

・株式会社ボーネルンド「子育て中の母親と子育て未経験・経験済み男女の子どもがいる環境に対する意識調査」(報道発表資料より、2015.04.21)(最終閲覧日2021年5月18日)

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