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英語のスピーキングが苦手な私が、英語話者の大人の方に日本語レッスンをする【Aflevering.230】

 私は、日頃オランダで子どもを対象とする日本語教室をしています。最近、大人向けの日本語レッスンのご依頼をいただく機会があり、大人向けの日本語レッスンにもチャレンジしています。

 日本語レッスンを希望してくれる方は、教室に通ってくれている子の保護者やその知り合いです。そのため、全くの0から始めるという学習者は少なく、それなりに日本語に触れてきた方が会話力を鍛えたり、日本語を学んでいて疑問に思ったことを解消するためにレッスンを受けてくれているという感じです。
 そんな大人向けの日本語レッスンをして、学んだことや気づいたことをまとめておきたいと思います。

英語は中学校までに習った文法と単語までで何とかなっているような「気がする」

 私は中学校から大学受験まで英語を学びましたが、正直英語は自信がありません。文法やリーディングはたくさんトレーニングしてきたので、一般的なレベルに到達しているとは思いますが、英語でのコミュニケーションとなると困ってしまいます。何といっても聞き取ることが苦手なのと、会話というリアルなコミュニケーションの中で、咄嗟に出てくる表現が思いつかなかったり少ないというのがあります。

 あらかじめ受講者の方には、私が英語ができないことは伝えていましたが、それを了承していただいた上で受講してもらっています。最初はうまくいくかどうか不安で緊張していましたが、いざ始まってみると「英語ができないからレッスンがうまく進まない」ということは起こりませんでした。聞き取れないことは聞き返せば良いし、中学校までに習った基本的な表現と単語とGoogle翻訳の手助けがあれば何とかなります。

 何よりも、私は元々普段のスピード感のある会話は日本語であっても苦手です。むしろ、レッスンのように限定的な環境下では落ち着いて話すことができます。そのため、英語ができないことを苦に感じることはありません。ただ、もう少し私が細かいニュアンスまで伝えられるぐらいの英語力があれば、授業の質が上がるのだろうなという悔しい思いがあるのみです。

失敗は成功の元

 私はこれまで母語以外の言語を学ぶ立場でありましたが、教える立場というのはほとんど経験したことがありません。しかし、教える側に立ってみると、言語の学び方について新しい視点を持つことができました。

新しい言語を学ぶ時、分からないことがあるのは当然で、むしろ新しい言語にチャレンジしていることそのものが素晴らしいことなのです。
 私がレッスンを受ける立場であった時は、早く上達しなければならないという思いがあって、言いたいことをうまく表せなかったり、教えてもらったことを忘れた時は申し訳なく思っていたのです。私が受講していたオランダ語の先生は「そんなこと問題ではないわ、きちんと話せているじゃない」という優しい言葉をかけてくれたのです。そのことがとても印象的でした。

 私が受講者を目の前にした時も、日本語をうまく表現できないことで申し訳なさそうにしていたので、私も「全く問題ないよ、チャレンジしていること自体にとても価値があると僕は思う」と声をかけました。「むしろ分からないところはなんでも聞いてね」と伝えると受講者の方も安心したようでした。

新しいことにチャレンジするのだから失敗して当たり前。失敗を繰り返して日本語を身につけていってもらいたいと思います。

学習者を主体とするレッスン

 レッスンの受講者は日本語がゼロの状態ではなく、家庭では日本語が使われる場面もあります。そのため、レッスンは日本語を聞き慣れている学習者がこれまで耳にしたことで疑問に思ったこと、これまで日本語のレッスンを受けていて質問できていなかったことを解消していくスタイルにしました。
 受講者が疑問に思っていることをその場で聞き取り、すぐに説明するのは難しいと感じることもありますが、私にとって充実した時間になっています。

言語は文化と密接に結びついている

 レッスンの途中、私にとってとても興味深いことが起こりました。受講者の方は、日本語の言葉をとても慎重に選んでいて、それが言葉自体が思いつかないのか、言い方に気を付けているのかがはっきりとしなかったのです。

 しかし、レッスンの途中で聞いてみると「日本語は敬語を使う場面が多いけれど、家族でそれを使うと子どもから変だと言われるんです。日本語を話す人にとって敬語というのはどんな場面で使っているのかを知りたい。例えば、私は先生(私)よりも年上なのだけれど、相手は先生だからどっちを使えばいいのか混乱しているの。」と話してくれました。また、「フランス語を話す友達がいるんだけれど、フランス語は相手によって表現を慎重に選ばなくてはならない。そして、私の友人のそのまたその友人(年下なのだけれど立場が上の人?)からフランクに話すのはやめてくれと言われた。」のだそうです。私はフランス語は学んだことがないので詳しくは分かりませんが、その国の文化や考え方が言語に反映されていると感じました。

 日本人にとっての敬語とは、年齢と立場、その人との親密度などが影響してくると思います。一般的な話として、年齢の上下によって話し方が変わるのは大きいと思うと伝えました。私個人としては、これまでいろんな子どもたちと触れ合ってきたので、敬語が正しく使えているというよりも、話し方とか表情、声のトーンの方がコミュニケーションの上では大切だと思っています。もちろん、初対面で日本語が母語の子どもからタメ口で話しかけられると驚きますが、、、。

 母語話者にとって何気なく分類できていることも、日本語を外国語として学ぶ人たちにとっては分からないことがあるというのがとても面白いと感じました。

大人と子どもは学び方が違う

 以前、シュタイナー教育についての本を読んでいたときに、大人と子どもの学び方は違うと書かれているのを見ました。その本によると、子どもたちは一つずつ具体的な事例をたくさん習得して、次第にそれらを一般化(抽象化)していくのに対して、大人は抽象的な概念から具体的な事例に落とし込んでいくことが多いのだそうです。

 確かに、私がオランダ語を学習した時も、助動詞を使って質問する表現を作りたい時は、「助動詞+主語+目的語+動詞」などと考えて、そのフレームに言語を当てはめていました。しかし、子どもたちはたくさんの言葉のシャワーを浴びながら常に表現を確かめながら学んでいるのだそうです。改めて子どもたちは本当に毎日よく学んでいるなと感じます。

 以上が私が最近始めた大人向けの日本語レッスンで学んだことになります。新しいレッスンの依頼は私にとってとてもワクワクさせるものであり、同時に自分の視野を広げてくれる良い機会になっています。
 これからも自分がこれまでに培ってきたスキルを活かして、いろんな教育サポートを求めておられる方々の役に立てたらと思います。

 最後までお読みいただきありがとうございました。



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