見出し画像

江戸中期から伝わる「皮なめし」をイノシシでやってみた ⑫師匠の時短アイデア

このシリーズは、ある狩猟雑誌の取材をかねてチャレンジしています。プロのアドバイスも交えて手順をまとめた記事は、誌面で公開されます。(3月には告知ができると思いますので、お楽しみに!)

塩漬け・熟成をはじめて17日目の3月7日。サンタ・・・いや、師匠より贈り物が届く。

画像1

じゃじゃーん、菜種油!!

500mlのペットボトルがピッタリ入る見事な筒は、できあがった革を巻きつける芯だそうだ。そんなことまで、いちいちウレシイ。

これって・・・、「次の工程に入ってよし」という合図??

師匠に電話すると、「弾力がちゃんと変化したので、ちゃんとなめし(軟化)はできたと思ってええよ」とのことだった。やったー、がんばったね皮太郎。GO NEXT STAGE!!

完成を早めるウルトラQの方法

今の皮の状態は、塩やミョウバン、小麦粉まみれである。本来ならこれをいったん水で洗い、乾燥させてからじっくり菜種油を塗りこむ。これを「油革もみ」というらしい。

だが、今回水で洗ったりしていたら「油革もみ」にたどり着くまで2、3日はかかってしまうかもしれない。そこで師匠は言った。

「もう、このまま塗っちゃうか!(笑)」

えー、師匠。なげやりwww!? と思ったら、実はここにも科学的な深ーい考えがあったのだった。

その考えとはーーー、って説明する前に、翌日の3月8日。まずは師匠に言われたテストを行いました。

画像2

革の端だけをちょびっと使います。袋からそのまま出すと、不思議な既視感が・・・ティッシュボックスに似てマスね。ほかが守られていい感じ。

画像3

菜種油をぬちゅぬちゅ揉みこんで10分。表面のヌルヌルした感じが減って、水っぽくなった。皮の張りも減って、くたんとした感じだ。

実はこれがスゴイ大事なんだって!

さっきの師匠の時短アイデアを説明しよう。

油(特に菜種油)は高分子だから、水の上に乗っかってしまい、なかなか奥まで浸透していかないんだそうな。しかし、そこが酸性となると話は別、ちゃんと入ってくれるんだって。今の皮太郎はミョウバンなどにより酸化している。しかも、水を吸い出して外の成分を入れ込んでくれる塩や、分子の手で菜種油をキャッチして留めておいてくれる小麦粉がいる。

わかる?わかるかなー? わたしも師匠の受け売りで完全には理解してないんだけど、とにかく、菜種油の受け入れ態勢が万全ってことなのだ!!

師匠すげー。納期に合わせて工程を変えるなんて、本当にプロだ。今さらながら感動と尊敬しかない。

画像4

キッチンペーパーで水気を吸い取ってから、ドライヤーで水分と飛ばしてみる。白なめし皮は60℃以上の熱で茶色く硬くなってしまうそうなので、熱の当てすぎには注意だ。

画像5

15分ぐらいで、皮を指で押しても水がつかない程度にはなった。おお、スルメに戻らない! 柔らかさはキープされている。

12時を過ぎても「灰かぶり」に戻らない、シンデレラの誕生だ!!(皮太郎はオスだけど) 乾いても柔らかいこと。これが「皮」が「革」になったことの証明なのだ!!

師匠にLINEで報告すると

「凄いことやりましたね」

とお褒めの言葉をいただいた。皮の厚いイノシシをなめすって、すごいいことらしい。いよいよ全体に菜種油を塗ってもよいとのお許しが出た。

塩はいつ抜くんですか問題

あれ、でも1つ気になることが・・・。本来の工程だと、先に皮を洗っちゃうから大丈夫だったんだけど、今回、塩とかミョウバンはいつ洗い流すんでしょうか? 油を塗っていくうちに抜けていくものなんでしょうか??

迷える子羊の質問に、神・・・いや師匠はこう答えた。

「革ができてから、後で水洗いでよい」

くぁぁぁ~、なんて斬新なんだ! 食塩は水にすぐ溶けるし、油は小麦ががっちりキャッチしてくれてるので、抜けないそうだ。しかかも、水洗いで皮の中の成分が抜けた後は、繊維に隙間ができてもっと柔らかくなるそうだ。楽しみ~。

菜種油を全体に塗る

そんじゃ遠慮なく! とお風呂場で、菜種油を塗りたくる。下がヌルヌルになって滑るのを避けるために、ゴミ袋を開いたものを敷いた。

画像6

だいぶ柔らかくなった。

菜種油がおいしそうな匂いなので、ついお腹が空いてしまう。気を紛らわすために、焼酎のお湯割りを持ち込み、rajikoで「伊集院光の深夜の馬鹿力」を聴いた。伊集院さんはどんな心の闇にも光を与えてくれる素晴らしい存在だ・・・(酔っ払い)

揉んだ後は、もう夜遅くて寒暖の差が心配だったので、一晩ビニール袋に入れて寝かせ、翌朝9時ごろ干した。

画像7

いったん油を吸収したみたいだが、心配になって油を追加したためややヌルヌル。

しかし、7時間後の16時。

画像8

こんな立派に乾いて!! 中央が少し湿っている感じではあるが、もうスルメにはならない。干し芋のような柔らかさが残っている。粉の吹いた塩が、サツマイモの糖分にも見えてますます似ている。

師匠に報告したところ、いまからもう一度油を揉みこめとのこと。

画像9

実は正直・・・別にやることがあったのだが、師匠の命とあらば従わないわけにはいかない。なんてったって皮太郎のためでもある。この時点で500ml菜種油の半分以上を使った。皮が伸びてきた感じもある。表面も水っぽい。

その晩は、雨が降ってきたため、納屋で扇風機を当てて一晩おいた。さてさて、明日はどうなってるかな?

カラス雑誌「CROW'S」の制作費や、虐待サバイバーさんに取材しにいくための交通費として、ありがたく使わせていただきます!!