音楽室
「うわー、夜の学校、怖えー」
独り言のあと、少年、少し黙って歩く。
「黙ってると余計怖くなるな。歌でも歌うか」
ぼーくらはみんなーいーきてーいるー
いきーているから……
ピアノの音が聴こえてきた。
背筋がぞっと凍りつく。こんな夜中になぜピアノが……。
夜の校舎に現実感のない流暢なピアノが不気味に響く。
なんだか聞き覚えのあるメロディ。
そう、これはアレだ。聖飢魔IIの蝋人形の館だ。なぜだ。
急になにか冷めてしまった僕は勢いよく音楽室のドアを開ける。
「怖い曲のセンス間違ってるよ!ギャグにしか聞こえねーよ!」
サビにまで差し掛かっていたピアノがピタリと止まる。
ピアノを弾いていたのは同年代の女の子だった。
おびえた様子でこちらをうかがっている。
全然面識がないのに怒鳴っちゃったから気まずいな。
とにかくなにか弁解しようと近づく。
「こないで!」
女の子が大きな声を出すので僕はびくっとなる。
ちょっとひどくない?
「あ……。ごめんなさい。人の声が聞こえて怖かったから。怖い曲を弾いたら、びっくりして帰ってくれるかと思ったんです」
チョイスおかしいよ。聖飢魔IIはそういうジャンルじゃないよ。オモシロがかなり入っちゃってるんだから。
「本当に怖い曲だったら私も怖くなっちゃうから」
あ、そういうことね。……かわいいな。
でも、どうしてこんな夜中に音楽室にいるの?
「ピアノが弾きたくて……。私、夜にしかピアノが弾けないから」
……家庭の事情? 大変だね。
ともかく僕は暗くなった雰囲気を明るくしたい。
「じゃあさ、もう一回。蝋人形の館を弾いてよ。僕、歌うからさ」
「いいですよ」
笑顔になる女の子。やっぱり、かわいいな。
夜の校舎に響く、蝋人形の館。妙なことになってしまったもんだ。
女の子の足が透けているのにはとっくに気づいているけど、この曲が終わるまではせめて、気づいていないフリをしよう。
僕は除霊の依頼でこの学校に来たのにな。こんなことをしていたら情が沸いてしまう。……もう、遅いか。
どうにかしてあげたいなぁ。
こっちの気も知らないで楽しそうにピアノを弾く女の子を見ながら、
僕は思う。
最後まで読んでくれてありがとー