混じり気(2018.08.28)

台風が過ぎ、混じり気のない快晴の青空を見上げて、山本Dは言った。
「吉村さん、何も加えない、素材そのものの美しさって素晴らしいですね。」
僕は、雲が少しくらいあっても青空は綺麗だけどなぁと思いながらも
山本Dの熱量に押されて「そうですね。」と答えた。
この時、僕と山本Dと新谷Dは会社の近くにある「コリント」という喫茶店に向かっていた。
コリントに着くと、すぐさま3人ともアイスコーヒーを頼んだ。
山本Dはメガネを外し、おしぼりで汗を拭きながら
「少しテレビの話でもしましょうか。」と言った。
僕と新谷Dは「そうですね。」と答えた。
まず山本Dは「どう?みんなは最近テレビを見ていますか?」と
まるで議長のように切り出した。
新谷Dは「はい、もちろんですよ。」と言ったが、
すぐに「いや、本当は見ていないです。」と、どうしようもない嘘をついていた。
僕も「あんまり見なくなりましたねぇ。」と言った。
山本Dも「僕もあんまり見ていないんですよ。」と言った。
つまり誰もテレビを見ていないということだ。
誰もテレビを見ていないのに、テレビの話をしようなんて、
これは、大変なことになってしまったなぁと思っていると、
山本Dは予想通りというような顔で「そういうことなんですよ。」と強く言った。その語気の強さに少し緊張感が走ったが、
その時、アイスコーヒーがちょうど運ばれてきたので
僕と新谷Dはアイスコーヒーを一口飲んだ。
しかし、山本Dはそれを口にせず
「それはなぜか。
最近のテレビは、混じり気が多いんですよね。」と言った。
「そうですね。そう思います。」と新谷Dは言ったが
「いや、やっぱりどういうことか教えてください。」とまた不毛な嘘をついていた。
山本Dは2回ほど頷き、話し出した。
「なんだか余計なものが混じっている番組が多いんだよ。本来の企画は何だったか、見えづらいのだよ。
本当は、ココを見せたいのに、途中でお得な情報などを入れたりする。
そうするとテレビの放送の長さは決まっているから、本来の企画の部分が弱くなる。」
新谷Dは「そうですね。」と頷いている。
山本Dはさらに語る。
「まあ、好みの問題もあるとは思うんだけどね。
僕なんかは、プライベートでも元々何も混ぜない素材を楽しむタイプだからさ。
刺身なんかも醤油はつけないよ。ふふふ。」
新谷Dは「僕はたっぷりつけます。」と今度はちゃんと本当のことを言っていた。
山本Dはそんな新谷Dを無視して
「テレビ番組ももっとシンプルでむき出しで混じり気のない
素材を見せるような番組が増えても面白い気がしますね、僕は。」
と言った。
新谷Dは「そうですね。」と言っていた。
僕も「そうですね。」と言った。
そして、山本Dはアイスコーヒーに手を伸ばした。

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写真は、混じり気のないブラックコーヒーを飲んでいた新谷Dと
アイスコーヒーにたっぷりミルクとシロップを入れている山本D

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