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車輪の下【読書のきろく】

心の奥に眠る子どもの精神を、美しい景色の中で大切に思い出す

問い:次の作品の作者を書きなさい。
        『車輪の下』
答え:ヘルマン・ヘッセ

そんな、教科書的な知識だけあっても、何の役にも立たないなと思いました。でも、その知識がなかったら、読むことがなかったと思うと、まったくのムダでもないのかもしれません。近所の古書店でふと目にとまり、今まで読んでなかった古典を手に取りました。

この作品は、ヘッセの少年期を描いた自伝小説。中身とは別に、ふたつの驚きが心に残りました。

情景描写の美しさと、人物設計です。

美しく繊細な描写は、詩人でもあるからでしょうか。木の葉の一枚、川の水の一滴まで手を抜かない、リアルな絵画のようです。特に、主人公が少年時代を過ごした田舎の風景。神学校の入学試験を突破し、公認の休暇を満喫する場面が、とても鮮やかで丁寧に描写してあることに感動ました。庭や山を彩る木々、釣りや水遊びができる澄んだ川、大小さまざまな魚、釣りのエサとして捕まえたバッタ。どれも力強く浮かび上がってきます。
日差しの暑さ、冷たい水の心地よさ、風が通り過ぎる気配を肌で感じ、魚が跳ねる音が耳に響いてくるようでした。

人物設計は、あとがきに書かれているのを読んで、衝撃を受けました。
主人公と親友は、著者ヘッセの中にあった2つの人格を、それぞれ取り出して人物化したもののようです。たとえて言うなら、一人の心の中にいる天使と悪魔を、天使くんと悪魔くんにして世界に放しちゃう感じでしょうか。それぞれが立派な個人となって、自由に動き回っています。
そんな人物設計の方法もあるんだと知れたのがおもしろかったし、人はひとつの側面だけでは心を保てないのだと考えるのも興味深かったです。

物語からは、学歴だけで評価される風潮への疑問や、子どもの心を壊してしまう大人の罪悪を感じられます。100年前のドイツから時を超えて、今の日本にも教訓を与えています。

読書のきろく 2021年23冊目
「車輪の下」
#ヘルマン・ヘッセ
#高橋健二
#新潮文庫

#読書のきろく2021 #古典文学

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