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いっしん虎徹

『利休にたずねよ』、『火天の城』で惚れ込んだ、山本兼一さんの作品。
たまたま見かけて手に取って、表紙に惚れて買いました。

時代は、江戸時代初期。もともとは甲冑師だった主人公が、時代の流れを読んで刀鍛冶への転身を心に決めます。その名は、長曽祢興里(ながそね おきさと)。のちの虎徹(こてつ)。

職人の技の繊細さと豪快さを描くのは、著者の得意分野なんだと思います。『火天の城』で感動した、安土城を築城した職人たちの姿もよみがえりました。機械がなくても、五感をフル稼働させて木や石を巧みに使って巨大な建造物を造る職人たち。
今回は、火と鉄を操って、刀を生み出します。鉄を溶かす火の動きから、刀を鍛える工程のひとつひとつが、丁寧に力強く描かれていて、その現場の空気の中に自分もいるような気持ちになりました。

納得いくまで何度も失敗を重ね、出来たと思った刀も折れる。死んだ気になって改めて出直すことを決めた時に授かった名前が、虎徹。
そこまで読んで、はじめて気づきました。この虎徹が、名刀「虎徹」の刀匠その人。途中で気づいたことで、また一段と引き込まれた気がします。

江戸時代に作られた刀が、数百年経った今でも名刀として重宝されているのはもちろんすごいけど、この時代からさらに遡って、鎌倉時代の名刀に挑み続ける姿にも感動しました。一途に、一心に、目の前のことに向き合うからこそ生まれるものがあるということでしょう。
権威や名声、大量生産ではなく、あえて地道なことを貫く生き様は、カッコいい。

自分の道を追い続けながら、病を抱えた妻との生活の葛藤もあり、そのはざまで心が揺れ動きながら高みを目指す姿は、現代でも通じそうです。

「下手がいい。」
「下手なやつほど手を抜かずにやる。懸命に、必死にやる。ありがたいことに、鉄はそんな男が好きだ。下手のままでいろ。」

>『いっしん虎徹』 p.153より 

この師匠からの言葉は、僕の仕事の向き合い方としても、心に刻みたい内容でした。

刀も、火も、使い方を間違えれば凶器になります。
そのギリギリのところに向き合い続けて、究めていくことは、人の心との付き合い方にも当てはまるのかもしれません。

物語の中には、人と人のつながりと、ある事件の謎解きの要素も組み込まれていて、職人技以外の部分でも楽しませてくれました。

読み終わって、自分が今どこにいるのか一瞬分からなくなる感覚になったのは、それだけ物語の中にのめり込むことができた証拠です。

とにかく、おもしろかった!

読書のきろく 2020年34冊目
「いっしん虎徹」
#山本兼一
#文春文庫


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