歴史と経済21〜東アジアの連帯〜

かつて『東アジアの奇跡』と称された経済発展があった。
特に、アジアNIEs(韓国・台湾・シンガポール・香港)で見られた目覚ましい経済的躍進を言う。

その後も、中国やASEANの経済発展が見られるという流れがあった。
これらの国々は積極的に外資を取り入れ、輸出製品を製造することで国際競争力をつけていった。

これらの地域でこうした現象が見られた背景には、人口ボーナスとよばれる作用が働いていた。
人口ボーナスとは、働く世代の増加によって労働力が増し、経済成長に結びつく働きのことである。
この作用は、発展途上国段階にあった国において、医療や栄養状態の改善による国民の死亡率の低下が起点となる。
平均寿命が伸び、乳幼児の死亡率も低下する。
それまでは、子どもが亡くなるリスクがあったため、子だくさんの世帯が多かった。
しかし、上記の改善によって、出生率も低下していくこととなる。

ただし、これまでの世代の子どもの数が多かった分、労働力はしばらくは多く供給されている状態である。
このことによって、一定の生産力を確保でき、収入が増加していき、やがて貯蓄や社会インフラなどの資本のストックに結びつく。
一家で育てる子どもの数が少なくなった分、一人に対する教育費を多くかけることができるようになり、労働力の質が高まっていく。
高学歴化によって知識や技術の獲得が進み、労働生産性がますます高まることで、国際競争力のある企業が生まれてくる。
一方で、この流れは女性の社会進出につながり、女性の晩産化・非婚化が少子化に拍車をかけていく。
最終的には子どもの出生数が減り、医療の発展によって人々の寿命はさらに伸びていくことになる。
これが、少子高齢化の正体であり、現在の日本の姿となる。
そして、将来的にはこれからの東アジア(東南アジアを含む)がたどる姿でもある。

このような成長過程が東アジア全体で一連の動きとなって一挙に進んだ。
そして、東アジアは高齢化の過程を、日本以上のスピードで経験することとなるだろう。

つまり、東アジア全体が少子高齢化へと向かっていくのだ。

このような、人口ボーナスがピークアウトして少子高齢化を迎える過程はヨーロッパでは長期間かけて少しずつ進んでいく過程であった。
しかし、東アジアにおいては20世紀後半にこれらの過程が急速に進んだ。
世界人口は20世紀だけで4倍になっているが、東アジアもこの増加に深く関わっている。

そして、問題はここからである。
日本や韓国、台湾、シンガポールなどのように経済力がある国は国民全体を対象とする社会保障制度を整備することができた。

しかし、まだ経済発展が十分でない国においても、この少子高齢化のフェーズが容赦なく襲いかかる。
その時に、高齢者の生活をどのように国家が保障するのか、という問題が起こってくる。
いや、日本においてもこの問題は重くのしかかっており、今後において制度改革が急務である状況だ。
しかし、中国や東南アジアの国々ではより深刻な事態が予想される。

この意味では日本は少子高齢化が世界で最も進行している国であり、日本の打ち手を世界が注目している。
特に、東アジア地域にとっては死活問題となることもあり、日本で生み出された知恵や技術が貢献可能な分野となってくるだろう。

このように、フェーズは異なるにしろ、人口動態の面において21世紀の東アジアは同様の運命を辿っていく。
これは地域の問題として、連帯を要する未来ではないだろうか。
参考文献:『人口と健康の世界史』(秋田茂・脇村孝平)

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