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遭難しかけたあの夏。

今思い出しても冷や汗をかく。

3年前のあの夏、僕は初めてできた彼女と奥日光にお泊まりデートに出かけた。

シャイな僕は初めての彼女の一挙手一投足にドキドキしていた。


東京から電車に乗りバスを乗り継いて行った先は「千手ヶ浜」

『ここはタヒチ、では、ありません。』

そんな駅ナカの広告を見て「ここに行きたい!」

そんな一言で行き先は決まった。

バスが到着して少し歩くと、湖が目の前に広がった。

石を拾って水切りをしたり、写真を撮ったりとはしゃいでいた。

あいにくの天気で傘をさしたりしながらも、雨なんて気にならないくらい楽しかった。

「他の場所も見てみよう!」そう言って散策が始まった。

森の中は背の高い針葉樹林が広がっていて、天候の影響か僕たち二人しかいなかった。

大自然を二人じめである。

森の中に橋があったら「こっち行ってみよう!」とか言って

写真を撮りながら奥へ奥へと進んでいった。

西ノ湖を目指して進み、写真を撮って、

滝を目指して歩いて行った。


気がつくと獣道しかなく、カラーテープが巻かれた木々が目立つようになった。

「あれ?」

ここで初めて不安を感じた。少し雰囲気が違う。

危険な香りがする。

帰れるかな?

時刻は15時過ぎ、千手ヶ浜について3時間近く経っていた。

最終バスまで残り1時間。

宿のチェックインは18時。

ヤバイ。

背中が寒くなった。

「そろそろ帰ろうか」と切り出しバス停を探すことにした。

もと来た道は分かるものの、携帯電話は「圏外」

手元にはざっくりとした位置関係のみが書かれたパンフレット

本能が危険を知らせる。

不安そうな表情の彼女。

焦りが膨らんだ。

「初めてのお泊りデート、初日に遭難、そのまま野宿。天候は雨。」

最悪のシナリオが頭をよぎった。

帰れなかった場合、誰か探しに来てくれるだろうか?

雨風をしのげる場所はあるだろうか?

今手元に食料品は何があっただろうか?

そんなことを考えた。

そしてたどり着いた思考は、


もし帰れたとしても、彼女に怖い思いをさせてしまった。

フラれるかも。


そう思うと何故か勇気が湧いてきた。

《どうせフラれるなら、せめて彼女を無事に家まで送り届けよう。》

フラれると思い込んで吹っ切れたのだ。

何故この時そう思ったのかは分からないが、本気でそう思った。

童貞をこじらせた男の思考はこうなのだ。

そうと決まれば時間が無い。

急いで元来た道を戻り始めた。

カラーテープが役に立った。

気がついたら彼女の手を引いていた。

右手に西ノ湖が見えてきた。

いける。

歩きやすい道が出てきた。

頼りないパンフレットを片手に方向を考える。

この間どんな話をしていたのかは覚えていない。

「待って!」

突然彼女が手を引いた。

「シッ!」

前を見ると、黒い塊が動いているのが見えた。

50mほど先を子グマが歩いていた。

「小さかったよね?もしかして親が近くにいる?」

バス待ちをしていた時立ち寄った情報センターで、前日クマの目撃情報が出ていたのを思い出した。

二人で息を潜め、周りを警戒しながら子グマが去るのを見つめていた。

視界から見えなくなるのを待ってから、僕らは再び歩き始めた。

「よかった。」

道中、クマを見て、鹿を見て、リスも見た。

時刻は16時、

バス停に着いた。

『着いたーー!!』

二人の緊張がとけた。


バス待ちをしていると一台の乗用車がバス停に止まった。

おじさんが出てきて、

「バス待ってるの?よかったら乗せて行ってあげようか?」

疲れていた僕らはそのご厚意に甘えることにした。


乗り込んでから、「あれ?この人本当に大丈夫かな?」と考えた。

誰もいない森の中。おじさん一人で何をしていたのか?

この人信じて大丈夫なのだろうか?


そのおじさんは、この森のことを色々と教えてくれた。

鹿が繁殖しすぎて草木が食べ尽くされていることや、馴染みのない花の事など。

おじさんは観光協会の人で、なんと宿まで送ってくれた。

時刻は18時前、

無事、野宿を回避した。

***

この間、買い物をしながら彼女に ”忘れられない夏の思い出” を聞いてみた。

即答で「遭難しかけたあの夏」の話が出てきた。

今となっては笑い話。

彼女とのお付き合いは今も続いている。

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