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第二次納税義務

1 判例時報

判例時報平成31年1月1日号の判決録、1つ目は、なんと第二次納税義務についてのものでした。

津地方裁判所平成30年3月22日です。担当裁判官は次の3名。岡田治、伊藤美結己、大久保陽久。

津地方裁判所には現在、平成30年に提訴した課税処分取消訴訟が1件、係属しています。

上記の3名とは異なる合議体ですが、三重県の津という一地方裁判所において第二次納税義務というマニアックな論点についてどのような判断がされたのかと目を引き、興味深く読みました。

2 争点ー訴えの利益ー

ところ、事案自体は国税ではなく、地方税のものでした。そして争点自体は、えっ?これが争点になったの?という争点、いわばさほど目新たしさのない争点でした。なぜ、判例時報で取り上げられているのか。

争点1 訴えの利益

被告の主張です。

「本件処分後、原告は第二次納税義務者として、納付すべき金額を完納している。このことにより、原告の滞納税額は消滅しており、今後、原告が第二次納税義務に基づき、滞納処分を受けることはない。

よって、本件処分の取消しによって回復すべき法律上の利益はなく、本件取消訴訟の提起は不適法であるから、却下されるべきである。」

争点2

法人格否認の法理の適用の有無

3 事実関係

事実関係自体は、次のようなものだったようです。

Aは税理士法人を代表する税理士であり、平成26年6月13日、「顧問先の会社の損金を増やし、法人税の脱税を図るべく、乙と顧問先との間で、架空の人材派遣契約やコンサルタント業務契約を締結し」、顧問先の法人税を免れさせたとして、法人税法違反被告事件の被告人として名古屋地方裁判所に起訴され、公訴事実を争わず、執行猶予付き懲役刑及び罰金刑の言い渡しを受けていたようです。

また、乙の代表社員はCでしたが、このCというのは、なんとAの税理士法人の事務員の取りまとめ役という人だったようです。

4 裁判所の判断

こうした状況のな中、争点1に関する被告、三重県側の主張は、一体どこからこんな主張が出てくるのかと首をかしげます。

告知処分を受けた以上、争うにしても、税務関係は一旦納付するのが鉄則です。なぜなら。敗訴判決が確定した場合、その間の延滞税が莫大な金額になりがちだからです。そこで、争うにしても、一旦納付し、その上で争います。そして勝訴した場合、返してもらうという形です。

被告の代理人は、国税の場合とは異なり、弁護士です。ただ、三重県の仕事をよくされている代理人のよう。行政事件、課税処分取消請求事件に不慣れとも思えません。謎です。

裁判所の判断は。

行政事件訴訟法9条1項は、処分の取消しの訴えについて、当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる」と規定している。
このように、行政処分がその目的を達して法的効果が消滅した後においてもなお処分の取消しによって回復すべき法律上の利益がある場合には、処分取消しに係る訴えの利益は否定されることはないことろ、行政処分の取消判決が確定したときは、その形成力によって当該処分は遡及的に執行することに帰するから、これにより公法上又は私法上の原状回復請求権の行使が可能となる場合にはなお訴えの利益を肯定することができると解するのが相当である。

そして、被告の主張を排斥。ちゃんちゃん、といったところでしょうか。

当てはめとして、地方税における第二次納税義務についても、国税と同様の理解を判示しています。

地方税法

(第二次納税義務の通則)
第11条 地方団体の長は、納税者又は特別徴収義務者の地方団体の徴収金を次条から第11条の9まで又は第12条の2第2項若しくは第3項の規定により第二次納税義務を有する者(以下「第二次納税義務者」という。)から徴収しようとするときは、その者に対し、納付又は納入すべき金額、納付又は納入の期限及び納付又は納入の場所その他必要な事項を記載した納付又は納入の通知書により告知しなければならない。
(過誤納金の還付)
第十七条 地方団体の長は、過誤納に係る地方団体の徴収金(以下本章において「過誤納金」という。)があるときは、政令で定めるところにより、遅滞なく還付しなければならない。

5 第二次納税義務について

第二次納税義務は、本来の納税義務者の納税義務が確定したことを前提として、その確定した税額につき本来の納税義務者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、租税徴収の確保を図るため、本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある第三者で法定している者を本来の納税義務者に準ずる者とみて、これに主たる納税義務者についての履行責任が補充的に課される義務である。そして、第二次納税義務の納付の告知よって、上記第三者とされる者が法定の要件を充足した時に抽象的、観念的に成立した第二次納税義務を具体的に確定されるのもである。

判決書そのままのはずですが、最後の一文、少し日本語が変なところはおいておくとして。

納付告知処分による税額を納付していても、争って取り消されたら不当利得返還請求の対象となるので、当然、訴えの利益はあるとします。

6 国税

国税においては、次のとおりです。源泉徴収の納付の通知と同様、法律上、当然に義務が成立し額が確定するものであって、その処分性は、課税処分ではなく、徴収処分とされています。

7 その他

三重県地方税管理回収機構

平成16年4月設立。三重県内28の市町村による一部事務組合。

なかなか合理的ですね。しかも、先の乙社とAを同一視する法人格否認の法理を使うというなかなかアグレッシブな回収の仕方が伺えます。国税の徴収担当だったOBを顧問等に入れたりしているのでしょうか。

                                   

以上