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演劇集団キャラメルボックスのベンチャーとしての凄さ

日本の小劇場界のトップリーダーとして走り続けてきた、「演劇集団キャラメルボックス」が活動を休止しました。

僕は1999年に初めて生のキャラメルボックスの舞台を見て、雷に打たれたような衝撃を覚え、一時期は役者を目指していました。20代前半で挫折をしてからは、Web業界で働くようになり舞台からすっかり遠ざかっていましたが、昨年ご縁があってキャラメルボックスの公式サイトの運営をすることになり10年ぶりに観劇しました。変わらずに素晴らしい舞台を作り続けていて本当に感動し、涙が止まりませんでした。それから半年に渡ってお手伝いをさせていただけたのは、僕の人生において忘れられない思い出になると思います。

キャラメルボックスは、小劇場界において間違いなくトップを突き抜けた劇団であり、これほど急成長した劇団は平成において他にいないでしょう。(夢の遊民社や第三舞台は90年代初頭に活動を終えているので一旦置いておきます)

作品の面白さ、出演する俳優陣の素晴らしさももちろんですが、僕が注目したいのは他の劇団にはない「ベンチャーぽさ」です。急成長を支えたのは当時先端のIT技術と、新しいものを積極的に取り入れていこうというマインドでした。その様子は、プロデューサーの加藤さんが残していた「加藤昌史パソコンプロフィール」というページに残されています。

台本・チラシ・アンケート・音楽などを次々にデジタル化

チラシやアンケートの制作など、今でこそ当たり前のように自前のパソコンで作ってネットで注文すれば翌日には届くような環境が整いましたが、20年前にそのようなことをやろうと思った会社はどれだけあったでしょうか?

1989年当時の劇団のデジタル化についての貴重なインタビューが日経トレンディに残っていました。

制作のデジタル化だけではなく、ネットでの情報発信についても積極的に行われていたようです。

顧客管理システム・ネットでのチケット予約システムの導入

さまざまなビジネスにおいて、顧客管理やインターネットによる商品の売買が行われていますが、まだまだ十分に活用しきれている会社はそう多くはないでしょう。

キャラメルボックスにおいては1985年から顧客管理システム、1999年からはインターネットでのチケット予約システムを稼働させていたというのだから驚きです。

インターネットチケット予約システムについては、おそらく当時早すぎたのか(?)まだ自宅にインターネットがないお客さんも多く、劇場に行くとプロバイダーのSo-netが入会の案内を出していたりスポンサードして様々な企画を行って普及活動を行っていました。キャラメルボックスを見るためにパソコンを買ったりインターネットを契約した人もいるのではないでしょうか?

日本初の劇団公式Webサイト(?)を開設

正確なところはもう調べようがないのですが、おそらく日本初の劇団公式Webサイト(?)を作ったのがキャラメルボックス。なんと1995年の『また逢おうと竜馬は言った』のページについては、未だに存在しています。

1995年といったらまだ皆さんダイヤルアップ回線でネットに繋いでいた時代、そしてInternet Explorerが出たばかりという頃です。

現在のドメイン『caramelbox.com』を取得したのも1998年ということですから、相当早い段階からWebサイトの情報発信を積極的に行っていたということになります。

制作のデジタル化やそしてインターネットを活用した情報発信は、演劇集団キャラメルボックスの急成長になくてはならないものだったと考えられます。

東日本大震災とスマートフォンによって変わったライフスタイルと、演劇業界のこれから

公演にずっと通い続けていた人には既知の事実ですが、2011年3月11日の東日本大震災はキャラメルボックスに大きな打撃を与えました。停電による公演中止や、その後の客足の減少など。これはキャラメルボックスだけでなく、演劇や音楽などのエンタメ業界全体に起きたことでした。

そして震災後、LINEなどのキラーアプリの登場によってスマートフォンが爆発的に普及しました。そしてここ数年はサブスクリプションサービスの登場で、月々数百円支払えば音楽や映画・ドラマが見放題になりました。自宅でも、どこにいても、見たいものがすぐにスマートフォンで見れる。娯楽は多様化し、それぞれが好きなものを選んで自由に楽しむようになりました。本当にすごい時代です。

そんな時代に、チケットを数ヶ月前から予約して、劇場で2時間座りっぱなしで芝居を見る。それはとてもハードルの高いものになってしまいました。

この10年の変化はあまりに早すぎました。10年前のビジネスモデルはほとんど通用せず、次々に終わりを迎えています。あのYahoo!でさえ、メルカリにフリマ市場を一気に持っていかれました。音楽や映像コンテンツについてはサブスクリプションのビジネスモデルに乗ることができましたが、演劇において画期的なものはまだ存在しません。

ネットで生中継したら?いや、舞台は生だからいいんです。プロジェクションマッピングのような技術を取り入れたら?すごいものはできそうですが、それだけで劇場に人は来てくれるでしょうか。サブスクリプション化は?劇場には客席数という制限があり、不可能です。

キャラメルボックスが活動を休止した理由を、僕はよく知りません。しかし2011年以降に客足が伸び悩んだのは間違いなく影響しているでしょう。そして同じような悩みの構造を抱えている劇団や会社はたくさんあるに違いありません。

演劇界における劇場、チケット販売、制作、マーケティングなど、あらゆるものが時代に合わなくなってしまいました。ぼちぼちダイナミックなビジネスモデルの転換が起きないと、日本から小劇場という文化はなくなってしまうかもしれません。

・ ・ ・

僕は初めて生で見たキャラメルボックスの『銀河旋律』の光景を、昨日の出来事のように思い出します。あの感動を100年後にも残したい。

なので加藤さん。僕に何かまたお手伝いできることがありましたら、なんでもやりますので。キャラメルボックスの活動再開、首を長くしてお待ちしてます。

2019/6/4 追記:運営会社破産へ

活動休止の理由が発表されず、もやもやされていたファンの方々も多かったと思いますが、帝国データバンクからニュースが出ました。2008年から厳しい状況だったんですね。とにかく、残念の一言に尽きます。

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chot Inc. CEO。gloops/Goodpatch/Toretaを経て独立。子育てしながら、無料で学べるデザイン学習サイト「http://chot.design 」やってます。N高Webデザイン講師。
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