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授業のオンライン化 ー 7つのステップ | ウィズコロナ・ポストコロナ時代に学びの高みを目指して | パート2 / 3

このnoteでは、僕が今春学期(2020年3-5月)に短期訪問先・Yale SOM (イェール大学経営大学院)で、 MBA Programの選択科目「Service Management」の100%オンライン化に取り組みながら学んでいること(今も教えている真っ最中なので)、それと並行して、本拠地・一橋ICS(一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻))で、教職員向けチュートリアルシリーズ「Moving Courses Online (授業のオンライン化) 」を立ち上げながら考えたことを7つのステップにまとめて公開し、共有します。

いままさに授業のオンライン化に取り組んでおられる皆さんや、これから取り組まれる皆さんにとりましてご参考になればと思います。また、ご意見やご提案もいただけるとうれしいです。

目次
1. Big Arigato | 仲間への感謝とともに踏み出す
2. Roller Coaster Ride | 刻一刻と変わる状況を楽しむ
3. Moving Courses Online | すべては学びの高みを目指して
4. Course Design | コース設計の何を変え、何を変えないかを決める
5. Session Design | セッション設計は、リンクとチャンクを心掛ける

6. Attention Management | Zoom機能を駆使して参加者を惹きつける
7. Digital Classroom | 研究室や自宅スペースをデジタル教室化する

先の「パート1」で1と2を、この「パート2」では3~5を、続く「パート3」で6と7をカバーします

1. Big Arigato | 仲間への感謝とともに踏み出す

2. Roller Coaster Ride | 刻一刻と変わる状況を楽しむ

3. Moving Courses Online | すべては学びの高みを目指して

まず、授業のオンライン化を進めるにあたり、自分自身の行動指針として、Purpose(目的)、Premise(前提)、Principles(原則)を次のように定めました。何か迷ったときに、ここに立ち返って判断するために。

PURPOSE(目的): すべては学びの高みを目指すために。ゆるぎなく、たゆまなく。

PREMISE(前提): 「授業のオンライン化」とは ... 
・教室授業の劣化コピーでよしとすることではない 
| 教室授業と遠隔授業、同期型授業と非同期型授業、それぞれに長所と短所があります。いかにそれぞれの長所を引き出しながら、短所を補い合うか。それぞれのいいところどりをして、組み合わせ、最適解を考えたい。
・いかにZoomを使いこなすかにとどまらない | Zoomやその他のツール(Google Hangouts Meet, Microsoft Teams, Webexなど)を使いこなすことは重要です。しかし、それ以上に、各セッションの設計をどうするか(セッションデザイン)、さらに、全てのセッションをつなぐコース全体の設計(コースデザイン)をどうするか、を合わせて考えたい。
・ 関わる全ての人の強靭化を目指して | 遠隔授業を通じて習得するスキルやセンスは、教室授業の学びにも、教室外の学びにも活かせるはず。授業のオンライン化を通じて、履修学生はより優れた学習者に、教職員はより良き教育者に、所属機関はより強い教育機関に。ウィズコロナ・ポストコロナの時代にいかに個の強靭化につなげるか、その可能性を考えたい。

PRINCIPLES(原則)
・REFLECT | コースと各セッションの学習目的を振り返る。履修者が何を学ぶことを最終目的とするのか。オンライン化を通じてぶれることなく、変えないことは何か、逆に、柔軟に積極的に変えるべきことは何か、を明確にする。
・DEFINE | コースと各セッションの成功要件を定義する。何がどうなったらうまくいったことにするのか、その成功イメージを抱く。
・PIVOT | 参加者を惹きつけて離さず、学びのモチベーションを維持するためであれば、躊躇することなく大胆に変更する。早く試して、早く失敗して、早く学ぶこと、を是とする。
・CHUNK | 学びのチャンキング(小さく凝縮化する)を徹底し、小さなチャンクをたくさん組み合わせるアプローチで、コースの構成やセッションの計画をつくる。

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4. Course Design | コース設計の何を変え、何を変えないかを決める

まず、2×2のシンプルなマトリックス - 教室(Offline)と遠隔(Online)x 同期(Synchronous)と非同期(Asynchronous) - を用いて、もともとのコース設計の構成要素を整理します。そのうえで、コースの学習目的に沿って、何を変え、何を変えないか、を考えながら、再構成します。

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僕の場合は、以下の2点を大きく変えることにしました。
・Class Participation | 授業貢献度を、当初予定の「同期のみ」(通常授業の場合は教室における発言内容のみを採点対象としていました)から、「同期+非同期」のハイブリッド方式に変更 | Zoomのライブセッション中の発言内容(同期)に加えて、CanvasのDiscussion Boards上の投稿内容(非同期)も採点対象とします。Zoomセッション後も議論が続き、学びがより深まったり、広がったりします。
・Individual Assignment | 当初予定の「Letter Writing Campaign」を「3-2-1 Reflection Memo」に変更 | 「Letter Writing Campaign」というのは、これまでの人生における最善・最悪のサービス体験を選び、その事業者の経営陣にフィードバックレターを送り、レスポンスの有無やその内容、タイミング、トーンやマナーから学ぶ、という課題です。これは僕がHBS MBA Programの選択科目「Service Management」を学生として履修した際の課題を引き継ぎ、2003年に一橋ICS着任後に同名のコースを開講以来、毎年実施してきた課題でした。しかし、COVID-19状況下においてこの課題は無理があると考え、現在履修しているHarvard University Extension Schoolのオンライン科目 「Neuroscience of Learning」が取り入れている手法「3-2-1 Reflection Memo」に変更しました。これは、セッションやモジュール*ごとに、参加者が下記三つの項目について振り返り、その内容をDiscussion Boardにポストする、クラスメートのポストに対してコメントすることも課題とする、そして、自身の投稿とクラスメートの投稿に対するコメントの両方を採点対象とする、という課題です。

3-2-1 Reflection Memo
・3 THINGS | このセッション・モジュールを受講する前に知らなかったこと、このセッション・モジュールへの参加を通じて新たに学んだこと三点。
・2 THINGS | このセッション・モジュールを通じて関心が高まったこと、さらに追求してみたいこと、誰かに思わず話したくなること二点。
・1 THING | このセッション・モジュールを通じて学んだことのうち、今日にでもすぐに実行に移すこと一点。
注)* モジュール: 複数のセッションをまとめたもの。Yale SOM「Service Management」では、「MODULE 1: Service Management - Classics from the Pre-Digital Age」と題したモジュールに7セッション、「MODULE 2: Service Management - Frontiers into the Post-digital Future」と題したモジュールに7セッションをあてています。

これらの課題変更によって、Zoomセッション後も学生間の議論が続くこと、学びがより深まること、さらに広がること、を日々実感しています。いままでの教室授業でもやろうと思えばできたことではありますが、いままで教室授業で行ってきたレベルのディスカッションをそのままZoomで再現しようとしても無理がある、その限界を超える必要に迫られて初めて採用することにしたのも事実です。授業100%オンライン化を通じて得た大きな収穫のひとつです。

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5. Session Design | セッション設計は、リンクとチャンクを心掛ける

各セッション(一橋ICSでは120分、Yale SOMでは80分)の設計においては、「リンク」と「チャンク」の2点を心掛けています。

「リンク」とは、セッションの事前課題(僕の場合は、ケース教材の主人公になりきって自分がこの立場だったらどうするか、についてCanvasのQuizに回答することを課題にしています。)と、セッションの進行計画、そして、セッションの事後課題(上述した、Canvas Discussion Boards上の3-2-1 Reflection Memo課題)のつながりを意識することです。すべてをZoomのライブ・セッションにすべての学びを詰めこもうとしないこと、その前後の課題にうまくつながりをもたせ、学びの全体最適を図る、とでもいいましょうか。

「チャンク」とは、もとは認知心理学の用語で、容量の小さい作業記憶で扱えるように、学びの構造化と圧縮化を図ること、です。特に、オンライン環境においては、学習者のアテンションスパン(集中力の持続時間)が短くなるといわれていますので(数分!とも数秒!とも)、長くとも10-15分単位で学びの内容(コンテンツ)と様式(モダリティ)に変化をつけていく工夫が重要となります。

下記に、僕の授業の各セッションのティーチングプラン(進行計画)を共有します。普段の教室授業ではより大雑把に20-30分単位で計画を立てるのですが、遠隔授業の場合は5分や10分単位の細切れ時間に「チャンク・ダウン」し、それを組み合わせて「チャンク・アップ」するというアプローチをとっています。

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またまた文字数が4,000字超えとなりましたので、「noteのはじめかた」のアドバイス(ネットで読まれる記事は1000〜3000文字程度)に従い、続きはパート3で

6. Attention Management | Zoom機能を駆使して参加者を惹きつける


7. Digital Classroom | 研究室や自宅スペースをデジタル教室化する

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