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色を科学する その⑪ 均等色空間と色差<後編> CIE 1976 L*a*b*とL*u*v*

 <前編>で均等色度図、<中編>で明度関数ができたので、それらを組み合わせて、いよいよ均等色空間と色差が完成します!これによりようやく色の違いを語ることが可能となるのです。シリーズ完結編!

 ※本コンテンツは有料となっていますが、無料で最後まで読めます。<前編>から苦節4か月、結構大変でした、、、共感いただける方はサポートよろしくお願いします。


CIE 1964 U*V*W*色空間

 CIEが1964年に勧告した均等色空間です。明度関数W*色みを表すU*V*からなり、U*V*は均等色度図であるCIE 1960 uv色度図がベースです。1976年に後述のL*a*b*とL*u*v*が勧告されたため、わずか12年の天下でしたが、<中編>でも書いたように演色評価数の算出にだけは使われています。

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(uw及びvwはそれぞれ完全拡散反射面のuv色度座標、W*計算時のYは1≦Y≦100の範囲)


 U*およびV*が色み、すなわち、色相と彩度の両方の情報を持ちます。計算式を見ると、完全拡散反射面*の色度との差分をとっているので、マイナスにもなりえ、完全拡散反射面ならU*もV*も0となります。

*完全拡散反射面:簡単にいうと白、照明の色と合致する

 また、U*およびV*の計算式には、W*が入っているので、同じ色度(u,v)でも明度が高いとU*とV*は大きくなります。これは、同じ色度でも明度が高くなると彩度が高く感じること、更に、色の差がよく区別できる特性にも対応しています。まさに「色差」への対応ですね。


CIE 1976 L*u*v*色空間(CIELUV色空間)

 CIEが1976年に勧告した均等色空間で、明度関数L*と色みを表すu*v*からなり、u*v*はCIE 1976 u’v'色度図がベースです。u*v*はU*V*W*と違って小文字、そして1960年のuvでなく1976年のu'v'がベース!と大変ややこしいのですが、U*V*W*の系譜であることは明白です。

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 u*v*の計算式は、U*V*とほぼ同じ


 L*は「明度」であり、物体色にしか適用できないので、L*の関数であるu*およびv*も物体色にしか適用できません。というか均等色空間は基本的に物体色用です。しかし、u*およびv*のベースになっているu’v'色度図は光源色にも使え、さらに加法混色の結果が直線上となるので、CIELUVはディスプレイや照明業界でよく使われます(U*V*W*も同様)。

 ただ、ディスプレイに対しては画像の中の白を完全拡散反射面として、普通にCIELUVやCIELABを活用するようになってます。これは「暗闇の中でポツンとある光源」ではなく、さまざまな色からなる「画像」を表示するため、光源色的な見え方にならないためです(実際見た感じ印刷物と区別つかない時もありますし)。


CIE 1976 L*a*b*色空間(CIELAB色空間)

 CIEが1976年にもう一つ勧告した均等色空間で、明度関数L*と色みを表すa*b*からなります。L*はCIELUVと同じですが、a*b*の形がu*v*とは全く違いますCIELUVはU*V*W*の改良版として作られましたが、CIELABの開発経緯は全然違うためです。このお話は長くなるので別記事で。

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暗い色(X/Xw, Y/Yw, Z/Zw<0.008856)の場合は、1/3乗ではなく下記式を使います(X,Zについても同じ)

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 CIELABの特徴は3つの色覚メカニズムを考慮したことです。それは、①非線形性 ②反対色性 ③色順応 です。

 ①非線形性:明度だけでなく色みを表すa*b*にも1/3乗を用いています。これにより、CIELUVにはあった、加法混色の結果が直線状になる特性は失われています。

 ②反対色性a*は赤-緑成分を表し、正(負)で値が大きいほど赤(緑)成分が多い。同様に、b*は黄-青成分を表し、正(負)で値が大きいほど黄(青)成分が多い(「暖色系が正」と覚えましょう!)。

 錐体でキャッチされた光は、網膜内の水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞などを経て、外側膝状体、更には大脳へ伝わっていきますが、反対色性は水平細胞以降で見られます。よって、CIELABは、錐体に対応するXYZ表色系よりも、より高次な色覚モデルを反映した表色系と言えます。大脳まで行くとCIECAM02のような色の見えモデルですね。

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↑CIELAB色空間のイメージ

 CIELUVもu*v*が同様の特性を示しますが、これはxy色度図を射影変換した結果そうなったものです*。一方、CIELABはHurvichとJamesonおよびJuddによる反対色応答の研究をベースにしており、意図的に反対色性を組み込んでいます。

*:私はそう思っていますが、なぜかそういう記述はどこにも見当たらず、、、

 ③色順応:XYZとそれぞれの白の値(XwYwZw)との比にして用いることにより、物体表面の色を推定するような処理となり、フォン・クリース(von Kries)の色順応モデルと似た特性を持ちます。これにより、照明光が変化しても、その変化を打消し、色の見え方=L*a*b*値はあまり変化しない、という特徴を持ちます。色恒常性を持っているとも言えます。

 色順応や色の恒常性については 「The Dressの話」や「デモ」を参照ください。

 CIELUVでは白との色度差を用いており、これも色順応を組み込んでいるとも言えますが、照明光の変化を打ち消す力は弱く、色恒常性はCIELABの方が高いです。


LUVとLABの違い

 以上のようにCIELUVとCIELABは開発経緯や考え方が違い、その性能も異なっています。比較図として有名なのは、Robertsonが示した ①MacAdamの色弁別楕円 と ②マンセル等Hue・Chroma曲線 です。

①MacAdamの色弁別楕円CIELUVの方が良い結果となっています。均等色度図であるu'v'がベースなのである意味当然の結果です。とはいえ、完ぺきというわけではなく、改善の余地はあるようです。

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赤い曲線は「Optimal Color」を表す。最明色とも呼び、簡単にいうと、その明度で再現でき得る最も鮮やかな色


②マンセル等Hue・Chroma曲線:V=5におけるマンセルの各色票の座標をu*v*およびa*b*平面にプロットし、同じHueまたは同じChromaを結んだ曲線のことをこう呼びます。理想的には、等Hue曲線は、(基本10Hueであれば)それぞれ36度ずつずれた、原点から放射状に延びるまっすぐな直線、等chroma曲線は、均等に大きくなっていく中心が原点の真円であるべきです。

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理想的な等Hue・等chroma曲線


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 こちらはCIELABの方が良い結果です。これも、CIELABがAdamsのChromatic Value空間をベースにしており、Chromatic Value空間はマンセル表色系に対応するように作れらた経緯があるので当然の結果です。とはいえ、CIELABも完ぺきではなく、特にGY~YRの領域がぐいーんと上に伸びているのが問題で、CIELABでクロマ値が同じでも、感覚的には異なる結果となってしまいます(YR近辺は肌の色の領域でもあるので)。

 端的にいうと、色弁別を扱うような小色差の領域ではCIELUVが優れ、比較的大きな、マンセル色票レベルの大きな色の差の領域ではCIELABが優れているということになります。

 まとめると下表のようになり、甲乙つけがたい特徴のため、2つの均等色空間(とそれに基づく色差式)が勧告された、というよりも、CIEが一つに決められなかったというのが事実です。

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 が、実際にはCIELABの方が人気で、その後の色差式の改良もCIELABをベースに行われています。

※MacAdamの色弁別楕円とマンセル等Hue・Chroma曲線は下記文献より引用・改変
A. R. Robertson, "The CIE 1976 Color-Difference Formulae", Color Research & Application, Vol. 2 (1977)


とうとう色差へ

 ようやく色差にたどり着きました。

 CIE 1964 U*V*W*、CIELUV、CIELABの各色差式は下記のようになります。Δは「デルタ」と読み、差を意味するギリシャ文字、Erorrの頭文字をとりΔEとしたといわれています。

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ここで、ΔX(X=U*,V*,W*,L*,u*,v*,a*,b*)は対象としている2色の各属性の差

 形は全て同じで、各色空間内の2色間の(ユークリッド)距離を出しているだけですね。<前編>で述べた「均等色空間を作れば色差ができる」とはこのことです。ただ、用いる色差式により算出される値は異なり、互換性はないので注意が必要です。


 空間内の距離=色差の計算をCIELABでイメージ化すると↓です。

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 また、CIELUVおよびCIELABでは、下記のように、クロマC*と色相角hも定義されています。L*も含めたC*とhは、以前は「心理メトリック量」と呼んでいましたが、現在は、「明度、クロマ、色相角の相関量」と呼ぶようです。

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hを計算する際は、用いるソフトウエアに応じ、a*>0かつB*>0の時、0 deg<hab<90 degとするなどの場合分け、ラジアンから度に変換するなどの対応が必要


 これにより、L*, a*, b*やL*, u*, v*による直交座標系だけでなく、クロマを半径、色相角を角度、明度を高さとした円柱座標系でも色を表現可能です。

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 ちなみにhは角度なので、差をとってもその値は感覚とは合致しません。同じ角度差でも中心から離れると2色の距離は遠くなるので。なので、小文字かつ*(アスタリスク)がつかないのです! 色相差はΔH*で定義され、CIELABであれば、下記のように、算出した色差から逆算して求めます(CIELUVでも同様)。

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 マイナーですが、直接求める式もあります↓

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 したがって、色差を明度差、クロマ差、色相差により表現することもできます。

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 以上、CIEによる均等色空間や色差式を活用するときは、*(アスタリスク)と下付きのuvまたはabは必ず記載ください。そうしないとU*V*W*なのか、CIELUVなのか?CIELABなのか?がわからなくなります。

 例えば、「Lab」と記載するとHunter Labという表色系と識別できません。「CIE 1976 L*a*b*」か「CIELAB」と書きましょう。同様に「ΔE」もやめましょう(結構います)。同じ2色の色差でもΔE*uvとΔE*abは違う値になり、比較できないので。私の経験上、わかっている人は絶対に省略しないです。


色差式のその後

 均等色空間の研究は、より高度な色の表現方法である色の見えモデルに置き換わり、色差式は独立して継続研究されています。90年代後半から、新たな色差式がいくつか提案され、CIEからも、CIE94 色差式CIEDE2000色差式が発表されています。

 しかし、これらはCIELAB色差式の発展型で、明度差、クロマ差、色相差の各成分に補正係数を掛ける形となっています。例えば、CIE94 色差式は下記方法で計算します(詳細は省略、CIEDE200はさらに複雑な式)。

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「均等色空間と色差」完! 

もっと詳しく知りたい人は、矢口博久, "連載:色彩規格のこれからーCIEの最新動向から (2) 色差式の発展", 日本色彩学会誌, Vol. 41, No. 2 (2017)を参照ください。

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