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今こそ、日の出る国から世界へ…

 2020年10月22日の報道によると、三菱重工がかねてより開発を進めてきた、国産初となるジェット旅客機、スペースジェット(旧称三菱リージョナルジェット:MRJ)の開発を凍結する、とのこと。1990年代をピークに、自動車以外、家電も、コンピュータや携帯電話も、大きいモノでは造船においてもメイドインジャパンの世界におけるシェアが著しく低下している。安泰かと思われる自動車においても、今後電気自動車にシフトしたときには、中国勢に追われ、今の地位を維持できるかどうか、という危機感を業界が感じているという。日本はこのまま衰退していく「オワコン」なのか?

 いきなり大きく話を拡げてしまった。主語がデカイのが僕の悪い癖だ。それであちこちで摩擦を起こしてきたではないか?いいかげん学ばねば…。僕は日本は、特に日本のモノづくりはこれからも世界から必要とされると信じている。

 僕が生まれ育ったのは大阪の堺市、室町時代には明との貿易だけでなく、南蛮や琉球との貿易により栄えた国際貿易都市だ。イエズス会の宣教師、ルイス・フロイスは堺を「東洋のベニス」とその著書に記した、という、ちょっと盛りすぎな気もしないでもないが、まあ、当時はそうだったのだろう。その16世紀にポルトガルよりたばこが伝わり、国内でも栽培されるようになった、そのたばこの葉を刻むのに包丁が必要、ということで堺の職人が包丁を作ったところ、輸入品よりも切れ味がよい、ということで日本全国に堺の刃物が知れ渡るようになった。以後、刃物から鉄砲、そして自転車、と事業の幅を広げ、金属加工が地場産業となり現在に至る。世界中のサイクリスト達がその品質を称える「シマノ」は堺に本社をおく、わが国が世界に誇る自転車部品のトップメーカーでもある。

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 堺で生まれ育った僕は、97年、25歳のときアメリカに渡りアスレティックトレーニングを学んだ。98年から、2002年にATC資格を取って、そして大学院の修士課程を終える2004年まで、6~8月の夏休み以外はほぼ毎日テーピングを巻いていたと思う。白いアスレティックテープは手で切れるが、ゴム引き素材のエラスティックテープは手では切れない。

テーピングテーブルに用意されているハサミは、どのレベルの現場でもイマイチな代物で、大きいのも小さいのも僕が子供のころ母が手芸に、祖母が仕事に使っていたハサミたちとは比べ物にならないお粗末さだった。練習や試合の前にテープを巻く、貼るためにハサミを使うのはまだ我慢ができたのだが、練習や試合の後、巻かれたテープを切る際のストレスといったらもう…。

足関節テーピング

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 そこで、上の写真のような、「シャーク」と呼ばれるテープカッターを選手に渡して、自分で切ってもらったりするのだが、コレも白いアスレティックテープだけが相手ならその切れ味が期待できるのだが、ゴム引きのエラスティックテープとの組み合わせとなると途端に切れなくなり、選手から「ヘルプ!」を求められる。それだけなら「しゃーないなぁ」で済むのだが、このシャーク、時々行方不明になる。海にでも帰ったのならまだ許せるが、ほかの選手がテープを切るのにもたついているので、順番待ちしないで済むよう自分用のシャークを確保しようと、1個くらいならええやろ、とタチの悪いアスリートにネコババされていたときは「まともに切れるハサミさえあればこんなイライラしないしないのに」と憤ったものだった。

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 ところが、修士課程を終える2004年、スプリングトレーニングにインターンとして招かれたロスアンジェルス・ドジャースのアスレティックトレーニングルームで、それまでのアスレティックトレーニング歴で最も優れたハサミに出会ってしまった。こんな帰国直前に出会うなんて、と小田和正の歌のように切なく思ったのもつかの間、なんと短期のインターンでしかない僕にも支給されるという奇跡が起きた。写真には残していないが、実はフルタイムのスタッフにはそのハサミが綺麗に収まる革製のホルスターまで支給されており、まるで西部劇のガンマンが44マグナムをぶら下げているようでもあり、ただでさえ憧れの先輩たち、その腰のベルトに通されたホルスターでさらに輝いて見えた(実はインターンではなくフルタイムで、とオファーされていたのに、帰国して大学に勤めることが決まっていたのでそのお誘いをお断りしていたことを非常に後悔したのは言うまでもない…)。

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 以来2020年の今日まで大切に使ってきたのが上の写真のハサミ、06年、07年と勤めた別の球団では誰も使っていなかったうえに、一時はカタログ落ちしており、米国内でも入手できなかった時期もあった。当然のことながら日本には輸入されていなかっただけでなく、このサイズのテーピング用ハサミなど国内ではそもそも商品化されてもいなかった。それを知っていたので、07年以後、このハサミを紛失したり(一度紛失しかけたときには、まるで子供が誘拐されたかのように慌てふためき、発見されるまで本当に回りの方々に迷惑をかけてしまった)、切れ味が鈍ったときはどうしようか、と常に気をもんできた。大学の教員をしながら、週末に中学野球の現場に出る程度なら消耗はまだ少なかったようで、なんとか16年使い続けてこれたともいえる。このハサミに対する不満は、最初はなかったのだが、新素材のDynamic Tapeがどうも苦手であることがわかった。

あと、本当にたまに、ではあるのだが、先端の球状の部分が小さすぎるためか、巻かれているテープを切るときに痛みを訴える選手が現れることも気になりはじめた。

 16年ずっとお気に入りだったハサミと言えど完璧ではない。そのうえ同じモノを入手するのも難しい、なら待っていても仕方がない、自分で動いてみようと重い腰を上げたのは2020年の8月、あれから16年も経った後だったなんて、自分の行動力のなさに悲しくなる。

 そこで頼ることにしたのが、生まれ故郷、堺の人脈。堺の刃物職人が、本気で僕の仕事道具を作ってくれる、僕にとってはワクワクのプロジェクトだ。一品モノで、次いつ作ってもらえるか、その職人さんがお亡くなりになったらもう手に入らない、というレベルの最高級は今回求めない。紛失したとしても、また作ってもらえる、量産の定番品となる前提で機能を追求してもらいたい、とリクエストしたところ…今日ついにプロトタイプが僕の元に届いた。

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 自慢したいポイントは多々ある。一番のポイントはやはり切れ味、Dynamic Tapeだろうとなんだろうとスイスイ切れる。その秘密は

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刃に施された鋸刃のようなギザギザ、これのおかげか、ステンレス鋼にはフッ素加工などされていないにも関わらず、キネシオテープやDynamic Tape、あるいはエラスティックテープなど強い糊の影響を受けにくいらしい。そして、このハサミは道具を使わずに分解が可能で、製造元では砥ぎを受け付けてくれるので、長く使えるようになっている。ただし製造元によると、砥ぎは1度は可能だが2度目の砥ぎ、ならびに製造元以外への砥ぎ依頼はお勧めしない、とのこと。

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 次は先端の形状。アメリカの職人によって加工された僕のお気に入りのハサミは、先端の球体が小さいのと、溶接痕のせいかカタチが、僕のモノだけがひどいのか、少しいびつで、これがテープの下に刃を潜り込ませたときに、選手から「痛い」と訴えられれるケースがまれにではあるが発生していた。この試作品の先端部は磨き上げられた球体、大きめではあるが、テープと肌の狭い隙間に潜り込ませることは難しくない、少しでも潜り込ませることができれば、あとはどんどん切り進んでゆけるだけの切れ味を先端部にも持たせてある。

先端比較

 あとは、親指側ハンドル後方にある突起、は段ボールを素早く開けるためのテープカッターとして使える。チームの負けが込んで、自宅に帰る前から、あるいは遠征先のホテルの部屋で出来上がってしまいたいときに、ビールの栓を抜くこともできそうだが…

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 まだ試作品の段階なので、実際に商品化されるまでは仕様変更があるかもしれないが、大きな特徴はだいたい述べた。先にも述べたが今回は「一品モノ・オーダーメイドレベル」の最高級を目指したのではなく、多くの同業の皆様に手に取ってもらえる「量産品」としての高級、を目指した。クルマでいうと、ロールスロイスやフェラーリ、レベルの「高級」ではなく、メルセデスベンツSクラスやポルシェ911レベルのいわゆる「高機能」を目指している。価格は未定ではあるが、多くの方に手に取ってもらえるものを目指したい。あとは、名前かな、この素晴らしい道具には名前を付けたい、みんなに愛着をもってもらえるような…。何かいい名前がありましたらご教示お願いします。

 以前大学でテーピングを教えていた時、学生たちがあまりにもお粗末なテーピング用ハサミしか入手できていなかった(どうも購買でそれが売れるとメーカーからキックバックが入る教員が他の学科にいた、とか…。知らんけど)のを見て、何とかならないものかと思ったことが懐かしい。楽器の演奏や魚釣りなどと同じく、ビギナーほどいい道具で始める方が本当はよいのだ。特に刃物は斬れない道具で無理して事故が起こることが多いのだから。

 第1ロットの発売は年内を目指している(2020年12月15日より販売開始しました…下のバナーをクリックしてください!)、そして第2ロットからはアメリカにいる仲間たちにも届けたい。堺の刃物職人の凄さを知ってもらって、このハサミ以外にも堺の包丁とかも買ってくれるようになれば嬉しい。どうかご期待のほど。


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