メガネ
俺はハトでござる。
眼鏡をかけている。
眼鏡を掛けながら空を飛んでる奴は周りにはいない。
眼鏡を掛けながら駅前で食パンの耳を待ってる奴はいない。
今日も、いつも夜に駅前でパンの耳をくれるサルトルに会いにいこうと考えていた。
でも実はさっき、サルトルから「原因不明の嘔吐に襲われている」とLINEが来ていて、今日は貰えないのだけれど。
実存主義者は大変だなぁと思いながら、でももう駅前に行くのも習慣になっているし、今日も駅前に向かった。
向かう途中、空を少し見上げてみると、月が出ていた。まだ満月には程遠いけど綺麗だなぁと見惚れた。その時だ。油断していた。眼鏡を落としてしまったんだ。ヤバイ、と思った時にはもう遅かった。眼鏡は人間の頭にぶつかって割れた。その人間も驚いていた。「いや、糞ちゃうんかい!」と。「『俺、この前久しぶりにハトに糞落とされたわぁ』はよく聞いたことあるけど!『俺、この前久しぶりにハトに眼鏡落とされたわぁ』とか聞いたことないわ!」と1人で叫んでいた。
まぁこんな土曜日もあるかと、神が世界を創造した6日目だからしょうがないと、俺はあんまり気にせずそのまま駅前に向かった。
そして、また、俺は驚いた。ふと月を見ると、満月になってたんだよ。さっきより大きく、丸く、輝いていたんだ。
気づいたんだ。
眼鏡を外すとどんな月も満月なんだということに。
俺はいつもいろんな眼鏡をかけてモノを見てしまっている。
眼鏡をかけたらモノは見やすくなるから悪くはないのだけれど、
眼鏡をかけたらそれはレンズを通したモノを見ているのに過ぎない。
そんなことを考えながら、俺は、信号無視をしている人間を狙い、糞を落とした。
眼鏡をしてなかったからもちろん外れたが。
明日はジンズかゾフに行かないとな。次はどんな眼鏡にしようか。
いや、やっぱりしばらくは眼鏡をしないでおこう。
そのままのそのままを見たい気分だ。こんなこと、そういえば、サルトルも時々言っていたな。
俺の話は長い。
このドラマ、面白い。
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