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308. 「彼はLGBT」とか「私はLGBT」っていう言い方をするんですか?

個人的にはこの「LGBT」の使い方はどうかなと思います。というのも、2022年5月8日の日本経済新聞ノウェブ版の記事の見出しに次のようにあったからです:


日経の記事を書いた記者は「LGBT=性的マイノリティ」だと考えているのではないでしょうか。

もしそうだとしたら、それは半分正解、半分誤解です。

文脈(コンテクスト)にもよりますが、LGBTという言葉は(1)「広義の性的マイノリティ」を表す場合と、(2)文字通り「レズビアン+ゲイ+バイセクシュアル+トランスジェンダー」を表す場合があります。

次の図をごらんください。これが性的マイノリティの全体の概念図です(注:LGBT以外のセクシュアリティは図に示した4つ以外にもたくさんあります):

この図から、「LGBT」というのは性的マイノリティの一部にすぎないということがわかります。

性的マイノリティ全体のなかには、これまでお話してきた「アセクシュアル」や「デミセクシュアル」、「クエスチョニング」なども含まれます。(注1)

その一方で、世の中ではLGBTという言葉が広く知られるようになってきました。

そしてその中から、「LGBTが性的マイノリティ全体を指す」用法が出てきたのだと思います。

例えば、書籍などでは最近「人事管理のためのLGBT入門」「SOGIハラ防止とLGBT」のように、LGBTという言葉が「性的マイノリティ」全体をカバーする総称として使われる場合があります。

さて、Qに戻りますが、もし広義の意味で使うのだとしても、この場合は「彼は性的マイノリティだから(サポートをする)」という言い方が望ましいのではないかと思います。

あくまでも私個人の感覚ですが、このようにある特定の人物を指して「あの人はLGBTだ」という言い方は(現在は)しないように思います。

なぜかというと、まだ(2)の用法の可能性があるからです。「あの人はLGBTだ」と言ってしまってそれが(2)の狭い意味で使われている場合、その人がL(レズビアン)なのか、G(ゲイ)なのか、B(バイセクシュアル)なのか、T(トランスジェンダー)なのか、がわかりません。

今後もしかしたら、「金城さんはLGBTだ」という言葉の用いられ方が主流になるかもしれません。言葉の使い方は時間と共に変化するものですから。


(注1)この図では性的マイノリティが他から区別されてきっちりとした1つのカテゴリーとして描かれています。今回の質問の答えのためにはこのような示し方が適切だと考えました。しかし、セクシュアリティというのは実に多様なもので、異性愛〜同性愛〜両性愛〜無性愛〜〇〇セクシュアリティというのは地続きの連続体になっているのではないかと思います。グラデーション、スペクトラムという言い方もあります。その考え方からすると、このように性的マイノリティを他から切り離してしまう表し方は「不適切だ」とされるでしょう。

画像:Photo by Stavrialena Gontzou on Unsplash