「ファクトフルネス」を読んで

昨年購入したものを再読。巷で言われている通り、このコロナ禍を予言していたかのような本であり、日々惑わされてしまう私たちにとって有用なエッセンスが詰まった本である。
再読なので、普段の自分が「ファクトフルネス」な行動ができているかを再確認するようなスタンスで読ませてもらった。
この本を最初に読んでから約1年半、これほど自分の考え方や行動に影響を与えた一冊はそうないと思えるほど、多くの示唆に満ちた本である。コロナに関する報道だけでなく、日々の仕事においても、「そう言える具体的なファクトは?」と頭の中で思考するクセがついたと感じている。
正直、この本を読んでいなかったら、コロナに関する報道に日々頭を悩まし、無駄なストレスを抱えてしまっていたと思い、少しゾッとする。それほど今の社会には必要な知識が詰まったものだと言える。

以下、読書メモである
第1章 分断本能
• 「彼ら」と「私たち」、「先進国」と「発展途上国」といったように、二つのカテゴリに分けて分断する本能がある。それは20年以上前から変化しておらず、今や世界人口の75%は中所得の国に住んでおり、乳幼児の死亡率も大きく改善した。
• 現状の世界人口はレベル1〜4に振り分けられる。極貧困の層はレベル1で、世界で10億人ほど。中間のレベル2と3は1950年大の西ヨーロッパやアメリカと同じレベルで、これらには20億人ずつがいる。
• 分断本能は、人間のドラマチックな本能であり、常に二項対立で物事を考えがちなところがある。ジャーナリストもこの人間の分断本能に訴えがち。
• 分断本能を抑えるためには、平均の比較、極端な数字の比較、上からの景色の三つが必要。
• 平均:平均の比較だけでなく、一歩先にある分布に注目することで、平均の裏にある多くの人間の傾向を知ることができる。(例:数学テストの男女別得点平均と、分布)
• 極端な数字:両極端な話の方が興味を持ち、記憶に残りやすい。金持ちや極貧といった両極端だけでは学ぶことはできず、大半の人がいるその中間に着目することが必要。例えばブラジルの貧富の差がピックアップされるが、実はその格差はここ30年で大きく是正されてきている。
• 上からの景色:高層ビルに住んでいると他のビルが全て小さく見えるかもしれないが、そこには明確な差がある。マスメディアはそうした違いを報道せず、両極端を誇張してしまう。

第2章 ネガティブ本能
• 人は誰しも、ポジティブな面より物事のネガティブな面に注目しやすい本能を持っている。
• 世界の中で極度の貧困にある人の割合は、過去20年で半分にもなっているにもかかわらず、人が持つイメージは「悪くなっている」である。統計で見れば、1800年ごろでは世界の85%が1日二ドル以下の暮らしをしていたが、今や9%。
• 平均寿命は1800年頃は30歳だったが、今や72歳。今やレベル4の代表国であるスウェーデンも、第二次大戦が終わった直後はレベル3、現在のエジプトと同じレベルだった。
• 人がネガティブ本能を持ってしまう要因は、
①あやふやな過去の記憶、②ジャーナリストや活動家による偏った報道、③状況がまだまだ悪い時に「以前に比べたら良くなっている」と言いづらい雰囲気、の三つ。
• ネガティブ本能に支配されがちな人は、深く考えるというより、ただ感じているだけ。また、悪いニュースの方が広まりやすい。

第3章 直線本能
• 世界人口は右肩上がりで今後も増え続けると錯覚している人が多いが、実際に子供の数は今現在でも横ばい。今後増えるのは大人が増えるからで、子供は増えない。
• 子供の数が伸び悩むのは、単純に生活が豊かになり子供が働く必要がない、死んでしまう子供の数が減った、子供により良い教育を受けさせたい、といった理由。
現在人口が爆発的に増えてしまっているのは、親が子供を二人以上作り、かつ同時に生活水準が爆発的に良くなって生きられる子供の数が増えたから。
• 貧困救済団体が子供を助ける活動をしても、子供がひたすら増え続けることにはならない。彼らの生活が改善されれば、子供の数はおのづと減っていくから。
• 直線本能を抑えるためにはまず、グラフの形は必ずしも直線ではないことを意識すること。所得と健康は直線の正比例だが、所得と予防接種や基本的な生活必需品の普及はS字を描く。所得と子供の数は逆に滑り台になって反比例する。
• レベル4の暮らしをしている人にとっては、グラフのうちレベル4にあたるところしか目に入らない。1〜3の状況についても正しく理解することが必要。

第4章 恐怖本能
• 世の中にある全ての情報を配信する、処理することはできないため、マスコミは人の頭の中に入りやすい、ドラマチックな、希少な情報だけを伝える。
• 結果として、滅多に起きないこと、恐怖を煽る情報だけが人間の頭の中に埋め尽くされていく。
• 人間が恐怖を感じることは、身体的な危害、拘束、毒のどれか。人間はレベル1の生活を送っていた際は、こうした恐怖本能によって助けられてきたが、今この恐怖本能はメディアの雇用を支えている。
• 自然災害による犠牲者もレベル1からレベル2と上がるにつれて大幅に減る。さらにレベル4の国が人道支援をすることでもっと減る。こうした減少についてメディアが報道することはない。
• 飛行機事故対応を世界共通にした時のように、恐怖本能は恐怖に対抗するチームワークを生み出すことがある。一方で恐怖本能のせいで世界が良くなっていることにも気がつかない。
• 世界の大戦争は起こっていないが、小さな紛争は起こっている。世界が良くなっているから小さいことはどうでも良い、ということではなく、悪いことと良くなっていることは両立する、ということ。
• 放射能や化学物質など、目に見えないものへの恐怖は暴走する。結果として物質そのものよりも、規制によって被害を及ぼすことがある。
• 実際に、テロによって大切な人がなくなるかもしれないと思っているアメリカ人は全体の51%。これは同時多発テロの時から変わっていない(改善していない)。ただ、数字だけ見れば飲酒トラブルや飲酒運転で亡くなる人の方が多い。

第5章 過大視本能
• 病院の中で亡くなる子供のことだけを考えていてはいけない。地域全体で亡くなる子供全体のことを考えるべき。その場合、病院の外、地域の衛生設備のことに手を加える必要がある。
• 過大視本能とは、数字一つを見て「なんて大きいんだ」「なんて小さいんだ」と勘違いしてしまうこと。
• 例えば、病院の中での子供が命を救われる数は少ない。むしろ子供の生存率が伸びる理由の多くは、母親が読み書きができ、正しい知識を持つことができるか、である。

• 過大視本能を抑えるために必要なのは、比較と割り算。
• 比較は、一つの数字だけではなく、他の比較できる数字と比べること。単純な数字を見ると、その数字がとても大きく見えてしまったりする。例えば、ユニセフがよく打ち出す、毎年何百万人の赤ちゃんが亡くなっている、というものも、1950年は1500万人だったことに比べれば劇的な改善である。
• たくさんある数字の中で、どの数字が重要かを調べる時に、80:20ルールが有効。簡単に言えば、全体の80%を占めている項目を洗い出し、なぜこの項目がこんなに大きいのだろうと考えること。例えば、売り上げの80%はリピーター顧客によるもの、そしてそのリピーター顧客は顧客全体の20%に過ぎない、ということ。

• 割り算をすることによって人類の進歩を見定めることもできる。例えば、赤ちゃんの死亡数ではなく、死亡率で見た時、1950年は15%に対して、今は3%。数字だけではわからないことを理解できるのが割合。
例えば二酸化炭素排出量も、人口一人あたりに換算すれば、中国やインドを犯人とするのは間違いだと気づく。

第6章 パターン化本能
• 人間は物事をパターン化し、それを全て当てはめてしまう傾向がある。田舎暮らし、中流層、完璧な母親、ギャング団など。それが発展すると、ステレオタイプになる。
• ニュースで見る極度の貧困に関する報道を見ていると、世界中に貧困が蔓延していると勘違いしてしまう。例えばマーケティングの世界でも、レベル4の消費者のことしか見ていないとニッチ市場しか見ていないことになる。着実に増えているレベル2や3の消費者のマーケットの方が圧倒的に大きい。

• パターン化本能を抑えるためには、より適切な分類を見つけること。国や文化といったものではなく、レベル1〜4という括りを考えてみる。人の行動の違いを国や文化のせいにする人は疑った方が良い。
• 過半数にも気をつける。過半数と言っても51%でしかない可能性もあるため。
• 例外に注意する。例外を持ち出して集団全体をどうこういうことは疑った方が良い。
• 自分が普通で他の人がアホだと決めつけない。

第7章 宿命本能
• 宿命本能とは、生まれ持った宿命によって、人や国や宗教や文化の行方は決まるという思い込み。人間の進化の過程では、違う環境に合わせるというよりも同じ環境に慣れてそれが続くと考える方が生き残りには適していた。
• 文化も国も宗教も人も、いつも変わり続けている。ただ、西欧諸国やアメリカはアフリカやアラブ諸国の発展に目を向けようとせず、自国がハイリスク・ローリターンの投資先になっていることにも気がつかない。
• 西欧の文化も少しづつ変わってきており、1960年代とは大違いになっている。避妊や中絶といったことがタブーではなくなったのは、西欧諸国でさえここ数十年のもの。
• 宿命本能を抑えるためには、最新のデータを積極的に取り込んで、知識をいつも新鮮に保つよう心がけなくてはいけない。
• いつかアフリカは極度の貧困がなくなり、普通の暮らしになる。それだけではなく、アフリカから西欧諸国への旅行者が歓迎されるような時代が来る。

第8章 単純化本能
• 世の中の様々な問題に一つの原因と一つの回答を当てはめてしまう傾向を単純化本能という。
• 世界を一つの切り口で見ると悩まずに済むが、自分の見方に合わない情報から目を背けることになる。むしろ自分が肩入れしている考え方の弱みをいつも探した方が良い。
• 例えば女性の権利に関する活動家の中に、レベル2〜4の国の女子たちがどれだけの期間教育を受けられるか正しく理解できている人は少ないのが実態。(実際は男子とそう変わらない期間)
• トンカチを持つと全てが釘に見えてくる、という例がある通り、専門家は自分の専門分野の知識に全てを当てはめて物事を考えがち。例えば結核を断絶しようとした医師がインドの国中の農村でレントゲンを撮ろうとしたが、失敗した。これは、そもそも村人たちが期待していた「今抱えている」病気の治療には全く結びつかないため。地域の総合医療が大切、ということの教訓となった。
• アメリカの医療制度は、一つのものの見方に囚われてしまっている。市場が国家の全ての問題を解決できるという考え方で、公的サービスを民間企業に任せて競争させてしまい、貧しい人は医療保険に入ることができず寿命を全うできない。

第9章 犯人探し本能
• 何か悪いことが起こったときに単純明快な理由を見つけたくなる傾向が、犯人探し本能。
• 犯人探し本能のせいで、個人なり集団なりが実際より影響力があると勘違いしてしまう。誰かを責めたいという本能から、事実に基づいて本当の世界を見ることができなくなってしまう。

• 飛行機事故をパイロットのせいにするのではなく、深刻な問題として受け止め、問題を起こすシステムそのものを見直さないといけない。
• メディアはなぜ、世界を歪んだ見方で報道するのか?
彼ら自身も必ずしも正しい知識を持っているわけではなく、彼ら自身もドラマチックな本能を持ち、視聴者の目を引き付けなければクビになってしまうから。
• メディアは現実を映し出す鏡にはなれないことを理解すること。

• 難民がゴムボートでEUに向かおうとして起こった悲劇、この悪人は一見仲介役の密輸業者にも見えるが、彼らがゴムボートしか渡航の手段がなかったのは、EUの方針(不法移民対抗)によるものがある。
難民認定が受けられないため飛行機にも乗れず、ボートが没収されてしまうから船もゴムボートになってしまう、ジュネーブ条約を骨抜きにしてしまったEUの移民政策が本当の問題である。
• 逆に、物事がうまくいっている時のヒーローは、一人のCEOや大統領ではなく、社会基盤とテクノロジー、それらを支える名もなき普通の人たちである。一国のリーダーの力はそう重要ではない。

第10章 焦り本能
• 「今やらないと、もう次はない」というのが焦り本能。遠い昔はその本能に人間は助けられてきたし、時にそれが今の自分を救うこともある。ただ、現代の生活ではそうした差し迫った危機はほとんどなくなった。
• 焦り本能のせいで、拙速な判断や隅々まで考え抜く前に過激な手を打ちたくなってしまう。また逆に、遠い未来の危機については手が緩みがちになる。老後に向けて貯金する人が少ないのが例。
• 多くの活動家は、こうした恐れにつけ込み、責め立ててしまう。事実やデータを見るべきにもかかわらず、全く関係のない事柄を結びつけるようなことはNG。(温暖化と難民の数、など)
• 焦り本能は世界の見方を歪めてしまう。今しかない、という焦りはストレスの元になったり、逆に無関心に繋がってしまう。

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