見出し画像

「2019年3月8日SSA架空戦記」(Wake Up, Girls! Advent Calendar 2021 12日目寄稿)

はじめまして。ヨセナベと申します。
Wake Up, Girls!Advent Calendar に初めて参加させていただきます。

ちょうど1年前、Advent Calendarに寄せられた素晴らしい記事の数々に触発され、自分もWake Up, Girls!についての記事を書きたいと思い、noteを始めました。そして、もし、この愛にあふれた企画が継続しているなら、次回はぜひ参加してみたいと考えておりました。大変恐縮ですが、末席を汚させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

※Wake Up, Girls!Advent Calendar 2021
https://adventar.org/calendars/6206

(全ての記事を拝読して、楽しませていただくつもりです。本当にこのような企画をありがとうございます!)

※昨年投稿した記事(私とWUGについて)
 https://note.com/yosenabe_3773/n/n27ed7c8e40c6

(自己紹介的な記事です。お時間あればこちらもよろしくお願いします!)

※Run Girls, Run!Advent Calendar 2021寄稿記事(仙台公演感想)
https://note.com/yosenabe_3773/n/nbe9aa163c6ff

(自分なりにランガちゃんと向き合ってみた結果です。読んでいただけると本当に嬉しいです!)




0.はじめに

さて、私は、声優ユニットの解散前にWUGを好きになったのですが、生のライブに参加したことがありません。特に、2019年3月8日金曜日にさいたまスーパーアリーナで開催された『Wake Up, Girls! FINAL LIVE ~想い出のパレード~』(以下SSA)に参加できなかった(しなかった)ことは、今日に至るまで、強い後悔と無念が残っています。いまいち自身を「ワグナー」と名乗り切れない負い目の原因もここにあります。ユニット解散後もそれぞれの個性を発揮して多方面に活躍する7人ですが、WUGとして歌い踊る姿は二度と観ることが叶わないのです。いとしい指輪さんの説(Advent Calendar 2日目記事参照)によると、「暗闇のワグナー」にカテゴライズされます。

しかし、いつまでも、後ろばかり向いてはいられません。Advent Calendar への参加を表明したものの、何をテーマにしようか決まらず、よし!「WUG漫才」を書こう!などと迷走したときもあったのですが、やはり今一度SSAのBDを見直した上で、最近のトピックなどにも触れつつ、SSAに関する自分の所見や思いなどを、記事としてまとめることに決めました。それが、私自身が、私にとっての第2章を進むために、必要なことだと思われたのです。

以下、SSAについて、感想などを書き綴っていきます。なお、あくまで私個人の感想であり、みなさまとは事実の認識や見解において相違などあろうかと思いますが、ご容赦いただけましたら幸いに存じます…


………となる予定だったのですが、筆をとったら、得体の知れない、私小説めいた、何かを書き上げてしまいました。

自分としてはけっこうすっきりしたのですが、果たして第三者にとって読むに耐えるようなものなのかどうかがわかりません。暗闇で起きた亡霊の怪奇現象だと言われても仕方ありません。

しかし、このように自分語りと妄想を垂れ流す自己開示することで、もしひとつでもみなさまに共感していただけるところがあったり、解散後にワグナーになった方とも共有できる思いがあったりするのであれば、寄稿する意味があると思い、勇気を出して公開することにいたしました。特に、昨今の時勢により、イベントやライブへの参加が難しい状態が続いているかと思います。本稿により、少しでも、イベントやライブ参加のどきどきやわくわくといった非日常の感覚が思い出されたり、想像できたりするようなことがございましたら、とても嬉しく思います。それにより、自分自身が前に進むための一助にしたいと思います。

なお、超絶長いです(約1万2千字)。そしてSSAの内容を記述しますので、未視聴の方はご注意願います。




以下、架空の2019年3月8日を迎えます。


1.彼の地へ

 2019年3月8日金曜日の早朝、身支度を済ませた僕は、いつもと同じく仕事に向かっていた。空は、突き抜けるように澄んだ青色である。吹き付ける風はまだ少し冷たいものの、ようやく長い冬が終わり、春が訪れつつあることを実感する。北陸の冬は厳しく重苦しい。毎日のように灰色の分厚い雲が空を覆いつくし、雨、あられ、みぞれ、雪が降り、雷が鳴り響く。そんな日々の終わりを告げるような今日の青空は、まるで彼女たちの門出を祝福しているようだと、柄にもなく感慨にふける。

 この日の午前中は、社外で上司同席の打合せがあるため、休むことができなかった。無事に打合せは終わったものの、何かにつけて不安を感じやすい僕は、その案件は果たして上手くいくのか、調整は上手くつくのか、梯子を外されたらどうしよう、などとネガティブな思考に囚われてしまう。やはりこの後有給をとっている場合ではないのでは、他の残務も来週のタスクとして重くのしかかってくるのでは、と気持ちが揺らぐ。明日の朝行くはずだった別件の用事は適当にごまかして断っていたが、それも申し訳なく思う。

 帰りの社用車の車中、もう少しで会社に着くという頃合いで、助手席に座る上司が尋ねてきた。

「ところで、この後休みをとっているようだけど、なにか用事があるの?」

 やはり聞かれたか。上司としては雑談のひとつとして尋ねたに過ぎないのだろうが、有給は労働者の権利とはいえ、私用で使うには抵抗がある。適当に家の用事だと伝えてお茶を濁しておこうか。いや、この上司は気さくな性格で、くだけた会話もできる関係性だが、人から話を聞き出すことに非常に長けた人物である。嘘をつくと必ず見破られて追及される雰囲気がある。そして、僕自身、誰かに話したいという欲求もあった。

「…実は好きな「アイドル」の解散ライブがありまして、この後県外に行くんです。誰にも言わないでくださいよ」

「へー君が「アイドル」好きとは意外だった」

「実は好きになったのはつい最近でして…。初めてライブに行きます」

「そうなんだね。何ていうグループ?テレビに出てる?」

「ああいえ、普通の人は知らないと思うので…」

 グループの名は『Wake Up, Girls!』。堂々とその名を言えず、ごまかした自分が情けないし、申し訳なく思う。ただ僕は物事を端的に伝えることがあまり得意ではない。どうしても、その全てを過不足なく順序だてて説明しなければならないという思考に囚われやすい。この後展開するであろう短い会話のラリーで、何も知らない人にその内容や魅力を伝え切るのは不可能だと感じたのだ。

 「ふーん。まあ最近は色々あるからねえ。仕事のことは忘れて楽しんできなよ」

 「すみません、この後穴を空けてしまって…」

 「いいんだよ。君はまだ若いから、仕事、仕事、って感じかもしれないけど、生きてるとそれだけじゃないから。私も子供の用事のときはいつも休みもらってるからね」

 「…ありがとうございます」

 会社に戻り、忙しそうにしている同僚を尻目に、そそくさと退勤する。時間に余裕はない。いったん家に戻り、ちょっぴりおしゃれを意識した私服に着替え、大事なチケットと新品のペンライトが入ったバックパックを背負い、彼の地を目指して出発した。金沢駅に着き、雑踏を抜け、新幹線乗り場へ向かう改札をパスしたときから、一気に非日常が広がる。乗客のまばらな北陸新幹線は猛スピードで進み、同僚や上司の顔、不安な案件、残してきた仕事を置き去りにしていく。そして、楽しみや高揚感とともに、また新たな不安と緊張が押し寄せてくる。果たして、僕のような「にわか」が足を踏み入れてもいいのだろうか。入り口や座席はわかるだろうか。色替えやコールを誤り、周囲に迷惑を掛けないだろうか。

 実は過去一度だけ、とあるアイドルコンテンツのライブに参加したことがある。そのとき、僕は並ぶ列を間違えてしまい、周囲の参加者から注意を受けてしまった。その苦い記憶が蘇る。ライブ自体は楽しかったし、それが直接の原因ではないが、その後自身の私生活の変化とともにフェードアウトし、それ以来ライブやイベントには参加していなかった。あのときは、100均でサイリウムを15本くらい買って持って行ったっけ。下調べしていなかったら今回もそうするところだった。危ない危ない。でもUOを折ったあの曲、楽しかったなあ。

 車内では、WUGの楽曲をランダムで流しながら、好きな作家の一人である伊坂幸太郎氏の文庫本を捲っていた。ギリギリまでWUGの知識を詰め込もうかとも思ったが、初参加の方へ向けて親切なワグナーさんが書いた、ライブやコールなどを解説したブログ記事は一応事前に読んでいたため、最後はあがいても無駄だというテスト前の心地であった。話は逸れるが、氏の著作は仙台を舞台にした作品が多い。僕は後に勾当台公園・仙台市役所前を訪れることとなるが、WUGの聖地としてだけでなく、『ゴールデンスランバー』の聖地としても楽しむことができた。僕を仙台に連れていってくれたWUGにあらためて感謝である。なお、『仙台ぐらし』という氏のエッセイをおすすめしたく思う。

 長野駅で、出張帰りと思しきサラリーマンや、週末を都心の観光地で過ごすのであろう旅行者が多く乗り込み、客席が埋まった。高崎を通過し、いよいよ彼の地が近づいてくる。大宮駅で下車し、案内板を頼りに、さいたま新都心駅へ向かう電車に飛び乗る。もうすぐだ。

 SNSでタイムラインを追っていたため、現地の情報はある程度分かっていた。まずはさいたま新都心駅の出口で7人の写った看板の写真を撮る。「ありがとう。」こちらこそ、今日僕をここに連れてきてくれてありがとう。物販はすでに終了しているようなので、考える必要はない。少なくともパンフレットは欲しかったが、またどこかで手に入る機会があるだろう。目的地を同じくする群衆に紛れて、会場を目指す。迷うことはなさそうで安心したが、明らかに浮足立っている。緊張感が増していく。

 会場付近は異様な熱気に包まれていた。多くの人が言葉を交わし、広場からは円陣の声が轟いてきた。そんな様子に、僕は疎外感と不安感を感じてしまう。本当に足を踏み入れて大丈夫なのだろうか。「お前みたいな「にわか」はお呼びじゃないんだよ!」心の声が聞こえてくる。なぜ僕はここに来たのだろう。

 2019年1月30日水曜日深夜、『鷲崎健のヨルナイト×ヨルナイト』のWUG7人ゲスト回を視聴し、衝撃を受けた。それから、もっと彼女たちのことを知りたいという一心で、『Wake Up, Girls!』というコンテンツに加速度的にのめり込んでいった。生活に、七色の光が差した。
 しかし、ライブに行くかどうかは躊躇した。その日は平日で仕事がある。翌日も用事がある。そもそも自分はただのラジオリスナーであり、遠征してまでライブに行くようなオタクではない。ライブには過去失敗した記憶がある。チケットの取り方も、何を用意すればいいかもよくわからない。
 いや、違う。結局、僕はあと一歩足を踏み入れるのが怖かったのだ。「綺麗な景色をみるのに資格はいらない」「新参も古参も関係ない、今からでも遅くない」「偶然テレビでドラマの最終話をみて泣いて、1話に戻ることなんて全然あるもんな」。あのとき背中を押してくれた言葉を思い出す。不安や恐れを払拭するには、自身の状況、感情、思考を客観的に観察するとともに、「いま、ここ」に集中することが肝要である。そうだ、ただただ彼女たちのいまの雄姿を享受すればいい。きっといい景色を見せてくれるに違いない。そして、そんな彼女たちのラストを見届けるために、門出を祝福するために、もっともっと彼女たちのことを好きになるために、今日僕はここに来たのだ。

 開場時間となり、僕は大きな一歩を踏み出した。



2.初めてのパレード

 関係者やファンからの多くのフラワースタンド、大会場が満員となっている客席、WUG楽曲のBGM、WUG関連の宣伝、それらの光景に胸が熱くなる。一方で、この期に及んで、このままライブが始まらなくてもいいとも思っていた。さっきは決意して入場したが、本当にちゃんと、彼女たちを見届けられるかどうか、不安が再燃していた。また、いつもの、利己的な被害妄想と加害妄想に囚われてしまい、「いい景色」のひとつになれなかったらどうしよう。それに、ライブが始まったら、終わってしまう。そう思っている間にも、開演時間は刻一刻と近づいてくる。

 影ナレが始まり、松田役が浅沼晋太郎さんであることを思い出す。僕の好きな作品『四畳半神話大系』の「私」役で、好きなラジオ『思春期が終わりません!!』のパーソナリティ。これも縁だなと思うと、少し落ち着いてきた。

 オープニングVTRが終わり、会場に大音量でイントロが流れ始めた。いよいよ始まるのだ。新参の自分でも即座に分かる。『タチアガレ!』だ!周囲に倣い、慣れない手つきでペンライトを操作し、WUGグリーンに合わせる。「Wake Up, Girls!!!!!!」と無我夢中で叫んだと同時に、爆発音が鳴り響く。遠くのステージが徐々に明らかになってくる。居る。本当に居るよ。本当に実在したんだ。岡本未夕役の高木美佑さん、久海菜々美役の山下七海さん、片山実波役の田中美海さん、島田真夢役の吉岡茉祐さん、林田藍里役の永野愛理さん、菊間夏夜役の奥野香耶さん、七瀬佳乃役の青山吉能さんが!7人、いや14人が!WUGちゃんが!ここまでごちゃごちゃ考えていたことが、全て吹っ飛び、全身全霊で、会場のうねりに飛び込む。『16歳のアガペー』『7 Girls War』が連続で披露され、ただただ叫びながら、声を出すことで心と体がブチ上がっていく。「君の名前」も呼べない。「のびしろにょきにょき!」とか「涙ファー」とか、まだ良くわからない。でも僕は、笑いながら、泣いていた。

「みなさーん、こんばんわぐー!」
 両手を掲げる。メンバーからの呼びかけに、歓声をあげて返す。ただただ、楽しい。全身全霊でライブを楽しめる。大丈夫だ。これで僕もワグナーの一員となれたのだろうか。

 『ゆき模様 恋のもよう』、『言の葉 青葉』で雰囲気が一変する。美しいハーモニーに、心が浄化されていく。ステージの大型ビジョンには、仙台・東北の風景が映し出されている。僕は後に仙台を訪れることとなるが、そのことを知人に話した際、「仙台はなにもない」と言われたことがある。確かに、大規模なテーマパークや行楽施設はないかもしれない。ただ、僕にとっては、行きたいところを全然回り切れなかったくらい「なんでもある」土地だった。これからきっと何度も仙台に足を運ぶことになるだろう。







 アニメの名シーンのダイジェストが流れ、このまま『Beyond the Bottom』に移行するかと思いきや、予想が外れた。ライトが8色…ひとつは白色だ!全身に鳥肌が立つ。実は『One In A Billion』は、「WUGを知る前」から知っていた。当時、終わっているのかいないのか分からない番組『電波ラボラトリー』でこの曲がプロモーションされた際、「あのMay'nさんが、若い女の子のグループに入って楽しそうにしている」という見方ではあるものの、とても面白い回だと思った記憶がある。「奥野香耶」というなんとも美しい響きの名前の女性声優が居ることが印象に残った。他にも、『16歳のアガペー』 がめちゃくちゃ良い曲だと感じて、よく分からないままリピートして聞いていたときもあるなど、「紀元前」の記憶を辿ると、実はけっこうニアミスしていたりする。惜しいことをしたと思うが、それは仕様がない。後に、田中美海さんがラジオで発言する「潜在的な推し」というやつかもしれない。

 『素顔でKISS ME』、『恋?で愛?で暴君です!』では、激しく照らすライト、めまぐるしく動くフォーメーションダンス、まゆしぃとよっぴーを中心にした強烈な歌声に会場のボルテージがさらに上がっていく。ただただ、パフォーマンスに身を任せて体をノらせる。『素顔でKISS ME』は作中では、売れない楽曲という位置づけだったがとんでもない。きっとこれからも、この2曲に魅了された新たなワグナーを獲得していくにちがいない。

 『キャラクターソングメドレー』、『Non stop diamond hope』、『ワグ・ズーズー』で、更に盛り上がっていく。『ハジマル』で先陣を切ったまゆしぃは、センターステージに一人で立ち、赤色に染まった客席を率いてSSAを我が物にしていく。なんというパワーの持ち主だ。トロッコに乗る7人の動きに合わせて、客席が七色に染まる。その景色の一部に自分がなれていることに心底良かったと思う。コールも振り付けも前方の客席の見よう見まね。それでも後半は慣れてきて、自分が会場全体の一体感に溶け込んでいくのを感じていた。

 『WUGちゃんねる』のVTRが流れ、大いに笑う。「良アイドルには良バラエティ」は持論だ。忘年会のビリビリのくだりはあまりにも出来過ぎている。黒の衣装からそれぞれの信念を襷掛けした白の衣装にチェンジし、『HIGAWARI PRINCESS』、『スキノスキル』のパフォーマンスに魅せられる。みゅーちゃんの長い手足が映える。曲によって、かわいく、激しく、かっこよく、静かに、美しく…、所作が全く異なるのが、このユニットの凄さのひとつだと思う。それこそが、声優ユニットの特色といえるのかもしれない。

 『僕らのフロンティア』で会場が雲一つない青空となった。近い将来、世界は一変し、行楽施設や飲食店に自由に出入りすることすら不可能となり、ストレス解消の手段を失った僕は非常に苦しむこととなってしまう。そうしたときに、自然に目を向け、今まで訪れたことのなかった、地元の公園や河川敷、神社、里山を歩く習慣ができた。そのときに見上げた雲一つない真っ青な空。自然と『僕らのフロンティア』を口ずさんでいた。「Blue Blue Sky」からの一気に眼前に広がる解放感。それとともに、僕の心は解放され、爽やかな風が吹き、ポジティブな感情が生まれる。本当にこの曲には救われることとなる。ラストの田中美海さんの絶唱。まゆしぃとよっぴーの強烈な歌声を正確にサポートする役割が多いと思っていた彼女が、一気にソロとしての存在が立ち、心揺さぶられる。上手いし、すごいなこの子。いつしか水色に黄色が混ざり、ただただ綺麗な景色に涙がこぼれてしまう。







 『7 Senses』で、4人と3人に分かれ、無邪気にお互いにちょっかいを掛け合う、ななみん、みにゃみ、みゅーちゃん、よっぴー。精一杯客席に手を振り続ける、あいちゃん、かやたん。これ以上さらに上がるのかというところまで会場を煽り続けるまゆしぃ。まさに7人の個性が表れている。「約束の地で待ってて」。よかったね、本当に来たよ。少しでもこの光を彼女たちに届けたいと思いながら、左右にペンライトを振り続けた。このまま『極上スマイル』に突入し、まだ天井があるのか、どうにでもなっちまえと、更にブチ上がっていく。ミスも極上の笑顔でリカバリーするみゅーちゃん。かわいらしい仕草で魅了するななみん。あいちゃんとかやたんのお姉さんふたりを凛々しくエスコートするまゆしぃ。まさに豊作豊作である(?)。

 暗転し、各キャストからの餞の言葉が贈られる。加藤英美里さんには『集まれ昌鹿野編集部』という古のラジオ番組でよく笑わせてもらったな、と頭をよぎったのを打ち消し、あらためて素晴らしいキャストのみなさんに囲まれていて、WUGちゃんは幸せだなと思う。「I-1club」、「ネクストストーム」、そして「Run Girls, Run!」。どれもWUGの物語に不可欠な大事なユニットだ。ランガちゃんはきっと大丈夫。「追いつくこと」が目標だったこの頃から走り続け、色んな経験を経て、自分たちのRun Girls, Run!を確立していくにちがいない。

 『雫の冠』で、歌声を聞きながら、既に相当な時間が経過し、ライブが終盤に差し掛かっていることを実感する。最後を飾る美しい白と緑の衣装で、しっとりと、でも良い顔で歌っている。かやたんはこのとき何を思っているのだろう。よっぴーはどんな感情を込めて歌っているのだろう。なんてあいちゃんは優しく包み込んでくれるんだろう。

 『少女交響曲』、『Beyond the Bottom』のあまりの圧巻のパフォーマンスに語彙力を喪失し、思考がめちゃくちゃになる。は?いやいや、やばすぎやろ。どうなっとるんやこの子ら。まさに「優勝」、そして「神」である!美しい…。古代より八百万の神々が宿るこのお箸の国に生まれてよかった。今歌い踊っているこの子達なら、本当に世界の悲しみや憎しみを受け止めることができるかもしれない。そして人類はみな叫ぶだろう。
「WUG最高!!」



3.同じ夢を見ていた

 最高峰のパフォーマンスに酔いしれた後、MCが始まり、混濁した思考から少し落ち着きを取り戻す。ただ、この後、あの4曲が披露されるであろうことは、自分にも予想がついており、少しの緊張感を覚えていた。そんな中、ななみんが「今日初めてWUGのライブに来たよっていう人、いますか?」とセンターステージから客席に問いかけた。とても驚いた。たくさんの人が僕と同じように、初めてWUGのライブに来ていたのだ!なんだ、全然遠慮する必要なんてなかったじゃないか。やっぱり、時には自分の感性を信じて飛び込んでみることも大事だ。そうしないとわからないことが、いっぱいある。そして、それだけのファンを今日集めることができたのは、紛れもなくWake Up, Girls!が魅力的なコンテンツであるために他ならない。それにしても、初参加で、あれだけのライブ対応力があるのはすごい。それだけ真摯な思いや熱意をもって参加されている方が多いのだろう。

 『海そしてシャッター通り』、『言葉の結晶』、『土曜日のフライト』、『さようならのパレード』。世界に誇る新進気鋭のクリエイターが、Wake Up, Girls!の解散にあたり贈った宝玉のような楽曲たち。後に作曲者本人の解説を聞いて、少しだけ理解した部分はあるが、それでも、数年経っても未だこの4曲の真髄には辿り着いている気がしない。このときは、ただただ涙を流して聞いていた。ただ、今後も、この4曲は、ずっと、彼女たち自身とワグナー、そして僕自身にも寄り添ってくれていくにちがいない。厳しくもなんて優しい楽曲たちだろう。そして、ここで、「そうだWUGは解散してしまうのだった、このライブが終わった後、彼女たちと僕はどうなってしまうのだろう」、と「解散後」に初めて目を向けた。長い年月をかけて、彼女たち自身や僕自身の状況や社会環境、ライフステージの変化に伴い、少しずつWUGを思い出すことが減っていくかもしれない。「上手に忘れる」とはなにか、数年経っても、僕には未だ結論が出ていないが(もしかしたら結論を出すべきものではないのかもしれない)、きっとこの楽曲たちがずっと寄り添っていてくれるはずだ。

 アンコールのため、「Wake Up, Girls!」と叫び続ける。後に、ライブで声を出せなくなった世界で、アンコールのため手を叩くこととなるが、今は彼女たちの名前を呼ぶことの幸せを感じ、全力を注ごう。『SHIFT』、『地下鉄ラビリンス』は、件の番組で初めて聞いて驚き、沼に突き落とされて狂わされたとても魅力的で彩りを与えてくれた、WUGを好きになるきっかけとなる、大好きな楽曲だ。あのときはアコースティックギターに合わせて、ラジオブースで歌われていたのが、大観衆のボルテージを再び最高潮に高めさせている。僕の席は会場の後方であるが、トロッコに乗って近くまでやってくるWUGちゃんにずっとライトを振って声を届けようとしていた。

 『TUNAGO』を聞きながら、冒頭の『言の葉 青葉』で巡らせていた考えの続きをする。その地域について話すとき「~にはなにもない」といわれることがある。しかし、どんな大都会でも、住宅地でも、農山村でも、漁村でも、誰かにとっては特別な土地であって、「なにもない」というのは、あくまで主観的なものなのだろう。そして僕は自分のふるさとのことを、ずっと「なにもない」と思っていた。でも、誰かにとっては「なんでもある」土地なのかもしれない。これからは必要以上に自分のふるさとを卑下したり、自分の知らない地域を悪く言ったりすることはやめようと思う。そんなことにも、WUGちゃんは気付かせてくれた。

 緑一色の大観衆の中で、再度「Wake Up, Girls!Wake Up, Girls!」と叫ぶ。何度でも見たい。何度でも出てきて欲しい。今から歌うのであろう大事な大事なあの曲の衣装に身を包み、登場したWUGちゃんは、一人一人、自身の書いた手紙を読み上げた。僕は一言も聞き逃すまいと、固唾を飲んで見守っていた。




岡本未夕役 高木美佑様

ありったけの、ありがとうの気持ちを伝えてくれました。「Keep smiling」って簡単にできることじゃない。本当にすごい。新たな活路を切り開いていった岡本未夕ちゃんのように、後の世の中で、新たな分野で大活躍していくことでしょう。これからも、さらににょきにょきと成長を続け、たくさんの人に笑顔を届けてください。



久海菜々美役 山下七海様

いただいてきた愛の大きさについて話してくれました。故郷、家族、友人を大事にし、メンバーやファンを愛し、たくさんの大好きをもらった姫。WUGの活動を通じてもらった愛の大きさに突き動かされ、一世一代の決心をした久海菜々美ちゃんのように、これからも歌やダンスで実力を発揮し、自由に、多くの人を魅了し、愛され続けてください。



片山実波役 田中美海様

かけがいのない経験とメンバー、そしてこれからの決意について伝えてくれました。持ち前の才能と努力で益々大活躍していくことでしょう。どんな辛いことがあっても、人を大事にし、周囲を照らす太陽のような片山実波ちゃんのように、それぞれの道を行くメンバーやファンをあたたかく見守っていてください。信じてついていきます。そしてみにゃみ自身の幸福を切に願っています。



島田真夢役 吉岡茉祐様

成長と変化、そしてWake Up, Girls!の「これから」について話してくれました。このときの言葉はずっと生き続けるでしょう。WUGの活動で得られたことを礎に、さらに多彩な才能を発揮し、苦手も克服していくことでしょう。信念を貫いた島田真夢ちゃんのように、自分自身を、身近な人たちを、多くの人たちを幸せにしていってください。



林田藍里役 永野愛理様

培ってきたWUGへの自信と感謝、自身の在り方について伝えてくれました。もし苦しいときがあっても、優しく強く成長した林田藍里ちゃんのように、きっと桜が咲くことでしょう。あいちゃんの言う通り、これからも新たにWUGを知る人がたくさん居ます。あなたの言葉のおかげで、自信を持ってWUGが好きになれます。これからもあれこれと、演じ、歌い、笑い、踊り続けてください。



菊間夏夜役 奥野香耶様

活動の中での葛藤と内面、そこから得られた感謝と自分らしさについて話してくれました。菊間夏夜ちゃんのように、仲間思いで熱い心を秘めているところ、分かりづらくなんてない、みんなに伝わっていると思います。唯一無二のかやたんらしさ、かやたんの世界を、これからもたくさん見せて、驚かせ続けてください。



七瀬佳乃役 青山吉能様

解散に対する率直な思いをぶつけてくれました。一生懸命な姿が輝く七瀬佳乃ちゃんのように、不器用でもいい、あなた自身をぶつけ続けてください。もし苦しいことがあっても、それ以上に楽しいことや素敵な出会いがあるはずです。荷物は重過ぎるかもしれないけれど、胸を張って第2章を歩み、挑戦し続けてください。




 万感の思いを胸に、『Polaris』が披露される。眼前では、白一色、赤一色、カラフルと客席が変化していくが、この「きれいな景色」を目に焼き付けるために、ペンライトを降ろし、全神経を集中させる。「エモい」、「尊い」。確かにあらゆる思いや物語の全てを含んだこの景色を端的に言い表すには、その表現が適格なのかもしれないなと、初めてその言葉の意味を理解する。大会場の中心で、7人が輪になり見つめ合う。1万3千人の満点の星空の中で、一点彼女たちだけの世界が生まれる。そこには道標となる北極星が燦然と輝いている。本当に奇跡のような光景だ。でも、この光景に辿り着いたのは、紛れもなく彼女たちの力だ。彼女たち自身が紡いできた物語が、多くの人を魅了し、ムーブメントが生まれた。「lalalala…」自ら隣席の参加者に手を差し出し、肩を組む。もはや会場の中と外という境界すら曖昧になり、キラキラと、世界の全てが輝きを放つ。そんな不思議な感覚が僕を包んでいた。

 「Wake Up, Girls!Wake Up, Girls!Wake Up, Girls!」願いが叶うなら、何度でもこの名前を叫びたい。ペンライトを再度握りしめ、届け!届け!と声を張り上げる。「さあ、皆さん、灰(ハイ)になる準備はできてますか!?」と、今日客席を煽り続けてきたまゆしぃが、ここぞとばかりに声を張り上げる。その熱き想いは後輩に立派に受け継がれているよ。今日2回目の『タチアガレ!』。WUGちゃんがステージ上を駆け巡る。僕は涙と汗でぐちゃぐちゃになりながら、今日一番の声を張り上げる!本当にありがとう!!




 自分自身との戦いに打ち勝ち、彼の地へ足を踏み入れ、きれいな景色の一部になることができた。しかし、そろそろ、夢から覚める時間だ。夢から覚めたら、再び現実と向き合っていかなければならない。でも、きっと大丈夫だ。またいつでも、この同じ夢を見ることができる。それは僕だけでなく、あらゆるワグナーが、彼女たち自身が、全ての人が、いつでもあの日あの時に行けるということだ。もちろん解散後にファンになったワグナーも同じだ。確かに声優ユニットとしては、事実として具体的に解散した。しかし、愛に溢れた真摯なワグナーが言うように、Wake Up, Girls!の物語、あらゆる人の想いや絆というのは生き続けており、それらを礎に、みなそれぞれの道を歩み、成長を続けているのは確かだ。Wake Up, Girls!がそのように抽象的に生き続け、更に多くの人々を魅了し、血肉となって受け継がれ、たとえ実体がなくなっても、ずっと先のなん億光年先で輝き続ける。そう僕は確信している。だからもう後悔はしていない。未来に向けてたびを続けていくことにしたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?