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ひとんちのおにぎり。いつぶりだろうね。


膝に置いた手をキュッとしながら、声を出してみる。

「あの…ぼくも1つもらってもいいですか?」

ほっぺに米粒がつきそうなほど大きな塊。両手で受け取りながら、ぼくは考える。

こんなのって、いつぶりだっけ。

🚶‍♂️

「いち、にー、さん、しー!ごー、ろく、しち、はち!」

ある日曜日。澄み渡った空の下、ぼくはリズムをとりながら体を動かしていた。

今日はよさこいチームの外練習だ。公園で振りや配置の確認をしている。

この公園はただっ広い。隣ではサッカーをやっているくらいに空間を持て余していて、気持ちがいい。けれども、遮るものが何もないので、春風が爆風と化している。

気を抜いたら、上着が風にひったくられそうな状況の中、みんなで動きを合わせていく。本番が近づいているので、ちょっぴりとメンバーたちに緊張の糸が見える。けれども、やっぱり1つのことをみんなで味わうというのは、学生みたいにホクホクした気持ちになる。

そうして、午前中の練習が終わった。午後も練習があるので、お昼休憩。ぼくはいそいそとコンビニで買ったおにぎりとパンを取り出す。

ぼくの近くにいた、女子の先輩はパン屋のビニール袋を取り出した。「パン買ってきたのかな?」と思ったけれども、中身は違かった。たくさんのおにぎりだ。

「ウチのお母さんさ、たくさん作ったんだよね〜。」

やれやれ、とでも言いたそうな雰囲気とともに先輩は袋を広げる。ぼくはファミマのおにぎりをもぐもぐしながら、先輩のおにぎりがちょっと気になる。お母さんのおにぎり、ね。

「誰か食べる人いないかな?◯◯さんなら食べるかな〜」

え、そんなに余ってるの?けれど、チームに入ったばかりのぼくは、まだメンバーと打ち解けきれてない。ぼくが手を挙げるのは、おこがましいかなぁ。でも、なぜか心がひっぱられる。うーん。声を、出してみよう。

「あの…ぼくも1つもらってもいいですか?」

先輩は少し驚いた顔をした。けれど、すぐに快くおにぎりを選ばせてくれた。鮭と昆布とたらこがある。たらこがいい。一番高そうだから申し訳ないんだけど、一番好き。我が家ではたらこが登場する確率なんて、トキワの森でピカチュウ出てくるくらいだったもん。

先輩からもらったおにぎりを、両手で受け取る。ファミマのよりも、ひと回り大きくて、まんまるい。なぜだか少し、くすぐったい気分。

そしてよく見ると、おにぎりの外側には醤油が塗られていた。不思議がっていると、先輩が口を開いた。

「ウチのおにぎりさ、塩の代わりに醤油使うんだよね。ずっと前からこうだから、コレが普通だと思ってたんだけど。」

はじめて見た…!なぜかちょっぴり嬉しくなってしまう。そんなおにぎりスタイルがあるのか。ひとんちの知られざるルールを発見すると、ちょっとした異文化交流をした気分になる。

笑みが溢れそうになるのを抑えて、おにぎりをパクリ。おいしい。お米がふっくらしてる。醤油も海苔と相性がいい。ひとんちのおにぎりってすごく美味しく感じる。いや、ウチのもおいしいんだけどね。なんでだろうね。

「お米の炊き具合が、絶妙ですね。」

と、よくわからん食レポをしてしまう。先輩もまんざらではなさそう、な気がする。

ひとんちのおにぎりを食べるのなんていつぶりだろうね。高校のとき、部活仲間の家に泊まったとき以来かな。なんだかウキウキする。勝手に仲良くなった気がする。

お昼休憩中、先輩と色んな話をした。先輩のお母さんはシングルマザーらしい。先輩が地元を離れて、就職を機に引っ越す時も、お母さんはついて来て、今は一緒に暮らしているとのこと。

先輩はお母さんのことを少し恥ずかしそうに話していた。けれど、ぼくは勝手にお母さんのストーリーに想像を膨らませてしまう。お母さんは先輩にたくさんの愛情を注いできたんだろうな。こんなおにぎり作ってくれる人だもん。

勝手な妄想は続く。もしかしたら、塩じゃなくて醤油だということも、先輩が子供のときは恥ずかしかったのかもしれない。ぼくだって、かつて自分のウチのおにぎりを恥ずかしいと思っていることがあった。

ウチのおにぎりは友達のよりもワンサイズ大きかった。みんなはもう少しこじんまりしているのに。お母さんが健康食にハマっているときは、十六穀米のおにぎりが登場しまくった。みんなは白米なのに。

けれど、今思えばそれは愛情だったのかもしれない。あの子は食べ盛りだから、大きくしてあげよう。いつも元気でいられるように、十六穀米にしよう。あの時は素直に受け取れなかったけど、優しさを握っていたのかもしれない。いや、十六穀米はやっぱりダイエットにハマってただけだな。親のエゴや。

突拍子もないけれど、ひとんちのおにぎりを食べるということは、間接的にその人が育った家庭を垣間見ることなのかもしれない。おにぎりに込められた愛情を、のぞき見できる。

言いすぎか。けれども、人とヒトの距離を近づける不思議な力が、おにぎりにはあると思う。仲良くなりたい人の、お母さんのおにぎりを食べよう。ほのぼのライフハック。


あなたのおウチのおにぎりは、どんなおにぎりでしたか?

やたらにデカかったり、あまり見ない具材が入ってたり、知らない味付けがされたりしてるかもしれない。

食べてみたいな。

そしたらもっと、仲良くなれる気がする。

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