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2020年に書いたもの

書くことを仕事にし始めた2018年から、年末に書いたものを振り返るようにしている。

今年は生まれて初めてフリーランスになった年だった。4月に開業したのだけど、世の中では新型コロナウイルス流行の真っ只中。仕事がほぼすべて止まってしまい、しかも開業のタイミングにより国からの支援も受けられず、えらいときに独立してしまったもんだな、と途方に暮れた。フリーランスの恐ろしさをひしひしと実感する始まりだった。

でも、この春は自分にとって大事なことを考えさせられる時間になった。
そもそも自分は何を仕事にしたいのか、何を仕事にできるのか。そんなことを、改めてじっくりと考えた。

それはつまり、「自分の好きなこと・やりたいこと」と、「社会が求めていること」の交わりがどこにあるのかを考えることだ。わたしの仕事で言うと、「自分が書きたいこと」と「読者の方が読みたいこと」の交わりを探すということ。必要とされたくてつい後者の方ばかり見てしまうが、0に戻ったこの機会に、自分始点で考え言語化してみようと思った。そもそもなぜわたしは文章を書いているのか。それを通して何がしたいのか。それを企画書に書きしたため、読んでもらい、仕事をひとつひとつ作っていった。

ずっと会社に属して誰かに守ってもらっていた自分が、ようやく自分の足で歩き出した2020年。痛い目を見た始まり方だったけれど、そこで得たものは大きいし、それらは今全部わたしの財産になっている。ある人に「あなたの職業は、経験したことを全部文章にしていけるから無駄がない」と言われたのだけど、それは本当にそうだ。でも、経験を財産にできるかどうかは、いつもわたし次第だから、しっかりと考え書き続けねばと思う。

というわけで、2020年の仕事を振り返ります。

短歌

【No Meets:『あかるい部屋』写真と短歌のひと月の記録】
昨年、長編小説『戦争と五人の女』を書き終え、今年は新しい小説に取り組んだ。タイトルは『あかるい部屋』という。そのプロローグとして、登場人物が書いた短歌(土門蘭)と撮った写真(吉田周平)をもとに、展示会を行うつもりだったのだが、コロナで見送りになってしまった。
ちょうど同時期、同じくコロナの影響により休刊になった『Meets Regional』の替わりに、有志が集まり開設された1か月限りのウェブマガジン『No Meets』からお声がけいただき、その短歌と写真をウェブ上で再編集して公開することに。
写真家の吉田周平さんとは、交換日記のように短歌と写真を交換した。今なかなかわたしの筆が動いていないが、少しずつ世界ができあがっていっているのを感じる。小説を書くというのはとても難しいけれど、ひとりでは見られない世界に行けるのはとても嬉しい。


【北欧、暮らしの道具店:57577の宝箱】
吉田周平さんとのタッグで、短歌とエッセイの新連載も始まった。コロナでイベントや旅行ができなくなって、非日常が体験しづらくなった今だからこそ、日常に目を向けて宝物を見出せないか。そんな想いで始めた連載。吉田周平さんの美しい写真が毎回楽しみ。こちらは毎週水曜更新。


エッセイ

【cakes:サクちゃん蘭ちゃんのそもそも交換日記】
もうひとつ始まった新連載は、桜林直子さん(サクちゃん)と一緒に書いている交換日記『そもそも交換日記』。そもそも友達って?自由って?みたいなことを話しながら、もう一度自分にとって大事なものを再定義する、ということをふたりでしている。毎週火曜更新。


【komorebi:わたしに読む交換日記】
こちらも交換日記というタイトル。komorebiさんからお声がけいただき、編集者・柳下恭平さんとの出会いを互いに書き合うという全3回のエッセイ。現在は第1回目まで公開。柳下さんの記事を読んで少し泣いてしまった。


【DRESS:私のドレス】
DRESSさんからお声がけいただき、自分にとっての「ドレス」について書いたエッセイ。これを機に、「おしゃれ」の定義が自分の中にやわらかく確立したように感じる。


【PHPスペシャル12月号:「孤独やさみしさから生まれるもの」】
昨年出版した『経営者の孤独。』を読んでくださった編集者さんにお声がけいただき、今考える「孤独」について書いた。それにあたり本を読み返していたのだけど、自分が聞いて書き、何度も繰り返し読んだはずなのに、経営者のみなさんの言葉がもう一度新しく染み透り、血肉となっていく感じがした。


【嵐電ウェブ:ひと駅ごとの小さな旅】
1年半の間、嵐電沿線におけるさまざまな駅をめぐった連載。これまで降りたことのなかった駅で降り、たくさんの場所を訪れた。タイトル通り「小さな旅」だったなと思う。予定通り、無事3月に最終回を迎えることができた。


【柳下さん死なないで】
4のつく日に編集者・柳下さんのことを書き続けたこの連載も、3月で最終回に。読んでいます、と言ってくださる方が多い連載だった。時には柳下さんのご友人の寄稿もしていただき、しかもそれがすべてすごくおもしろくて、読者としても楽しませていただいた連載だった。


【ランラン子育て帖】
こどもたちの成長とわたしの逡巡を書き綴る子育て日記。毎月1日と10日に更新。忙しくてなかなかこどもとじっくり向き合えないわたしだけど、この日記を通して考えたり見直したり愛おしんだりする機会をもらっている。


インタビュー

【マガザンキョウトウェブ:共同編集者インタビュー】
毎回、各特集の共同編集者にインタビューしている。おもしろい企画を通して、素敵な方々や考え方に出会えるのがとてもたのしい。

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「作品」でコミュニケーションをしている家族の話 | 家族特集 共同編集者インタビュー
https://magasinn.xyz/article/2020/01/06/family/


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勉強特集 共同編集者インタビュー | 「勉強とは、自ら強いて勉めることである」 新しく定義づける「勉強」のあり方
https://magasinn.xyz/article/2020/03/11/study/


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履物特集 共同編集者インタビュー | 美しい物に対する、「なんかいいな」という感覚を信じてみる
https://magasinn.xyz/article/2020/10/26/hakimono2/


【FICCさま:代表インタビュー、SHEさまとの対談】
昨年からスタッフのみなさんにインタビューをさせていただいてきたFICCさま。今年は代表の森さんのお話をうかがう機会が複数あり、森さんのビジョンや考え方からたくさんの学びをいただいた。SHEさんとのやりとりの中では、企業の枠を超えてビジョンをともにする豊かさを垣間見た。


【仮説マガジンPOP UP SOCIETY:「丸太足場と引き継がれる伝統技術」】
「仮設性」をテーマにしたマガジンのなかで、丸太足場を使って寺社仏閣の修繕を行う株式会社渕上の職人さんにインタビュー。江戸時代から続く伝統を、「仮設」という一過性の中で引き継いでいくおもしろさを教えていただいた。


【ジモコロ:「信じる」が失われる世界で見つけた、変わらない価値【コロナの渦中で考える】
コロナ禍の真っ只中、下北沢に発酵食品専門店「発酵デパートメント」をオープンした小倉ヒラクさん。大変なスタートを切りながらも、自らの仕事をまっとうしようとするヒラクさんに、「正解がわからない道を進む」方法についてお話をうかがった。ヒラクさんの言葉に、喝を入れられた気持ち。

【経営者の孤独:「孤独」に向かわない「弱い」経営者でありたい / Tagiru. 伊藤修司】
クラウドファンディング『連載「経営者の孤独」書籍化応援プロジェクト!』において、「限定2枠 土門蘭のインタビューを受ける権利」にご応募してくださった方が、ご友人である伊藤さんに起業のプレゼントとして贈られ、実施したインタビュー。伊藤さんが闘病の中で見つけた新しい「強さ」は、今の時代を生きる人びとにとっても、ひとつの指標になると思う。

【北欧、暮らしの道具店:でこぼこ道の常備薬】
でこぼこと起伏のある人生、つまずいてしまうときもあるけれど、そういうときに自分を支えたり癒したりしてくれる言葉や出会いといった、「常備薬」的存在についてうかがうインタビュー。お一人目の青木好能さんには、ご自分にとっての「友達」や「神様」について語っていただき、自分自身も救われる内容になった。来年からは連載に。


【京都精華大学さま:大学案内2021】
2021年度の大学案内の、巻頭部分の卒業生インタビュー記事と、一部の学部紹介、先生や在校生、卒業生の記事を担当。京都精華大学の「自由自治」の精神が、卒業後もずっと社会で根付き続けていることがわかる、とても楽しいインタビューだった。


【音読:「今できる形で、音楽の火を絶やさないでいたい」】
副編集長を務めるフリーペーパー「音読」で、一般社団法人を設立。コロナ禍で厳しい経済状況にある京都の音楽シーンを応援するために、募金窓口を開設した。3年ぶりとなる今号では、キセルのお二人に「コロナ禍の今、ライブハウスやクラブのために私たちができること」というテーマでインタビューを実施。今号に限りPDFで読むこともできるので、リンク先を訪れてみてください。


コピーライティング

【名古屋芸術大学さま:大学案内2021】
ロフトワークさんと何度もリサーチを繰り返しながら、2021年度のテーマとなるキャッチコピー、学びの特徴・各領域(学部)の紹介文などを書いた。大学のみなさんやチームのみなさんと、大学のビジョンや強みをひとつずつ言語化しながら、“MAKE JUST ONE 自分だけの「道」をつくる場所”というキャッチコピーにたどり着いた。


【つけものもりさま:秋冬カタログ】
京都でつけものを製造販売されているもりさんのカタログ。扉ページのコピーや、ぬか漬けの特設ページ、商品コピーの一部を担当。亀岡の自社農園にも取材で訪れ、つけものに対する想いをうかがった。これを機にもりさんのつけものの大ファンに。


【プリコグさま:THEATRE for ALLティザーサイト】
アクセシビリティに特化したオンライン劇場「THEATRE for ALL」のコピーライティングを担当。プロジェクトの核にある哲学や概念を、何度も対話を重ねながらひとつの言葉にしていった。来年度には本サイトもオープン予定。


インタビュー・ライティング講座

ウェブメディア・アンテナ編集部さんにて、インタビュー・ライティング講座を全3回に渡り実施。「教える」ということももっとやっていきたいと思っていたので、お声がけいただいてとてもありがたい。上記は編集部スタッフさんのレポート。教えることでいっぱい発見をもらった。来年はそれを自分でもきちんと言語化していきたい。


受けたインタビュー

【YOJO ZINE:「わたしは火星人。ひとりぼっちの幸福論」】
京都のお灸堂さんのメディアにて、「養生」をテーマにインタビューしていただいた。今考えている「書くことと生きる」ことについて語っている。普段インタビューする側なので、こうしてインタビューされる機会をいただけるのはとてもありがたい。自分はこんなことを考えているのだなと、知らなかった自分に出会えた気持ち。

まとめ

何度インタビューをしても、何度記事を書いても、毎回毎回、「どうやって書くんだっけ」と思う。「これまでどうやって書いてたんだっけ」が役に立たないから、いつも0から書き出す感じで、手探りで、ときどき書けなくなったりして。
すごく大変だけど、毎回「どうやって書くんだっけ」ってなってしまって、多分いいのだと思う。

2018年の記事の最後に、わたしはこのように書いていた。あの頃のわたしに言いたいのは「それでいいよ」ということだ。

今年ひとつわかったことがあるのだけど、わたしは誰かの代弁をしているのではないし、それができるとも思っていない。わたしはその人になれないし、その人の言葉はその人だけのものとして、大切にされねばならない。じゃあ自分は何をしているのかと言うと、「わたしが思うこと」をずっと書き続けているのだと思う。自分がどうこの人を、この会社を、このプロジェクトを、この時代を解釈しているか……代弁などできないからこそ、真摯に向き合い、考え、自分なりの言葉にする。わたしの書くものはいつだってそこからスタートしなくてはいけない。作品でもインタビューでもコピーライティングでも、そのスタート地点は変わらない。

だから「いつも0から書き出す感じ」になるのは当然なのだ。毎回「どうやって書くんだっけ」と悩むのは、世界とまっさらな気持ちで向き合っている証拠だから、それでいい。

そもそもなぜわたしは文章を書いているのか。
それを通して何がしたいのか。

わたしは文章を書くことで、つまり自分の目から見える世界を言葉にすることで、自分と世界を肯定したいのかもしれない。解釈するということは、自分と世界に真摯に向き合い、心を開くということだから。

そしてそれを読んでくださった方が、自分の目からは世界はどう見えているのだろうと思いを巡らせてくれたなら、こんなに嬉しいことはない。

来年もまた、文章を書き続けていけますように。


今年も本当にありがとうございました。
2021年も、どうぞよろしくお願いいたします。

(写真:岡安いつ美)

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