石を展示すると価値が生まれる

「この世にある全てのものには価値がある」

といっても、人は皆価値があると思ったものは、高値で買い、大切にし、
ないと判断したものは一銭も払わないし、見向きもしない。

ダイヤモンドは憧れて買い求め、道ばたに転がっている石は拾うことさえしない。

同じ石なのに……！！

この「価値」というものを決めているのは一体なんなのだろうか。

……人間だ！！

それを取り巻く人間が、価値を作っていっているのだ！！！

出口のない問いに一筋の光が見えた気がした。

ということは、私も一人の人間。何か物の価値を上げることが出来るんじゃないか？？？

よし！ただの石ころの価値を上げてみよう！！

私は何かに突き動かされるように外に出たのだった。

コンクリートジャングル東京。庭に石はあんまなかった。

しかも写真を撮ろうととしたら植木鉢を倒した。

人の家の庭から勝手にとってくるわけにもいかないので、職場で探すことにした。

ちょうどいい石を探して数分、砂利を敷き詰めてるらしき場所を発見した。
まるで砂漠のオアシスのように見えた。
小さい砂利の中にゴロゴロといい感じの石が吹き溜まっているのがなんともミステリアス。

ここから選ぶことにした。

いろんなタイプの小石をひろってみた。さっそく価値を上げてみよう。

きれいに洗って拭いただけで少し愛着がわいた。ちょっと価値が上がったか？

1、 値段を付けてみる

ちょっと商品っぽくなった。
これはだいぶ価値が上がったんじゃないか？
買う人がいるかは別だが……。

でもペーパーウェイトとかにありそう。

２、 証拠品の押収

つぎはお金で買えない感じの価値を上げてみよう。

何かの事件に使われた証拠品である。
石取締部がわざわざ部署としてあるくらいだから、石が使われた事件がものすごく多いと推測する。
この石がないと、事件は未解決に終わるかもしれない。

かなり価値が上がったのではないか。

３、 展示してみる

作品として展示してみよう。

おぉ！急にたたずまいが上品に！！
美術館の片隅に展示してあっても違和感がない。

それぞれ作品名を決め、キャプションをつけてみた。

題名「無題」
現代アートっぽい

題名「あるべき場所」
あるべき場所は本当はそこら辺の道ばた

題名「月の石」
何かのフンっぽい

題名「砂利」
この一つの石で砂利の全てを背負っている

題名「やきとり」
めちゃくちゃ焼き鳥に見える

道ばたに転がっていた無骨な面影はもはやない。

田舎から上京してきた大学生が、東京のいろに染まっていく感じ。
見間違うようだ。

でも草に寝ころぶ君もすきだった……、と今になって気づいたがもう遅い。
どんどん垢抜けていこう。

４、 歴史的価値を上げてみる

石は石でも、石器時代とか、縄文時代とかの古い石だったら価値がある気がする。
研究者が喉から手が出るほど欲しがるような、古くていい感じの石の雰囲気を手に入れよう。

まずは形から入ってみる。考古学者っぽい服を着て、地球儀の横に立ってみた。

ちょっと白衣を着ただけで、ちょっとすごい人っぽくなった気がする。
このように、身にまとうもの一つで価値はかんたんに揺らぐのだ。

そのつよいまなざしの先には未知なる大発見という野望を抱いている。

貴重な歴史資料は箱に入っているイメージがあるので、100円ショップで木箱を買ってきた。

まさしくな木箱があった

このままだと新しすぎて、古い価値が出ないので、色を塗って行こう。

茶色いニスを塗ります。

完成。

綿を入れて石を置いたらほんとの完成！！

貴重な歴史的資料をうやうやしく手にとってみる。

歴史の重みを感じます。

何万年前かの地球の生態のことがわかりそうな石。

貴重な石を手に取り、思わずマスクの下に笑みが広がる。

最大限に価値が上がったので、石をもとあった場所に戻しに行く。
せっかく価値が上がったのにもったいない！！と思う人もいるかもしれないし、いないかもしれないが、どうか止めないで欲しい。
キャッチ&リリース。石達には帰るべき場所がある。

たくさんのただの石に紛れて、私の価値ある石たちは見えなくなった。

ただの石ころだったけど、手放すと少し寂しい気持ちになった。
たった数日間手元にあっただけだけれど、私にとって、本当に少しだけ価値がある石だったのかもしれない。

おわり。