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餃子を増やす母と減らす娘

「おふくろ」なんて今どき聞かないけれど「おふくろの味」はありますか?「家庭の味」と言ったほうが時代的にしっくりきますかね。

私の家庭の味は餃子です。何せ、私の母は中国人だから。


日本の餃子と中国の餃子

日本人がよく食べる餃子と母が作る餃子はちょっと違います。

その違いは皮です。日本は薄皮で、母の場合は手作りで厚みがあってモチっとしています。

外食で餃子はあまり食べないのですが、一風堂に行った時ラーメンに餃子を付けてみました。そのときにおつまみっぽい少しジャンクな味がしたのは、薄い皮に油がしっかりとコーティングされて、全体がカラッと焼きあがるからではないかと思いました。

逆に手作りの皮は厚みがある分、薄皮で包む餃子よりもボリュームが出ます。セットに付くサイドメニューではなく、メイン料理の感覚。

なぜこのような違いがあるのか気になって調べてみると、餃子の皮に対して日本と中国で考え方の違いがあるとわかりました(出典:中国人が日本の回鍋肉や羽根つき餃子を見て衝撃を受ける理由)。

日本では具が主役だと思っている人のほうが多いと感じる(コンビニで売っているあんまんや肉まんの具が大事であるのと同じように)。

一方、中国ではどうだろうか。北京出身者を中心に複数の人に聞いてみたところ、「餃子の主役は断然、皮なんですよ」という答えが返ってきた。「中国では、店はもちろん、家庭でも餃子の皮は手作りします。皮のモチモチ感が命なので、皮は厚めにします。

餃子を食べるとき、皮(小麦粉)の味わいを重視するのが中国人。

なるほど、皮を重視するか餡(あん)を重視するかの差だったのか。

このように私にとって餃子は家庭の味であり、文化の違いを身近に感じる料理でもあります。

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追加餃子論争

料理が得意というわけではない母ですが、皮の生地を木の棒で均一な円形に伸ばしたり、皮をテキパキと包むスピード、その綺麗な仕上がりだけは店が出せそうな腕前です。

何十個も大量生産された餃子がキッチンに一面と並び、夕飯を食べるタイミングになると母がいつも私に尋ねます。

「何個食べる?」

なぜこう聞くかというと、大量生産された餃子をそのまま冷蔵庫に入れてもすぐには消費できないので、今日食べる分以外はすべて冷凍庫にGOするからです。

「6個かな」

高校生くらいになってから私はいつも少なめに答えています。少なめと言っても、先ほど言ったように薄皮の餃子よりも大きいですから、6個でも他のおかずと合わせれば腹八分目でちょうどいいです。

しかし、この返事は意味を成しません。

母は私が6個食べ終わったタイミングで「もっと食べる?」と聞いて、私の空いたお皿に餃子を数個ほど追加投入するのです。

母が作る餃子は美味しいです。なので、ここからは私の食欲との戦い。10代の頃は、誘惑に負けてパクパクと追加投入された餃子を食べてしまうわけです。そして食べ終わった後に太る...と後悔。女性はダイエットしなきゃという思考がデフォルトで備わっているので厄介です。

餃子を断るのはいつも自分の意思が試されるので、私は追加餃子をする母にイライラしていました。「6個食べるって言ったんだから、それ以上増やさないで!!」とよく怒っていた時期もあります。餃子のタネがケンカのタネになっていたわけです。

多めに餃子をスタンバイさせておく母と、それを察して「いらないからね」と釘を刺す私。どうにか餃子を追加したい母と、どうにか追加を阻止したい娘の争い...。この戦いに意味はあるのでしょうか。

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娘側の終戦

意味があるかはわかりませんが、この戦いを沈静化させる出来事がありました。ある日、大学の後輩がTwitterでこんなことをつぶやいていました。

母はいつも私がお腹空いてると思ってるから、ちょっとおもしろい。

その時、私は母がなぜ追加餃子をするのかわかったような気がしたのです。

学術的にどうなのかは知りませんが、親というのは子どもを飢えさせない(死なせない)ために、たくさんご飯を食べさせようとするのかもしれないと。

地方から東京に出てきた同級生から、実家に帰ると料理がたくさん出てくる、まるで養豚場だという話をよく聞いたことがあります。養豚場は言い過ぎだと思いますが、これも似たような心理だと思うのです。

そうか、母が餃子を多めに出そうとしたのは、親としての本能に近い愛情なのだと。

そう考えると、今までイライラしていた気持ちも自然になくなったのでした。

今では、母が出そうとする追加餃子をちょっと微笑ましい気持ちで眺めている。


文:ハギ
絵:あいかわ ゆみ@あどぶいらすとぶ

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