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雨のち雨の日記

朝いちばんで絶望した。

昨夜はいつもどおり、風呂後のバスタオルをいれて洗濯機をまわした。ここまではよかった。でもそのあと、子どもたちと布団の上でごろごろしているうちに私も夫も寝てしまったみたい。
ドラム式洗濯乾燥機のなかにはしょぼくれた洗濯物。あーあーあーーどーしよーどーしよーー。あの服もこのタオルも焼きたてパンみたいにほっかほかになるはずだったのに。いくら嘆いても、乾燥スイッチを押し忘れたのは自分自身...。ああ!もうっ!洗面所で絶望していると、5歳娘と3歳息子が起きだしてきた。

両面こんがり焼いた食パンにくるみバターを塗り、子どもたちに渡す。とりあえず私もなにか食べようと、昨夜のご飯を温めなおし昆布おにぎりをつくる。

「お母さん、もっと食べたい」

早々トーストを食べ終えた娘から足りないのコール。もう食パンはないから昆布のおにぎりでよい?と尋ねると、「やだ。シーチキン!」と娘。むむむ...ご飯もシーチキンもない。もっといえばグラノーラも牛乳もバナナも切らしている。
そう伝えると、娘はぷうっと頬をふくらませて「もういい!」とソファーでふて寝してしまった。

しばらくして、「お母さん、黒いズボンはどこ?」と娘。ごめんごめん、今日はまだ乾いていないんだ、ちがうズボン履こ?と促すと、やはりというか案の定というか、「なんで~~!」とむくれる。だよね、そうなるよね、5歳娘にとって、いちばん好きなお洋服を着られないことは一大事だ(彼女は毎年同じコーデで登園する)。
「お母さんと、一緒に服選ぼ?」と、3歳息子が盛大に散らかした昆布おにぎりを片付けながら、娘へ提案した。

そのうちに0歳も目を覚ましたので、ミルクを与える。まだぼんやりしてしる赤ちゃんは亀ペースでミルクを飲む。
するとまたしても娘がやってきて、責めるような口調で言った。

「お洋服、一緒に選ぶんじゃなかったっけ?」

うん、そうなんだけど、、この状況ではちょっと待ってしか言えないよ。
朝のリビングでは、いまだパジャマ姿の5歳が地団駄をふみ、オムツ一枚の3歳が飛びはね、テレビからは『おかあさんといっしょ』の歌が聞こえてくる。この番組が終わったら出発だというのに、誰ひとり着替えすら終わっていない。窓に打ちつける大粒の雨が憎らしい。

娘が、朝から不機嫌な理由は分かっている。

・・・

1年ぶりに実家へいくことにした。

本当は秋が深まるまえに家族全員で帰省したかったけれど、どうにも都合がつかず三連休をいくつか見送ったあと、赤ちゃんと二人でいくことに決めた。急いで新幹線の往復チケットを予約し、その翌週─それはこの日なんだけれど─上の子ふたりを保育園に送ったあとそのまま東京駅へむかうことにした。たった一泊の弾丸旅行だ。

子どもたちに帰省を伝えたのは前日の昨日のこと。以来、娘はずっと不機嫌だ。

「お母さんだけズルい」

洗面所で身支度する私のもとで娘が主張する。ごめんと胸がきゅうとなる。祖父と祖母に会いたいのは娘も同じだろう。おいていかれるのはイヤだろう。
ごうごうと背後で乾燥機が唸り、窓にうちつける雨はさっきより強くなる。

「お母さんはいつもズルい!」

娘がつづける。なんだよ、いつもって、、と反論しそうになる気持ちをぐっとおさえる。今日は、今日くらいは皆ご機嫌で家を出たいから。

「娘ちゃん、あれだ、手紙書こう。ママがおばあちゃんに持っていくよ」

振りしぼって提案すると、娘は一瞬キョトン顔したあと真面目な顔で切り出した。

「今、ひらがな書く気分じゃない」

そっか。そうだよね。残念な気持ちと折り合いをつけることはむずかしいよね。すると娘は神妙な顔つきでことばをつづけた

「......だから絵でもいいかなぁ」

・・・

ずぶ濡れで登園して、3歳息子の服を着替えさせる。さらさらTシャツの息子を抱きしめようとするとキャハハとすり抜け、お友達のところへむかった。

次は年中クラス。5歳娘とハイタッチで別れる。私はもっとハグとかしたいのに、やはり彼女もあっさりオモチャのもとへ。

一旦帰宅し、部屋の原状回復と帰省の荷造りをやっつける。最後に、娘の絵もキャリーケースに忍ばせる。

ふとみると娘が笑顔で描いたジジババも笑顔。思わず私も顔がゆるむ。

さ、出発だ。雨とともに北上しよう。

私の朝の絶望にも、なんとか折り合いがついたみたい。

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