見出し画像

子どもの晩ごはんは「コース料理」

うちの晩ごはんはコース料理だ。

……って書くと語弊があるかもしれないけれど、ここ数か月の晩ごはんは「コース料理」という表現がしっくりくる。


夕方5時、保育園から5歳3歳をピックアップして帰路につく。まっ暗な冬空のした、遊びたい、コンビニ寄りたい、金魚みたい、なんできょうはお月さまでてないのーー、とさわぐ子どもたちをなんとか家に押し込め、玄関の鍵をかける。全員が何事もなく帰宅できたことにホッとひと息ついたのも束の間。

「なにかたべるもの、ちょうだぁい」

かわいい言葉遣いの3歳息子が私のもとへとやっきた。わかったわかった、おてて洗ってからね、と洗面所へつれていく。

すると今度は5歳長女。

「手洗ったから、なにかお菓子くださぁい」

うちには、ポップキャンディーとかカプリコミニとかぱりんこなどをランダムにいれたお菓子ボックスがあり、それは冷蔵庫の上段、子どもの手が届かないところに置いている。5歳の要求は「お菓子ボックスから好きなものを選ばせろ」というもの。

「はい、ひとつだよ」

晩ごはんの前だから……と念押ししながらお菓子ボックスを渡すと、娘はひとつひとつ手にとりじっくり選びはじめた。手を洗いおえた3歳も、「お・か・し!」と駆け寄ってくる。

好きなお菓子をめいめい手にしたふたりは、テレビをみながらおやつタイム。ひとりで包装をあけられない 3歳は、「あーけーてっ!」と2歳年上の姉に頼んでいる。

うんうん、姉弟はふたりの世界でいい感じ。いまのうちに末っ子0歳のミルクと離乳食をあげてしまおう……。

キッチンで準備をしていると、いつの間にかカウンター越しに3歳がひょいと顔をのぞかせている。どうやらお菓子は早々に食べおえてしまったみたい。

「もういっこ、ちょーーーだいっ!」

たどたどしく、でも、強固に主張を通そうする。ひとつといったじゃないか、コノヤロ。

しかたがないのでバナナを半分わたす。残り半分は5歳にも渡すように頼む。ふたりはなんでも同じじゃないと後からもめるので。

さあ、バナナで黙っているあいだに末っ子のミルクにしよう。バウンサーに座らせた0歳がおおきく体をひねってこちらを見ているぞ。

「おなかすいたぁ」

……!?

「おなか、すぅいぃぃたぁぁ!」

「ふんぎゃぁぁぁあーーー!!」

一瞬でバナナを完食してしまった3歳と、手足をばたつかせている0歳の、熱いコールが部屋じゅうに響きわたった。

・・・

ところで、わが家の晩ごはんは6時45分と決めている。会社定時で夫が帰宅すると、だいたいこの時間に全員そろうからだ。

「おとうさんね、もうすぐ帰ってくるからね。晩ごはん、ちょっとだけまてる……かなぁ?」

そんな私の要求はまあ通らない。時計の針はもうすぐ6時。子どもたちは、あと5分も待てないだろう。

よーい、どん!

なし崩し的に今日もわが家の晩ごはんがスタートした。


まずは前菜。冷凍食品のアンパンマンポテトとブロッコリーを解凍し、ほい!とふたりの前にだす。

元アンパンマン信者の3歳がわぁいと声をあげる。お姉さんになった5歳は「わたし、野菜だいすきなの」とブロッコリーを頬張った。もしかしたら無理をして食べているかもしれないけれど、あれほど野菜を口にしてこなかった長女の口から、「野菜だいすき」が飛び出すなんて…涙腺がゆるんでしまう……。


でも、感傷に浸っているヒマはない。次はスープ。日中につくり置いた味噌汁を温めなおす。鍋の火をとめお椀によそう。ちょっと熱くなりすぎたので、冷凍庫から氷をひとつとりだしお椀にぽちゃん。はい、どうぞ。

実のところ、味噌汁はあまり食べない子どもたちだけど、せめてスープだけ、スープだけでも飲んでほしい。野菜のうまみと栄養が溶けているはずなので。


そうこうしているうちにご飯も炊けたようだ。6時にセットした予約タイマーがピィィと鳴っている。ちいさいお椀にご飯を盛り、ゆかりのふりかけをぱらぱらかける。さっと食卓へだすとゆかりラバーな息子がすかさず手をのばした。

おっと、少食の娘の手がとまっている。おにぎりにする?と聞くと娘はちいさく頷いた。お茶碗からラップにご飯をうつし、ぎゅっと丸く握る。小さなおにぎりを娘に手渡し、私はまたキッチンへ。


スマホが、ブブブッと軽く振動した。夫からのメッセージだ。

「6時38分着の電車で帰っているよ」

それはいつもの予測変換な定型文。けれども、もうすぐ帰ってくる夫の存在におおきな安堵をおぼえる。

ちなみに超余談だけどこの帰宅メッセージ。「いま帰っているよ」と送ってくる夫に、「『帰っている』という情報はいらない、『何時に家に着くか』だけ教えて」と伝えた経緯がある。以来、そんな私の言葉を律義に守ってくれる夫は最高のパートナーだと思う。


そして最後はメインディッシュ。近所のお惣菜屋さんのコロッケ(超おいしい)だ。レンジで温め、食べやすい大きさにきり、ソースをたらり。

はい、本日の料理はこれでおしまい。

・・・

うちの晩ごはんはコース料理だ。そして私は、コース料理をだすレストランのコック兼ウエイター。

ああ、いつの日か定食屋さんの女将になれる日はくるのだろうか。全員そろって、晩ごはん定食で食卓を囲めるときはまだ先か。

そんなことを考えながら、「はい、おまち!」と威勢よくコロッケを子どもの前に出す。せめてかけ声だけでも女将さんに寄せてみようと思ったのだ。


さ、0歳のミルクミルク(忘れていた……)。

お読みいただきありがとうございます。 「いいな」「面白かった」で、♡マークを押してもらえるとうれしいです。