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ポスト安倍の猿山 - 森喜朗・麻生太郎・菅義偉が相互牽制しつつ岸田文雄を操る

組閣前日の9日、「この組閣、失敗するかもしれない」とツイートした。組閣翌日の11日、読売の世論調査が出て、支持率が6ポイント下がり、参院選直後から1か月で14ポイントも下落する事態となった。この数字を受けて、12日に夕刊フジが「岸田内閣、改造失敗か」という見出しを打って批判的な記事を書いた。右派系の夕刊フジが、歯に衣を着せず自民党政権をこき下ろすのは珍しい。現在はそこから1週間経った時点で、統一教会問題がどんどん延焼して火が燃え盛っている状況にある。(上の写真は朝日新聞

誰もが、14日から15日に発表されるマスコミ各社の世論調査を固唾をのんで見守っている。厳しい結果が出るのは間違いない。統一教会問題に加えてコロナ禍もきわめて深刻な惨状にあり、遂に、新規感染者数だけでなく1日当りの死者数まで世界最多を記録した(worldometers)。凄絶な医療崩壊の現実に直面しながら、政府が盆休みに行動規制をかけずレッセフェール政策を続けているため、感染の勢いは止まるところがない。入院治療を拒絶された庶民高齢者が、昨年同様、次々と自宅療養中死亡で命を落としている。

今回の組閣は、9月の予定を前倒しした政治だった。前倒しした理由は、何もせずに前内閣のまま動いていたら、二之湯智や山本朋弘がマスコミから集中砲火を浴び続け、支持率に悪影響が出て、安倍国葬まで危うくなると情勢を判断したからである。先手を打って組閣を前倒しし、統一教会問題の火消しを図るべく人心一新の策に出た。組閣を打ち上げたのが8月5日、発表が10日という手早さで、途中で横槍が入らないようにする短期の人事決定だった。傍から見て、戦略としてはその政治行動は合理的であるように見えた。

だが、蓋を空ければ閣僚の統一教会関係者は8人で、前内閣より多く、副大臣・政務官54人のうち4割の23人が統一教会と接点を持っていたという、恐るべき統一教会一家の新内閣が出来上がってしまっている。統一教会問題の払拭や火消しには到底ならない、逆効果でしかない、滑稽で茶番きわまる改造人事の幕となった。先週は下村博文が槍玉に上げられ、今週は萩生田光一が叩かれている。ミヤネ屋だけでなく他局も統一教会問題を取り上げる展開になった。それにしても、岸田文雄は何でこんな自滅の改造人事を行ったのだろう。

振り返って少し注目したいのは、改造前倒しを表明した前後、菅義偉を副総理に据えるという情報がマスコミに何度も登場した件である。7月下旬から記事が並び、8月2日、3日にも出ている。いわゆるマスコミ辞令の類であり、政権中枢が観測気球を上げ、既成事実化の環境を固めていたものと推測される。私は、麻生太郎がこれを書かせたと睨んでいたし、現在もその見方を変えていない。改造人事は、安倍晋三という中心的な柱を失った後の自民党政権の態勢をどう形作るかの重要な政治機会だった。このとき一瞬覗えたのは、麻生太郎・菅義偉・岸田文雄という三頭立てのトロイカ体制である。

岸田文雄もその案に乗り、ポスト安倍の自民党の新権力体制をその布陣で安定化させようと目論んだのではないかと、そう推理した。だが、途中でそれが挫折し、菅義偉は副総理での入閣を断る進行となる。組閣工程が佳境に入った8日の出来事だった。ここで、想定していた重要な新骨格の一角が崩れてしまった。理由は不明だが、おそらく、菅義偉の統一教会との関係の前歴が原因ではないか。統一教会と政治家とのズブズブの経緯は、時間が経つほどに前科が掘り出されて暴露される。猛毒の反共右翼の菅義偉のことだから、萩生田光一以上に長く深く濃い統一教会との癒着関係があっておかしくない。

それと、もう一つの可能性は、菅義偉が権力中枢に居座る構造になると、安倍派の解体が加速されるという懸念が安倍派内に生まれる点だ。このトロイカで権力体制を組まれると、現在の安倍派が党内少数派に追い込まれ、力を失い、トロイカ三派による草刈り場と化してしまう不安が生じる。実は、それは、麻生太郎と菅義偉の魂胆でもあり、現在の安倍派を空中分解させて弱体化を図ろうと麻生太郎は謀計しているし、菅義偉は、小泉進次郎の下に安倍派の数を糾合させる派閥構想を持っている。そうした腹黒い思惑がドロドロと交錯し、トロイカ構築のイメージが浮上していたのが7月下旬の頃だった。

その潮流に割り込んで阻止と圧力をかけたのが85歳の森喜朗で、19日に出た週刊女性の記事は、この陳腐な組閣政治の内幕の解説として分かりやすい。思えば、内定されていた甘利明の追悼演説を潰したのも、影で暗躍したのは森喜朗だったのだろう。私は、烏合の衆と化した安倍派が、よく団結して甘利明を排除できたなと「感心」していたが、森喜朗という補助線を引くと、なるほどと権力の裏の動態が了解できる。森喜朗こそが安倍派の真の領袖なのだ。最大派閥を束ね纏めているのであり、派の意思を代表している。結局、森喜朗の意向が最もよく通り、森喜朗の描いた形で人事が組み上がった。

今回の人事が何とも不快に古色蒼然としていて、安倍晋三や菅義偉の内閣とそっくりになり、岸田カラーが完全に脱色されきっているのも、森喜朗の意思が第一に、麻生太郎の意思が第二に作用しているからだと分析できる。また、麻生太郎が、8日に田崎史郎の口を使って「オレは(組閣前倒しを)聞いてない」と言わせているのも、組閣が自分の思いどおりにならない不具合の愚痴に違いない。岸田政権の後見役たる副総裁が、改造人事について相談を受けてないはずがない。が、結果を見れば、明らかに森喜朗の影響力が第一で、麻生太郎は二番手なのである。政治は数であり、最大派閥の方が強い。

岸田文雄には政治の実権がなく、それ以上に意思がないことが、今回の改造政局を通じてよく認識できた。実力者の顔色を窺い、エゴ丸出しの老醜の指示をハイハイ聞いているだけだ。だから改造に失敗した。①統一教会の名称変更について「政治家から文化庁に問い合わせがあったか現時点で確認されていない」と答弁書を閣議決定したり、②「統一教会と閣僚ら政務三役の関係について、個人の政治活動なので調査を行う必要はない」とする答弁書を閣議決定したり、③統一教会問題で臨時国会の召集に応じないと拒絶したり、この態度は安倍・菅政権の手法そのものだ。麻生太郎が操っている真相が透けて見える。

こうした非民主的で傲岸な対応は、岸田文雄が首相に変われば少しは改善されるものと微かな期待があった。脱安倍の宏池会モードが政権運営の中で滲み出る曙光が望まれていた。それだけに、上の三つの政治決定には脱力させられる。国民の声を「聞く力」が全くなく、麻生太郎や菅義偉の指図だけで動いていて、卑しい保身と反動に走る姿に落胆させられる。と同時に、こんな醜態を演じていて、政権の支持率や求心力を維持できるのかとも思う。岸田文雄にはリーダーシップがなくカリスマ性がない。安倍晋三のように右翼を活性化して結集させる力がない。

加えて、岸田文雄にはアベノミクスのような、一般民衆を騙して幻想を抱かせる魔術の持ち合わせもない。安倍晋三の政権が長持ちした要因は、単に右翼勢力を統率できたからだけでなく、ノンポリ市民を誑(たぶら)かして利益で釣る奸策を心得ていたからだ。3本の矢でGDPを600兆円に拡大するとか、1人当り国民所得を10年後に150万円増やすとか、嘘八百の大風呂敷を広げ、マスコミに宣伝させて刷り込む大衆操作に成功していたからである。小泉純一郎の「構造改革」と同じく、経済政策のペテンとトリックで支持を確保していた。岸田文雄にはその看板要素がない。唯一の売りは「聞く力」だけ。

もう一つ、今回の政治で無視できない問題があるので指摘したい。自民党の組織秩序が乱れている点だ。準学級崩壊が発生している。まず、萩生田光一が経産相から政調会長への異動に文句を垂れ、「オレは骨格じゃないのか」と公然と造反姿勢を見せた。続いて、河野太郎が官邸の指示に背いて改造当日の会見をボイコットした。さらに高市早苗が入閣に不満を漏らし、予定の引継ぎ式と挨拶式を欠席した。こういうタガが緩んだ生臭い不全状態は、安倍レジームの時代は見た記憶がない。岸田文雄に指導力がなく、閣僚たちが統制に服さず、ガバナンスの不安定が露顕してしまっている。最初からこんな内紛含みで出発する内閣は初めてだ。

3人とも、意図的にこの政治を行っていて、安倍レジームが終わった後の無秩序化した党内権力状況を演出している。岸田文雄のヘゲモニーは認めないぞという軽薄な示威行動であり、猿山の群れの小物が自己主張する幼稚なマウント合戦が連発した図だ。無論、この小猿どもは、長年支配していたボス猿が忽然と消えた後、猿山に本格的な後継者がいない事実を知り、老醜の何匹か(森喜朗・麻生太郎・菅義偉)の集団指導体制に移った環境を承知しているのだ。要するに、恐いものなしの自由空間が現れているのであり、好き放題に跳ね上がりができるのである。バカ猿どもが、秩序の崩壊を嬉々として愉しんでいる。

コロナ禍や物価高による国民の生活苦をよそに、彼らがかかる放縦と無規律を平然とできるのは、野党に力がなく無能だからだ。自民党が臨時国会を開かないと門前払いしてきたのなら、なぜ、返す刀で、野党党首会談を開催してマスコミに撮らせないのだろう。逆襲のモメンタムを作る工夫をしないのだろう。今回は国民民主も足並みを揃えている。ならば一歩進めて、維新と公明を切り崩す説得工作に出てよいではないか。村上誠一郎が安倍晋三の国葬に反対という好材料もある。国民は統一教会問題の徹底解明を求め、政治の統一教会との断絶を強く求めている。それは国民の総意だ。これ以上ない順風なのに野党に積極策がない。

いつもそうだが時間を無駄にしている。チャンスに全力で攻勢をかけない。国民の期待に応えられない。知恵がなく鋭意がない。野党に緊張感がないから、自民党に危機感が生じない。


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