見出し画像

贅沢な蕎麦の食べ方

 江戸っ子に言わせると、ソバの食べ方にはいくつか作法があるらしい。 

 そのひとつにこんなものがある。 

 「ソバは寿司と同じく嗜好品であり、空腹を満たすものではない。せいろを何枚も重ねて得意がるなど無粋の極みである。」中島らも『啓蒙かまぼこ新聞』より 

 だとよ、わんこそば愛好家の人たち。 

 補足すると、著者の中島らもさんは生粋の関西人で、このルールは江戸っ子から聞いたもの。それを東北育ちの私が二次引用してるわけで、少しごちゃつくが、とにかくこういう暗黙の了解が存在する。 

 なるほど寿司も腹いっぱいになるほど食べたことはないが、そういえばソバも腹いっぱい食べたことがない。せいろそばの外食となると案外いい値段するが、たいてい腹六分目くらいに終わる。こうなると試しに、ソバを腹いっぱいに平らげてみたくなる。私は野暮な人間である。

 スーパーに着くなり、一目散に乾麺コーナーへ。お手頃なものも結構ある。戸隠の400グラム200円のものを買った。結局、ソバは安いのか高いのかよく分からない。 

 昨晩は、それを300グラムほど茹でて、ざるにして食べた。ソバはざる、うどんはかけが美味しい、と思う。「ソバは嗜好品だ」という先入観を一個いれておくだけで、より美味しく感じられる気がする。

 しかし、こんな嗜好品を腹いっぱい食べるのはなんと贅沢なことだろう。なんたって、あの「寿司」に並ぶ嗜好品である。いい夕食だった。

 安いソバでも(どうにか言い聞かせれば)ありがたく食べられる。だから、読書はするものである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?