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奇貨 は If Was Your Girlfriend の小説版だッ

松浦理英子さんの「プリンス FOREVER IN MY LIFE」の書評を読み、

彼女のプリンスへの慈愛をしんみりと感じた翌日、図書館、日本文学、「ま」行へ直行。 
久しぶりに松浦さんの小説を読みたくなり、そこにあった「奇貨」なる本を手に取りました。

プリンス、音楽記者との友情 松浦理英子


(買ったんじゃねーのかよ) 
(すいません、市民税をしっかりと収めたら生活に余裕がなくて…。図書館本当にありがたや…) 

 「久しぶりに」と箔をつけたくていいましたが、実際は20年くらい前に「親指Pの修業時代」と「ナチュラル・ウーマン」を読んだだけです。

 ぼやぁっと、

このひとの作品は、今でいう「ジェンダー」を扱ったもので、

男性特有のものを持つ女性とか、反対に女性特有のものを持つ男性とか、中性的な存在の人とかが登場して、ちょっと生きにくそうではあるけど自分にも少なからずそういう部分はあるなぁ、と共感しながら読んだ記憶です。
「親指P」に関しては、(ずっと読み返していないのでほとんど忘れていますが)ある日足の親指が男性特有のモノ「P」になってしまった女性が主人公の話で、ストーリーがシンプルにおもしろかったこと、登場する少年がとても魅力的だけどフワフワしていて独占したくでもできない苦しさを感じた…という印象が残っています。


意味不明の「奇貨」という書名

(意味は後でググりました)、特にジェンダーのかほりはしてこない表紙デザイン。
 しかし私はおみくじを引く感覚で中をチラ見することもなく、手に取りそのまま借りてきました。

扉をひらくと目次。 

  奇貨   5 (ページ)
 変態月  99 (ページ)

 ははは、変態…月。
 勝手に、なんか松浦さんぽいなと思いながら、奇貨の方を読み始めました。

 

最初の1ページ、「齢(よわい)四十五」

という主人公に年が近い!とワクワクしつつ、昔嫌いだったヤツへの容赦ない憎しみの描写。
でも、そいつの死亡記事を目にして「死ね」と思った、ってのに思わず笑いました。
笑える悪口って読んでて楽しいです。 

 

大嫌いなひとの不幸をきっちり願える女の人ってわりといませんか、

普段は控えめで声も小さくてニコニコしてて。
そういう彼女たちが嫌いな人を語るとき、私はちょっとびっくりするけど、そのまっとうな気持ちが輝いて見えます(笑)。 

 

この主人公もそういうタイプの女の人なのかなぁ、

と思っていたら数ページ目、なんと男性であることがわかります。

早くもやられました…!(よろこび)


ネタバレなしであらすじ紹介すると、 


この男性、本田さん(45)、独身の小説家で、恋愛感情っていうものがよくわからず、同性愛を疑われるけど性的対象も恋愛対象も女性。
男たちでつるむのが苦手で、どちらかというと女友だちと話す方が楽。
だけど周りは結婚等で疎遠になり今はひとり。 

そんなときに、昔の職場で知り合った10歳下の七島さん(35:レズビアン)が失恋したのをきっかけに一緒に住むようになる。 
気は合うけど恋愛感情はなし…という純粋に友情で結ばれたような関係だったはずが、七島さんに新しい女友だちができたり失恋相手との再会があったりして、疎外感を感じ始める本田さん。
部屋で楽しそうに電話をする七島さんのことが気になって、盗聴器をしかけてしまい……


男性でも女性でも、わかる人にはわかる

、わからん人にはわからん感情と思います。 

  • 「好きな人を独占したい」

  • 「好きな人の一番でありたい」

  • 「自分が好きなくらい相手も自分を好きでいてほしい」

 

…この感じ、めっちゃプリンスぽくないですか? 


そして、この感情、恋愛対象だけでなく、仲の良い人という意味での「好きな人」にも当てはまる感情ではないでしょうか。 

 例えば、新しいクラスで、話してみたらすごく気が合って一緒にいて楽しい人と友だちになったけど、その人には部活仲間がいるとか、前のクラスの友だちと続いてるとか。

 

なんかちょっとジェラシっ子パークになっちゃう感じ

(なんそれ)。
 これって女性特有なのでしょうか? 

 

本田さんは、男性ですがこのジェラシっ子を発病してしまうんです。

そして26ページで、プリンスファンの私の脈拍が急上昇します。 


  さらにうっかり「おれ、レズビアンになれたら精神的にも肉体的にも深く満足できるのに」と七島の前で口走り、そんな甘いものではないと怒られた。(中略)だから甘い了見は棄てるとして、現在の私が抱くせめてもの願いは、プリンスが”If I Was Your Girlfriend" という曲で歌っているように、女友達と女同士のように仲よく遊んだり世話をし合ったりすることである。プリンスの曲は恋人である女に向かって女同士のような穏やかな親密さがほしいと言っているのだろうけれど、私は女友達とも恋人とも女同士のようにつき合いたい。口に出せば女たちに「気持ち悪い」と言われそうだが。

新潮社 松浦理英子「奇貨」

もうこのパートを読んで以降、

私の中でこの本の海外版タイトルが決まりました(笑)。


「If I Was Your Girlfriend」 


※曲を知らない方や歌詞を改めて見直したい方は、良かったら下記動画を参考にしてください。手前味噌で恐縮です……


 男性が、好きな女性に対して抱く

「もし僕がきみの女友達だったら」

の感情。 

 ”もし僕がきみの女友達だったら 
きみが着替えるの手伝ってもいい? 
出かける前の服を選ぶのとか 
きみができない人だってことじゃくて 
好きだとそういう気持ちになってしまうでしょう? 

 もし僕がきみの唯一の友だちだったら 
誰かがきみを傷つけたときは
僕のところへ駆け込んできてくれる?
その誰かが、僕だったとしても”

      Prince / If I Was Your Girlfriend (和訳:よねリーナ) 

 ここまで書いてきて、やっぱり本田さんは七島さんに対して恋愛感情の「好き」があったんじゃないかと思えてきました。

「好き」ってなんだろう
「恋」ってなんだろう
「愛」ってなんだろう 

 2024年のわたし的には、そんな言葉の定義はどーでもいいんじゃないか?きっと本田さん本人でさえわからないよ。
友情交じりの恋愛感情があったり、性的欲求の生じない恋や愛もあるだろうし。

大切と思える相手がいるってことが素晴らしいじゃないか、と思います。



「If I Was Your Girlfriend」を現代日本の設定で書き起こしたようなお話。

曲と同じように読後は少し胸が苦しくなりますが、
プリンスファンの方には ぜ ひ お 読 み い た だ き た い 作 品 で す !
 

(100ページもないから1日あれば読めるよ(^^))

最後まで読んでくださり、ありがとうございました☺️

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