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友沢こたお:時間無制限感情デスマッチ1本勝負 たゆたう魂のエクトプラズム

限りなく液体に近い、とろとろでヌメヌメした質感のスライムを、まるで写真のように、生々しく描写する現役藝大生アーティスト、友沢こたお。リアルでありながらシュールさも兼ね備えた画風と作品はメディアで紹介されることもしばしばなので、ご存知の方も多いかもしれない。
そんな友沢こたおに失礼ながら勝手に抱いていたイメージがある。それは物静かで他を寄せ付けない、圧倒的なオーラを持つ孤高の人だったり。アンドロイドのように表情を変えず、淡々と作品を描き続けるような天才肌だったり。漫画で例えるなら、主人公の前に立ちはだかる冷徹無比で強大な壁のような、ライバル的存在である。
ネタバレしてしまうと、実際会ってみてそのイメージはひっくり返った。友沢こたおは好奇心に忠実で、好きなものを語る時は饒舌かつ早口。感情表現も豊かだ。無邪気にはしゃいだかと思えば将来を憂い、表情を曇らせる。聞けば、普通に未来に不安を抱えているという。
そんな友沢こたおから生み出される、色も形もシチュエーションも違うさまざまなスライム。その存在はどこから出現するのか。源泉を探るインタビューを試みた。

「香りがするんですよ。割れた蛍光灯の匂いとか、血の香り」

ーさっそくですがこたおさんはプロレスが好きとのことをお聞きしました。どんなところが好きなんですか?
米原康正(以下:米):しかも男子のプロレスに限るんだよね。
友沢こたお(以下:こたお):マッチョな男の人が痛そうにしている顔がたまらないんですよ。私が好きなのは“デスマッチ”というジャンルです。
ーなるほど。大仁田厚さんに代表される凶器アリ、反則ナシの特殊ルールで行われるプロレスですね。
こたお:今なお進化し続けていて面白いんですよ。
ーデスマッチのカリスマレスラーの葛西純さんは最近、映画化(映画『狂猿』)されましたよね。
こたお:松永光弘さんという方がいて、リングにワニを連れてきたり火を付けて燃やしたり。のちに葛西純さんというカリスマが生まれ、葛西さんの意思を継いでいる人や憧れる人が今のデスマッチを盛り上げているんです。今はリングに蛍光灯を付けてパンパン割りながら試合してますね。画鋲撒いて裸足で踏み抜いたり。刺さって身体がキラキラしてますからね(笑)。
ー自分の体にスタッズ打っちゃうみたいな(笑)。こたおさんが饒舌に語り、熱狂するデスマッチ。ハマるきっかけはなんだったんですか?
こたお:もともとは普通のプロレスが好きだったんです。デスマッチを映像で観ることはあったんですが、「何やってんだ?頭おかしいんか?」って思って引いちゃっていたくらい。でも、試合を生で観る機会をがたまたまあって、会場に行ったら言葉で説明できないくらい身体の芯から興奮しちゃいました。なんかね、香りがするんですよ。割れた蛍光灯の匂いとか血の香りとか。視覚だけじゃなく嗅覚から感じる生身の肉体のドラマが目の前で繰り広げられていて、強烈に惹き込まれましたね。この刺激を知ってしまったら、普通のプロレスに戻れない。中学生の頃からはずっとデスマッチが好きです。
ーよりリアルな質感と匂いに引き込まれたんですね。こたおさんの推しはいるんですか?
こたお:一番推しは竹田 誠志(たけだまさし)さんという方です。
ープロレスから作品のインスピレーションを受けることはありますか?
こたお:そうですね、自分の作品の基準も生身の皮膚感というか、身体で感じる感覚なんです。中学生の頃から追い求めたデスマッチの質感ですよね。汗と血でドロドロになって、固まって顔が真っ黒にして戦っている姿からインスピレーションを受けているというか、「画に通じているんじゃない?」って人から言われたりします。
ー生で観てこそというと、こたおさんの作品もまさにそうですよね。スライムで顔が覆われた作品で知られていますけど、あれは自分で実際に顔に被って、その写真を撮って絵として再現しているとお聞きしました。
こたお:かぶるというシンプルな行為ですけど、一番近くに感じるんですよね。私は、世の中をまやかしの世界だと感じてしまうことが多くて。その中で、スライムを被って目や鼻に入ってきて息ができなくなるような感覚は、間違いなく生きていることを実感させてくれるリアルでピュアな感覚だと思っています。これだけはまやかしじゃないと思える。

ノイズの巨匠と漫画家の母、藝大への道を支えた恩師

米:最初にかぶったのはいつ?
こたお:アンディ・ボリスっていう私のベビーシッターさんでアーティストがいるんです。ママの親友で、彼はノイズ・ミュージシャン”evil moisture”としても活動していて私の脳内師匠なんです。飛行機に乗る際、荷物が大変ということで色々、お土産だったり私物を置いていくんですけど、その中に黒いスライムがあって、被ったのが最初。気づいたら被っていました。辛い時期というのもあったと思います。
ーアンディ・ボリスさんからどんな影響を受けましたか?
こたお:人類で一番かっこいいんじゃないかってくらいアート作品も音楽もカッコいいのでたくさん影響を受けていますが、分かりやすいのは人形ですね。私の作品も人形が多く登場しますが、アンディも人形を切ったり、くっつけたりして作品を創作しています。
ーアンディさんとの二人展もやっていましたね。
こたお:「ガングロ牧場」という、アンディとの二人展が私の最初の作品展でした。アンディはノイズ界隈では知られたアーティストなんで、アンディに育てられたというと、結構驚かれます。
米:スライムをかぶってから、作品にしようと思ったのは?
こたお:それはかぶってから結構先の話なんです。その時は大学にもう入ってからです。
ーこたおさんは藝大生でもあるわけですが、こたおさんがアートの道を進もうと決めたのはいつなんですか?
こたお:母親が漫画家(友沢ミミヨ)なので、絵を描くことは私生活でも当たり前だったんです。小さいころから絵が身近にあったので絵に関わることはしたいなと思っていました。
米:藝大に行こうと決めたのは?
こたお:高校は美術高校だったんですが、藝大に行けるとは思ってなかったですね。藝大出身のスパルタな先生がいて、そのかたに絵を教え込んでもらったんですけど、全然自分の絵に自信がなかったです。高校3年生まで安定を求めて美術の先生になろうとしていました。でも、先生になる勉強ってカリキュラムなんですね。やりながらめっちゃ病みはじめちゃって。
ー刺激がなかったんですね。
こたお:「タギらないな…。」って思いながらやってました。先生コースの隣で藝大コースの授業もやっていて、気分転換に受けてみたんです。そしたら自分の抱え込んでいたものがブワーッとドローイングに出て、勝手に絵をぐわーって描いてました。「私は何か表現したかったんだな」ということに気がつけたんです。
ー漫画家のお母さんからのアドバイスとかはあったんですか?
こたお:お母さんは私がどんな道に進んでも応援してくれる人だったので常にサポートしてくれていました。だけど、現役合格となると受験倍率は100倍くらいという冒険的受験なので、親族のほとんどには藝大は反対されましたね。そんな中、一番協力してくれたのがスパルタの高校の先生でした。
ーその先生は担任の先生だったんですか?
こたお:担任ではなくて油絵の授業の先生だったんです。めちゃくちゃ厳しくて、筆の洗いがちょっと甘いと「お前もう絵を描かなくていいよ」って言われるくらい。めっちゃ怖くてよく泣かされてました。
ー今どき珍しいタイプの先生ですね。
こたお:その先生が唯一、「こたおは絶対に藝大に行った方がいい」って言ってくれたんです。そういうことを言わない先生だったんですけど。意外でした。私は自分の絵に自信がなくて、かと言って、上手く描ければ入れるような場所でもないんで。
ーその先生がこたおさんの可能性を信じてくれた理由はあるんでしょうか?
こたお:めちゃくちゃ病んでる時に、「エクトプラズム博士」っていう長靴からエクトプラズムが出てるっていう作品を描いたことがありました。その時、一番メンタル的にどん底にいたときに描いた作品なのですが、それからだんだん自分の絵が描けるようになってきたんです。その変化を見てくれていて、先生は「コイツはイケる」って思ってくれたみたいですね。
ー素敵な恩師に巡りあえたんですね。
こたお:藝大へ行くって博打だし、落ちたらどうしようという不安があったんで。浪人してでも行く価値はある学校だとは思ってました。でもやっぱり怖かったです。「何がなんでも藝大に行って欲しい」って強い瞳で言われたことがあるんですけど、それがなかったら、挫けてたかもしれないです。
ーで、結果合格したと。
こたお:塾の先生にも支えられました。受験して、塾に戻ってから涙止まらなかったですもん。絵が上手くいってない時、お腹が痛くなるんですが、ずっとお腹が痛くて、苦しみながら受験したので。本当支えてくれた人たちに感謝です。奇跡みたいなもんです。受験はすごいストレスでしたよ(笑)。

友沢こたおは幸せになりたい

ー藝大に入ってからのこたおさんの話も聞かせてください
こたお:入ってからも怖くて仕方なかったですね。周りもうまい人ばかりで、とんでもない精鋭たちが集まっていることを考えたら思い詰めちゃって。また絵が描けなくなっちゃいました。そんな中で、「藝祭」という文化祭みたいなものがあるんですけど、何か作品を出さないといけないんです。しばらく絵からは離れてインスタレーション作ったりしていたんですが、「藝祭」をきっかけにまた絵と向き合ってみようと思うようになりました。
ーその時、何かモチベーションみたいなものはありました?
こたお:私、『ゆきゆきて、神軍』という原一男というドキュメンタリー監督が撮った作品が好きなんですけど、それを見直したりしてました。
ーすごい作品のチョイスですね。
こたお:その中ではものすごいことが行われているわけですけど、カメラの前という人間の心理状態もあるなかで、ヒリつくようなやりとりがあって、デスマッチと同じように体の芯から熱くさせられるようなものがあったんです。
ー“こたおセンサー”が反応したんですね。
こたお:絵でもそういうものが作りたいと思ったんです。その時に自分がスライムを被ったことを思い出して、描いてみようと思ったんですね。
ーなるほど。記憶で描いたわけではないですよね。
こたお:自撮りはいっぱい残っていたのと、新たにピンクのスライムをいっぱい買ってきて、お母さんに撮ってもらって描いたのが『スライム1号」です。

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ー黒いスライムではなくピンクを選んだのは理由があるのですか?
こたお:その時はひどいセクハラされた時だったので、女としての怒りみたいなものが沸いてたからですね。めっちゃその絵が良いいんですよ。
ー今でもいい作品?
こたお:今でも。越せないんですよね。完璧に近い。
ー話を聞いていると、怒りや苦しみみたいな、感情の葛藤からこたおさんは作品を生み出していると感じたんですがいかがでしょうか?
こたお:それが原動力ですね。一枚一枚、自分の感情をそこに注ぎ込んでいるので、絵を見ると自分の精神状態だったのか、そういうものが鮮明に分かりますし、思い出せます。
米:幸せになると、絵が描けなくなる?(笑)
こたお:そんなこともないですよ。幸せな時は幸せなスライムが描けます(笑)。
米:赤いスライムは結構幸せな時?
こたお:あれは、米さんが誘ってくれたPACさんとShikiちゃんとの三人展の時で、二人に負けたくないという情熱の感情ですね。幸せな時も少ないですけどね。だからレアではあります。

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ー幸せが少ないなんてそんな(笑)
こたお:描き始めはめちゃくちゃ幸せなのに、描きおわり超不幸みたいなのもあります。
ー二面性があって、作品としては深みがありますね。
米:いちばんしんどかった時は?
こたお:心の叫びがそのまま絵になってる。
米:こたおが悩んでる時は、姿勢から全然変わるもんね。前屈みになって。
こたお:「こた婆(落ち込んでいる時の背中が曲がった状態)になってる!」って色々な人に言われたもんね(笑)。
ー感情表現が素直というか。勝手に思い描いていたイメージとは真逆です。
こたお:すぐ顔と体調に出ちゃうんですよねえ。
ースライムをかぶるのは基本いつも自分なんですか?
こたお:自分が多いですけど、最近はかぶりたいという不思議な友人がいて、出てもらってます。一番多く登場しているのは人形のルキちゃん。小さい頃は直視するのはちょっと怖かったんだけど、「イイフォルムだな」と思って。フランスのアンティークなのか良くわからないけど、赤ちゃんの頃から一緒にいます。
母と子、宇川直宏との繋がり、米原康正との邂逅
ー苦しみながらも描き続けて、今や空前のこたおブームというか、人気作家として注目を集めていますが、心境を聞かせてください。
こたお:恐縮ですし、今でも全然怖いですよ。ありがたいことですけど。謙虚にやっていきたいです。そして何より、描いてそれをちゃんとお金に換えるという大切さというか、好きなことで食っていくことは過酷ですけど、それ自体がモチベーションになっていますね。だからずっと手は止めてないです。
ーこたおさんがブレイクスルーした作品とか展示って明確にあったりしますか?
こたお:SNSで反響があったのは3331Arts Chiyodaで行われた進級展「Remix」で出した大きな作品ですね。そこから普段アートを見ない人たちが展示を見にきてくれたり、認知してもらえた気がします。米ちゃんに出会ったのも去年の11月くらいで、米ちゃんがアート業界の有名な方やアートファンに紹介してくれたのも大きかったです。
ー米さんは昨年から確かにこたおさんの布教活動というかプッシュしていたと記憶しています。米さんはどうやってこたおさんを見つけたのですか?
米:最初はね。宇川くん(現代美術家・DOMMUNE 主宰 宇川直宏)とやりとりしていたのがきっかけだね。こたおは宇川くんとこたおのお母さんとバンドやっているんだよ。
こたお:宇川くんはお母さんの田舎の後輩なんです。
米:宇川くんに「誰このコ!?」って聞いたら教えてくれたんだよね。そこからこたおに「宇川くんからの紹介で」ってメッセージしたのが始まり。
ー宇川直宏と米原康正という、カルチャー界の重鎮たちを動かす友沢こたお、すごいですね。
米:宇川くんも「あのコは天才だよ」って言ってて。二人で盛り上がったのを覚えているね。
こたお:恐縮ですよ本当に。ありがとうございます。
ー宇川さんとどんなバンドをやっているんですか?
こたお:PRIVATE LESSONS (小鳥こたお × 友沢ミミヨ × 宇川直宏)では、私はデジュリドゥを吹いて、宇川くんはモジュラーシンセ、お母さんは大正琴を弾いているんです。年に一回、ライブをやっているんですけど、最近はコロナでできてないです。
ー異色づくしで、脳の認識が追いつかないです(笑)。
こたお:中学生の頃にDOMMUNEで一般のプロレスファンとしてプロレスを語らせてもらいました。
ープロレスを切り口に、DOMMUNEにも接続しているんですね。すごい。プロレス以外で、今のこたおさんを形作る上で大きく影響したものはありますか?
こたお:映画は大きいです。先ほど話した『ゆきゆきて、神軍』もそうですし、ミヒャエル・ハネケ監督の作品からも影響は受けました。ハネケの映画はお手本のような存在です。身近にある不条理みたいなものをポーンと遠くの視点から投げかける。それがグッとくる。ハネケを多感な時期にたくさん見たので感性の先生です。あとは花輪和一さんという、母が描いていたようなガロ系の漫画家さんの『月ノ光』という漫画。
ーそれらはお母さんを経由して触れたものですか?
こたお:そうです。母の影響もあって、ちょっと大人向けのアニメや漫画をよく観てたことはかなり影響していると思います。『クレクレタコラ』とか、アニメーターのテックス・アヴェリーとか。自然に触れてきたカルチャーが今の自分を作っています。基本的にオタク気質なので何かに夢中なんです。今はヒップホップに夢中です。
ー好きなヒップホップアーティストは誰ですか?
米:舐達麻とか聴いてたよね?
こたお:お母さんと一緒に聴いてました。最近はJin Doggが好きです。
ー感情を緻密に、生々しく描写するアーティストが好みなんですね。ヒップホップも確かにこたおさんの作品とリンクする部分があるかもしれない。
米:本気のバッドボーイたちの生々しい質感という意味では、観客の視点ではプロレス的な面白さもあるかもね。
こたお:それもありますし、舐達麻をちゃんと聴きなおしてみたらなんか心が通じるところがあったんです。悪そうなのがかっこいいとか、そういうんじゃなくて精神性でリンクした感じがしました。自分が何かに夢中だから、何かに夢中な人が好き。

「感情や感覚のせめぎあい。全ての出来事は私の絵になる」

ーこたおさんもそうありたいと思いますか?こたおさん自身を熱くしてくれた、たくさんのアーティストやプロレスラー、映画、漫画のように、誰かを夢中にするような。
こたお:それができたらめちゃくちゃ幸せです。プロレスラーに握手してもらったら、レッドブル100本飲んだくらい元気をもらっていましたし。これはすごい力なんですよ。だから自分も人にパワー与えられたらいいなと思って、高校時代にはアイドル活動もやっていました。絵に関しても色々な人たちが幸せになってくれたらいいですね。特にママを笑顔にしたい。いつも「あんた最高やん!」って言ってくれるから。
米:今、親子でもアートユニットやっているもんね。
こたお:『とろろ園』というのをママとやっているんですけど、母ながら、本当にアタマぶっ飛んでますね。そこに憧れるし、「イカツイな」と思いますね。母は絵はあまり描きたがらないけど、私は描ける、お互いの欲しいものをうまく補完しあって成立しているのが『とろろ園』です。親子だから気兼ねなく色々なことを言い合いながらできるし、母は「こたおの機嫌を損ねないように」って言っていたので気を遣ってくれているのかもしれないけど(笑)。私単体のものよりもパンクな要素がありますね。
米:実際に卒業後、どんな風にイメージしている?
こたお:いやわかんないんですよ。怖い。「どうなりたい?」とはよく聞かれるけど、私の方が知りたい。興味という点で言うと、大学院に行きたいとも思うし、海外で生活してみたいですけど。
ーこたおさんは基本、未来を恐れていますね。
こたお:先のことわからないし、怖くないですか?たぶん、失敗したくないんですよね。毎日不安ですよ。朝起きるのも怖いくらい。本当はいつも幸せな気持ちでいたいし、幸せになりたいというのが本音ですけど幸せ恐怖症なのかもしれない。気づいたら幸せから逃げている。苦しんだまま絵に向かうみたいな。だからこそ描けているという部分もありますね。
ー周囲から期待されている分、余計に不安も大きいのではないでしょうか?
こたお:プレッシャーに押しつぶされてますよ。絵も溶け込み系の絵だからさっきも言いましたけど精神性がモロに出ちゃう。
ー身体の芯の“こたおセンサー”が反応してそこから出てくるエクトプラズムがこたおさんの作品なんだなと思いました。“こたおシステム”の概要がなんとなく掴めてきましたよ。
米:内側からの魂が作品に注ぎ込まれるから、結構描き終わると疲れてるんだよね。
こたお:そうですね。でも、私は大丈夫ですよ?(笑)ぎゃあぎゃあ騒いでますけど、精神的にドロドロになってる人じゃないですからね(笑)。
米:そんな心配はしてないから大丈夫だよ。こうやってざっくばらんに話せるのは十分健康だと思う。
ー弱音は吐いて行きましょう。
こたお:そうそう。弱音は吐くけど、私、健康なんです。米ちゃんにも素直に話せるから助かってます。
米:見る側もこたおの作品ともなると、どうしても期待するからね。その期待以上のものを出さなきゃいけないって考えたら、本人のストレスは相当なモンだと思うよ。こたおにとって絵って、生活の中でどれくらいのパーセンテージを占めてるの?
こたお:100パーセント全部絵です。絵に生きてるんで休みとかないですよ。今日のことも全て生きてる上での出来事なので、私の絵の血肉になります。
米:俺も世の中ネタ探し、みたいな視点になっちゃうもん。
こたお:ちょっとカッコつけたかも(笑)。テキトーな時めっちゃあるし。
米:そりゃテキトーな時は誰だってあるけど、こたおは俯瞰して自分を見れるじゃない。それがアーティストにとっては大事な視点。それと、ここしかない!っていう主観的な部分。両方必要なんだよ。
こたお:確かに。私の作品は視点としてはすごく遠いけど、スライム自体は目の前で起きてる事象と、感情や感覚の激しいせめぎあいなんです。とにかく、自分はまだまだ子供で無知だなと思うので、世界を知りたい。もっと賢くなって、それを絵に活かしたい。今は手探りでやっている感じです。それが消化されないまま、次から次に作品を描かなきゃいけない状況なので、そういった焦りはあります。もっとインプットしたい。
米:今年どこか旅行には行ってたね。
こたお:友達が住んでる福岡の島に行ってました。楽しかったです。もっとそういうことしたいですね。
ーどこかに行く、違う景色を見るというのは単純に視野を広げてくれるし刺激になりますね。今回はWATOWA Galleryの運営するelephant Galleryで、米さんがキュレーションしたグループ展「属性 / 魔性 (Attribut / Femme fatale)」 に参加しています。見どころを教えてください。
こたお:今回は大きな作品を出しています。130号(1,940×1,620)サイズですね。
米:どんどん大きくなるね。
こたお:大きいキャンバスに描く方が好きです。
ー展示自体はどんな感じなんですか?
米:タイトルの通り、目を奪い、惑わせるような作品展だね。作品を目の前にして立ち尽くしてしまうくらいの。「Femme fatale(ファム・ファタール)は男にとっての「運命の女」が元々の意味だけど、転じて「男を破滅させる魔性の女」を意味する。そんな魅惑的な展示にしたいね。
ー最後に、こたおさんが実現したいと思うことを教えてください。
こたお:自分の絵を見て文句言いたくなる時が多々あるけど、文句を言えないくらいすごい絵を描きたい。とは思いつつ、死ぬまでそんなこと言い続けている気がする。
ーということは絵を描くことはやめることはない?
こたお:と、思いますよ。私、すごい視野が狭いので、目の前のことに必死なんですよ。今ほんと必死すぎるから、余裕を持たせたいのと、その中で新しいことをどんどん続けて行きたいかな。スライムも色や描き方を少しづつ変えていたりキャンバスの大きさを変えたりしているんですけど、大胆な挑戦はどんどんしていきたいし、更新し続けていきたいです。
喜怒哀楽の感情のデスマッチから生まれるスライムは、友沢こたおの芯から捻り出されるエクトプラズムだ。形と色を変えながら、友沢こたおの心を映し出す。苦しみもがき、怒り、感情の軋轢から生み出されるその作品には、血が通っている。だからこそ見る者の心を掴み、魅了するのだ。
この令和の世に似つかわしくない、スポ根ドラマのような血と汗と涙の結晶が友沢こたお作品と言っていいかもしれない。友沢こたおは鉄血のアンドロイドなどではないし、天才肌のライバルでもない。迷い恐れながらも、立ち向かっていく無骨で暑苦しい生き様は、どちらかと言えば王道漫画の主人公のようだと感じた。

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at WATOWA elephant gallery 「属性/魔性」

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Text:Tomohisa Mochizuki
Photography:Yasumasa Yonehara

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