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本は毒にも薬にも【死にたい夜に効く話.30冊目】『自分の中に毒を持て』岡本太郎著

本は毒にも薬にもなる。

一冊の本で救われたと思えることもあれば、人生を大きく変えてしまうこともある。
それがいい意味でも、悪い意味でも。

あの年齢で、あの本に出会わなければ、きっと人生は変わっていた。

振り返ると、そんな経験がいくつもある。
軽い気持ちで読んでいただけなのに、いつの間にかそんな分岐がいくつもあったのかと思うと少し恐ろしい。

世界の見方を変えてしまう。
生き方そのものを変えてしまう。

今日はそんな劇薬本を。


『自分の中に毒を持て』


いい本からは、書いたその人の声が聞こえてくるような錯覚が起きる。

読んでいると、岡本太郎の圧というか、エネルギーというか、そんな何かが一気に押し寄せてくる。

優しくなんてない。でも決して突き放してない。
何とも厳しい。でも説教じみてるわけじゃない。

「この雰囲気は〇〇っぽいな」「この文章は○〇が書くのに似てる」
そんな感想は一才出てこない。

岡本太郎は岡本太郎。
唯一無二。以上。

 人生に挑み、ほんとうに生きるには、瞬間瞬間に新しく生まれかわって運命をひらくのだ。それには心身とも無一物、無条件でなければならない。捨てれば捨てるほど、いのちは分厚く、純粋にふくらんでくる。
 今までの自分なんか、蹴トバシてやる。そのつもりで、ちょうどいい。

岡本太郎『自分の中に毒を持て』青春出版社、2017年、p.11


長いものに巻かれておくことも時には必要よね、と学んでしまった今の自分。

うっかりぼんやり生きてしまいそうになるところを、発破をかけられる。おっと、いけない、いけない、と背筋が伸びる。

ここで、「その感じ、ちょっとわかるかも」と思ったエピソードを一つ。

 先年、東京のデパートで大規模な個展をひらいた。ある日、会場に行くと、番をしていた人が面白そうに、ぼくに近づいて来た。にやにや笑いながら報告するのだ。混みあった場内でもちょっと目に立つ女性が、二時間あまりもじいっと絵の前に立っていた。そのうちにポツンと、
「いやな感じ!」
 そう言って立ち去った、という。
 報告しながら、相手はぼくの反応をいたずらっぽくうかがっている。さすがの岡本太郎もギャフンとするだろう、と期待したらしい。ところがぼくは逆にすっかり嬉しくなってしまったのである。

同書、p.197


本でも、絵画でも、どんな作品でも、言葉にならない自分の奥の方に響く作品は、ゾワっと本能的に「これはヤバい」とわかる。鳥肌が立つ。

そんな嫌悪に似た感覚を抱きながらも、この作品を(作者を)生きているうちに知れてよかったと心から思うのだ。

自分を変えてしまうような劇薬本に、あらゆる作品に出会いたい。

まぁ、人との出会いに縁があるように、作品との出会いも縁だ。
こればっかりはどうしようもない。


さてこの本は、誰かにとっての薬になるのか、あるいは毒になるのか…。


〈参考文献〉
岡本太郎『自分の中に毒を持て』青春出版社、2017年

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